一番長い日
そのご キンタローの心遣い
| トリ次郎を振り払いキンタローの研究室につく頃には、ミヤギの息はすっかり上がり、日は落ちていた。 「どうした、青い顔をして」 「……なんでもねえべ」 お前の従兄弟が作ったロボット犬に押し倒されそうになって、必死で逃げてきたんじゃ。文句を言ってやりたかったがぐっと堪え、新型機の動作検証報告書を受け取る。 「そっだら、オラは帰るべ……」 「辛そうだぞ。茶でも飲んで休んでいかないか」 まあ、茶の一杯くらいなら。整然とした部屋の片隅にある来客用ソファに、ぐったりと身を埋める。 「あー……今日は散々だべ」 「なにかあったのか?」 「……なんも」 こいつも自分が誕生日だと知れたら、ヘンテコなもの押し付けてくるのではなかろうか。目を逸らしつつ、コーヒーを受け取った。 「今日は……1月12日か……成人の日、は、昨日か」 「だから、なんでもねえっつとるべ」 「いや……たしかなんかあったはずなんだが……」 額に指を当て、じーっと考え込んでいる。 「なんだ?確か祝い事のような……」 「(……ギク)」 「ああ。お前の誕生日じゃないか」 「だから、なして知ってンだべ!」 念のため、IDも外しておいたのに。 「いや、『前』の記憶がな」 そういって側頭部を指で叩く。シンタローと同じ体にいたころの記憶はちゃんと持っているらしいが、半分夢を見ていたような状態で、部分部分がはっきりしないそうだ。 「おめでとう」 「……あんがと」 「………」 「あんだべ」 「……他に何かあったような気がするんだが」 「(ギク)な、何もねえべ。そんじゃ、オラ用事さあるから……」 がし。 「まあ、待て。もう少しで思い出せそうだ」 うひーーーー。キンタローに腕を掴まれ、ジタバタと暴れる。 「なんでもねえべ、なんでもねえべー!シンタローは別に何も……!」 「……それだ」 思い出した、というように、ミヤギの腕を引き、腰に手を回す。ワルツを踊るような格好になってしまった。 「確か、こうで……」 足を引っ掛けられ、体重をかけられる。思わず、ソファに倒れこんだ。 「あいてっ!」 「こうだ。そして……」 「わーーー!タイムタイム!ちっと待つべーーー!」 顔を近づけてくるキンタローの肩を押し返す。 「どうした。誕生日にはこうしてたんじゃないのか」 「そ、それはアレだべ!し……シンタロー…さん、のことだべ!なしておめがすンだべ!」 「俺もシンタローだ」 う。 確かに、これまでの人生の90%近くが同一人物だったのだ。体格もほぼ同一だし(手の大きさまで同じだ)、ちょっとしたクセとかも同じ。おまけに、24年間の記憶を(うろ覚えに)持っている。 「何か変なことを言ってるか?」 「へ…変だべ!っつーか、やめろって、ばかたれー!」 強い力で押さえ込まれそうになって、身を捻って逃げようとする。こんなときの強引さも似ているかもしれない。 「ちょ…っ!待てって……あ……!」 あーあーあーあー…… シュッ! 唐突に自動ドアが開く音がした。 「あー、ミヤギー。犬がいらないなら、このデジカメ(自爆機能付)を……」 うわあ、最悪。 ノックもせずに入ってきたグンマに、一瞬時が止まる。 「……なにしてるの?」 「ああ、グンマ。いや、こいつが誕生日だからな……って、うおっ!」 ガンッ! グンマが手にしていたやたらごついカメラを投げつける。見事、キンタローの額にジャストミートした。 「ぶわあぁぁ〜〜〜〜ん!!キンちゃんがそんな人だなんて、思ってなかったよ〜〜〜!ひどいよぉ〜〜〜!」 「くっ……って、そんな人ってどういうことだ!?」 「キンちゃんがー!一族の立場利用して団員手篭めにするような人だなんて思ってなかったよーー!」 「ち、違…!何を勘違いしてるんだ、グンマ!俺はそういうつもりなんか、これっぽっちも……」 「そういうつもりじゃなければ、なんなんだよーー!うあ〜〜〜ん、高松ぅ〜〜〜!キンちゃんがーーー!」 「だってな、シンタローはいつもこうやって……!」 「シンちゃんがどうだからって、何の関係があるのさぁー!うわーん、ミヤギがかわいそうだよぉ!キンちゃんのバカぁーーー!信じてたのにぃーーーー!」 「ぐ、グンマ?グンマ、落ち着け、ちょっと待て!そのカメラのそのボタンは……!」 ミヤギは痴話喧嘩が始まってすぐに部屋を逃げ出していた。だから、その後の爆発音の正体は知らない。 |