ありがとう(以下略)

 全部分かっていたのかも知れない。僕が何を考えているとか、僕がどうしたかったかとか、そういうのを全部分かっていたのかも知れない。いや、分かっていない振りなんかしていなかった。でも、分かっている素振りも見せなかった。
 だから僕は、分かっていないんだとばかり思っていた。
 本当は、僕が分かってほしくなかっただけなのかも知れない。
 分かって、その上で僕を親友と呼ぶなんて、あまりに辛い仕打ちだったから。
 でも。でも本当は。僕の気持ちが分かっていて、それでも親友面していた僕を受け入れて、上っ面でミヤギを騙してばかりいた僕を全部認めてくれた、そんなミヤギのほうが辛かったのかもしれない。
「な、言うことねぇんかな」
「……あんな……」
 言いたいことはいっぱいある。なんて伝えようか、どんな言葉なら全て伝わるのか、何度も何度も考えて、全部、脳の奥底に仕舞ってきた。その中から一つ選んで、選びきれないなら全部ぶちまければいい話だ。
 好きだ、ずっと一緒にいたい、自分のものになって欲しい、もっと強く触れ合いたい。
 ミヤギがいれば何もいらない。
「ミヤギくん!」
「……時間切れー」
 振り向いたミヤギの笑顔は、多少やつれてはいたけれども、全くいつも通りの綺麗な笑顔だった。礼帽を振りながら、後ろ向きに階段を下りる。段を踏み外してよろめいたのを機に、前に向き直って、三段飛ばしで駆け下り始めた。道路に下りると、短距離走のような勢いで走り始めた。どこまで進んでも、その金色の光だけはよく見えた。
 すごく軽快な走りだった。今まで何度もミヤギの走る姿を見てきたけれども、初めて見る飛ぶような走りだった。このままミヤギはどこまでも走っていけるのかもしれない。目的地もゴールもなく、光の速さで宇宙が膨張し続ける限り、ミヤギの進む先に果てはなくどこまでも走っていける。もうミヤギには追いかけるものなんて何もないから。一緒に走るものも誰もいないから。本当に自由に、どこまでも走っていけるのだろう。
 それを僕はずっと見送っていた。もう、手も声も届かない。一緒に過ごした時間も、思い出も、何も意味がない。時間は光を越えられない。
 僕はたった一度のチャンスを永遠に逃した。そして、シンタローの死亡報告を聞いてからはじめて泣いた。

 まだミヤギになんと言うべきなのかを決めかねていた。

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