一番長い日
そのろく ロッドの過ぎた親切

 まずい、非常にまずい。
 既に待ち合わせの時間まで十分しかない。あのあとも、部下がプレゼント持ってきたりだとか、脂ぎったセクハラ将官に指輪押し付けられそうになったりだとか、ピンチを切り抜けてきたせいで、こんな時間である。一旦部屋に帰ってシャワーを浴びて着替えようと思ったのにそんな暇もない。制服の上にコートを羽織って、ひたすら駐車場まで走る。
「あっれーー?そこで慌ててるのは、誰かなぁ〜〜〜?」
 ……ンゲェッ!?
 特戦部隊だ。しかも最悪なことに……出来上がってる。本部内で酒盛りしていたらしい。一番ぐでんぐでんらしいロッドがふらふらとこっちに寄ってきた。
「なーに走ってんのぉ〜?東北美人ちゃん。廊下を走っちゃ駄目だろぉ?」
「わ、悪かったべ……ちょっくら急ぎの用事で……じゃ!」
「まーった!ストーップ!待てってば、ミヤギちゃぁん」
「んぎゃーー!抱きつくんでねえー!」
「ロッド、絡み酒もいい加減にしろ」
「ンだよー、妬いてんの?マーカー。まあまあ、いいじゃん、今日こいつ誕生日なんだってよ」
「だから、なんで知ってンだべーーー!」
「隊長に聞いたんだよー。そうかあ、一つ大人になったのかー、かわい子ちゃん」
「やめー!酒くせえ顔近づけんなあ!何とかしてけれ、この人ー!」
「(無視)」
「(沈黙)」
「……あんたらやっぱり非情冷酷の特戦部隊だべ」
「成人の日に一つ年をとるなんて、感慨深いなあ、うーん」
「成人の日は昨日だべ!あーもー、放せーー!オラは、どうしても行かなくちゃならねンだべー!」
「よし、ロッドお兄さんがプレゼントをやろう!」
「いらね」
「即答したよ。まあまあ、ミヤギちゃんにまた一つ大人への階段上らせてあげるからさぁv」
「オラをいくつだと思ってンだべ、とっくに登りきってるべーー!」
「いやいや、この世にはもっと広い世界があることを知るべきだ!うん!」
 上背のあるロッドに伸し掛かれ、ミヤギはジタバタ暴れ続ける。それを軽くひょいっと抱え上げられた。お姫様抱っこの格好で。
「ぎゃーーーーーーーーー!!!」
「よーし、目くるめく大人の世界へレッツゴーー!邪魔すんなよ、マーカー、G!」
「勝手にしろ」
「………」
「邪魔してけれーーー!酒飲み始めんな、ツリ目ーー!十字切ってンでねえべ、クマ男ーーー!」
 抱えられたまま、ロッドに傍らの小会議室に連れ込まれた。
 がちゃり、と鍵がかけられる。ミヤギは床に下ろされ、思わずあとずさった。認めたくないが、怯えている。生半可な抵抗をしてどうにかなる相手ではないことは、よく知っている。
「な、なにすんだべ……」
「まあまあ、別に痛いことしねえからさあv」

(ここから先は情景描写をすると裏行きとなるため、ドアの外にいるマーカーとGが聞いた会話のみ、お楽しみください)

『きゃーーーーーーーーーーー!!!???なんだべ、そのエグいのーーー!マンガみてえなの、それ、なんだべーーーー!』
『あーっはっはっは、ひどいなあ、ミヤギちゃんv まあまあ、ちょっとほらこっちにおいで?新しいテク教えてあげるからよv』
『知りたくねー!いらねー!ぎゃぁーーー、助けてくんろーーー!』
『怖がるなよぉv 慣れてんだろお、こんくらいv』
『怖いべ、それーー!そんなん初めて見たもんーーー!助けれけれ、トットリーーー!』
『あーもー、お友達なんか呼んじゃって可愛いなあ!苛めたくなるからやめたほうがいいぜぇv』
『やめ、やだべ、ちょ…っ!近づかねえで…!』
『怯えてんの?だーじょうぶだって、ほら、口開いて……』
『や!やだ、やだぁ……うっ………』

 がちゃり。バタバタバタバタ!
 目に涙をいっぱいため、口を両手で抑えたミヤギがトイレに駆け込むのを、マーカーとGは首だけで見送った。会議室から、よろりとロッドが出てくる。
「……なあ。まだ知らない世界ってあるのな……」
「二分、か」
 Gが腕時計を見て呟く。
「二分、二分ねえ……俺、30秒くらいかと思っちゃった……ふふふ…マーカー、膝貸してくんない?泣いていい?」
「死ね、イタリア人。功夫を怠るからこうなるのだ」
「うわあぁぁ〜〜〜ん!俺、自信なくしたあーーー!」
 泣き崩れるロッドの背中を、Gが叩いた。

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