ありがとう(以下略)

 三日ぶりに見る従兄弟は、酷くやつれていた。自分の姿を認めると微笑んで手を振る。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。忙しくて泣く暇もないって本当だねえ」
 自販機から受け取ったホットレモンを手渡す。吹き冷まして一口啜り、熱、と、舌を出して笑う。
「どうなった」
「とりあえず、当座はお父様と僕で分担して業務を進める形かなあ。多分、僕が後を埋めることになるんだろうけれど」
「妥当だな」
「僕はキンちゃんでもいいと思うんだけど」
 ゆっくりかぶりを振る。もうあの椅子に興味はない。
「……弔辞、断られちゃった」
「誰に?」
「みんな。島にいたみんな」
 大分ぬるくなったホットレモンを啜る。
「分かるんだよね、断る気持ち。今思い出せば、辛くて悲しくて、泣いちゃうじゃない。だから、きっとみんな思い出したくないんだと思う。何も考えたくないんだと思う。それを無理やり思い出して、さらに五分以内のスピーチの形にまとめなさい、って、ちょっと酷だよね」
「そうかもな」
「でも、僕は思い出しちゃうんだ」
 紙コップを握る手に力がはいる。
「写真選ぶためにアルバム見返したり、お棺に入れるもの探しに部屋に入ったり、列席者の名簿作るために昔の学籍表見たり、そういうことするたびに思い出すんだ。僕ね、全部覚えてる。思い出は全部覚えているよ。忘れないようにしてたもん、どんなことだって忘れないようにしてたもん。お父様…あの頃はおじ様だったけど、一緒に連れて行ってもらった旅行や、毎年やってた食事会や、入学式や、全部覚えているよ」
「確か、二日目に雨が降ったんだよな、伊豆の旅行」
「……」
「食事会に、あいつが後輩を連れてきたことがある。単に先輩風吹かせて、いいカッコしたかっただけなんだろうが、お前はやたらむくれていた。入学式は……ああ、ここまで来ると記憶が曖昧だ。すまない」
 肩にもたれかかるようにして、すすり泣きはじめたグンマの頭を抱き寄せた。酸化しはじめた整髪料とタバコの匂いが、ほんの少しだけした。

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