一番長い日
そのさん ハーレムの置き土産

 もたれ気味の胃を抱えて、ミヤギが廊下を走っている時だった。どちらの前方不注意なのかは、さだかではない。
 どすん。
「……ぶ」
「お?なんだぁ?」
 曲がり角で激突。古典的少女漫画シチュエーションである。
「は…ばーえうさま……っ!」
「いかにもハーレム様だけどよ。なんだ、急いで。お前もう幹部だろう、もう少し悠長にしてな」
 仕事してんのかしてないのか、ともかく本部にいる時は、ひたすらだらだらしているハーレムは、いかにも『パチンコ帰りです』という紙袋を抱えて立っていた。
「すんません、急いでるンだべ。そんじゃ……」
「あー、待て待て。なんだお前、今日誕生日か?」
「な、なして知ってるンだべ!」
「……IDの中四桁が誕生日だって知らねえのか?」
 研究棟に行くため、胸に着けていたIDカードの数字に目を落とす。確かに中の四桁が、『0112』だった。
「……気付かなかったべ…十余年……」
「……おーい、バカがいるぞーーー」
 げらげら笑われて、思わず赤くなる。この人物はどこかシンタローに似ている。実際の血は繋がっていないといえど、親戚というものなのだろうか。
「そうか、ミヤギちゃんも一つ大人になったか。いやあ、士官学校の頃から知ってるけどよ、こんなにでかくなるとは……でもちいせえな、わははははは!」
「ち、ちいさくねえべ……」
 がしゃがしゃと頭を引っ掻き回される。そりゃハーレムから見ればつむじを見下ろす身長だが、一般基準で言えば十分長身だ。
「そっだら、オラ失礼させてもらうだ。グンマとキンタローに用があるンだべ」
「まあ、待て。おじさんがお祝いにいいとこ連れてってやるから」
 がっと襟首を掴まれる。
「オラ、急いでるンだべー!」
「まーまーまー、一時間くれえだから、な?な?」
「おわぁ!何すンだべさーーー!」
 軽々と肩の上に担ぎ上げられ、ミヤギは拉致されていった。

「………」
「どうした、楽しくねえのか?」
 ちゃーんちゃらっちゃー、ちゃらら、ちゃーらちゃーらちゃーん♪
 運ばれてきたのは紳士の社交場、タバコの煙渦巻くパチンコ屋である。まだ打つのか、このオッサン。5000円のカードを手渡され、問答無用で席に座らされた。
「パチンコやったことねえのか?」
「いや、そんくらいあっけど……なして……」
「人の奢りでパチンコってのも乙なもんだぜー。心が安らぐぞー。自分の懐が痛まないもんなー。まあ、俺は自分の懐じゃなくて隊員の懐使ってるけどな」
「横領してるって話、本当だったんか!」
「人聞き悪いこというなあ!借りてるだけだぁ!」
 返す気ないくせに。ミヤギはため息をついて、華やかなパチンコ台に目を移した。回りはそこそこである。
「おめえは、ずっとガンマ団にいんのか」
「……あんだべ、いきなり。別に転職は考えてね」
「ま、ガキの頃からシンタローの後ろでちょこまかしてたもんなあ。これからもずっとそうすんだろ?違うか?ん?」
「お、大きなお世話だべ!別にうろちょろなんか……」
「俺は近々出てくよ」
「……なして」
「横領バレたから?」
 にやりと笑う。きっとそれだけではないのだろう。しかし、そこまで首を突っ込むべきではないと思った。
「あいつもなあ、総帥気取ってるけど、まだまだひよっ子だ。おじちゃんの目から見りゃあ、危なっかしくてしょうがねえ。兄貴に似てんのか、何でも背負い込みがちだしな。お前みたいなヤツが側にいてやってくれると助かる」
「………」
「何もしねえでも笑ってくれる奴ってのは、貴重なもんだ。甘やかしてやってくれ」
「……分がった」
「そうか、ありがとうな」
 ぶつかり合う金属音と電子音の中、その声だけがはっきりと聞こえた。
 ぴろぴろぴろぴろぴろぴろりーん♪
「あ?」
「お!確変入ったじゃねえか!」
「か、確変って、オラはまだ仕事が……!」
「うるせえ!確変放置して帰るようなパチンコ打ちは俺が認めねえ!終わるまで打ってけ!よーし、まだ若いもんに負けてらんねえな!」
「えーーーー!?」
 騒々しいパチンコ店内に、ミヤギの悲鳴がこだまする。

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