ありがとう(以下略)

 遅れた、と、一言言ってそのまま歩き出した。
「しょぼくれとるのぉ、どいつもこいつも」
「年寄り連中だけっちゃね、元気なのは」
 彼が一歩で歩くところを、一歩半で歩く。自分が酷く生き急いでいるような気がする。
「これ、目ぇ通しときんされ」
「おう。すまんの」
 ばらばらと本当に目を通すだけという感じで、書類をめくる。
「あんたもいつもと変わらんっちゃね」
「みんなそうじゃろ」
「なんかな、またひょっこり生き返ってくるような気がするんだがや」
「ああ」
「そんなワケあらせんがぁ。だぁれも、また会おうなんて約束せんかったっちゃもん」
「してたら、戻ってくるんかのぉ」
「あん人、約束だけは破らんかったがや」
 約束しないことは、全部知らぬ振りだったけれども。だから、誰も約束なんかしなかったけれども。約束したかったことなんか何もなかったけれども。
「……なして、誰も約束せんかったんかな」
「さあなぁ」
 本当は、何よりも大切なことを約束して欲しかった。

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