一番長い日
そのに アラシヤマの野望

「ミヤギはん……」
「おわっ!なんだべ、アラシヤマ」
 存在に気付けば異常に存在感があるが、気付くまで無気配なのが気持ち悪い同僚がいつの間にやら後ろに立っていた。
「今、お暇でっしゃろか?」
「めちゃくちゃ忙しいべ」
 意地でも残業などしてなるものか。出来るなら明日休みを取りたいし(まあ、理由はゴニョゴニョ)、向こう三日分の仕事を今日片付ける勢いで、ミヤギは走り回っている。
「はぁ……そりゃ残念どしたわ。昼食でもご一緒させてもらお思うてたんやけど」
「なして?」
「誕生日でっしゃろ。お祝い代わりに奢らせてもらおうと……」
「奢ってくれるなら行くべ」
 煮干で誰にでも寄っていく猫同然である。軽くスキップしながら食堂に向かうミヤギの後姿を見つつ、アラシヤマはほくそ笑む。
(作戦成功どす……!)
 よくよく考えると、アラシヤマに『ごく普通に』接してくれるのは、団内でもミヤギやコージなどの一握りの『お前本当に軍人か』っつーくらい人懐っこいタイプの人間だけである。もちろん、心友の野望は捨てちゃいないが、もっと他に手を広げて悪いなんてことはあるまい。
(単純なミヤギはんのことや。こうやって餌付けして、慣らしておけば……)
 パブロフの犬的に、アラシヤマを見ただけで喜んで寄ってくるようになるかもしれない、と。そう上手く……行きそうなのが怖いのが、『ミヤギ相手』というものである。
 食堂メニューで、いつもは端っから除外している高いメニュー表のほうを、ミヤギが楽しそうに見ている。
「どれでもよろしゅうおすえ〜。お祝いやさかいに」
「あんがとなー、アラシヤマ!」
 よっしゃあ、ニコニコしてる!
「デザートもつけなはれ〜」
「ほんとだべか!?」
 オッケー、目がキラキラしてきた!っツーか、ファミレスで浮かれる子供か、こいつは。
「あ、でもオラ、蕎麦でいいべ」
 がく。
「な、なして蕎麦ですのん!?(かけそば150円) ステーキ定食でも何でも……!!(ステーキ定食750円)」
「オラ、今晩、スンタローに飯さ連れてってもらうンだべ」
「……何どすって?」
「腹いっぱいになって食えねえと困るべ?だから控えとく」
 シンタローと……食事に……普段であったら、『抜け駆けしおって、この顔だけ阿呆』となっただろう。しかし、なぜか今は『自分より他の者を優先した』という嫉妬が沸き起こっていた。
「……ひどいっ!ひどすぎますえ、ミヤギはん…!」
「ひ、ひどいて……」
「せっかくわてが、ミヤギはんのために安給料の中から奢ってやろう思うとるのに……ミヤギはんはこの気持ちを踏みにじるんどすな!」
 安給料って、お前、高給取りだろ、結構。
「ふ、踏みにじる気はねえけんどもー……そっだら、またの機会に……」
「誕生日に奢ってあげる、ゆうのンが意味あるんどすえ!ツメに火をともす思いで日々節約し、貯めたぜぜこで、ミヤギはんがこの世に生まれてきたことを祝ってあげたい!わてがどんな思いで今日を待ち望んでいたか……!」
 んまー、よくもこう、ぺらぺらと……
「わ、分かったべ!そっだらオラ、しゃぶしゃぶ定食(650円)がいいべ!」
「……ほんまどすか?」
「んだべ。オラちょうど、食いたかったンだべ」
 何でこう、見え見えな泣き落としに引っかかるのだろうなあ……アラシヤマは自分で仕掛けておいて、ちょっと呆れた。

「おいしゅうおますか?」
「ん、んだ……おめは、うどん(150円)でええんかい?」
「ミヤギはんに奢って、金があらしまへンのや。ほれ、ケーキも食べなはれ、ほれほれ」
「ううう……」
 意外とボリュームあるぞ、しゃぶしゃぶ定食。オマケに異常に恩着せがましいし……でも、またあんな悲劇ぶられたらたまらないし……ミヤギは必死に口に詰め込んだ。
 アラシヤマが、有り得ないほどのニコニコ顔でそれを見ている。よっしゃあ、餌付け第一回成功どすえー、とか思ってるに違いない。

 ……方向性は間違ってないが、手段間違ってるんだよなあ、この人は。

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