一番長い日
そのなな コージの……?

 あのあとトイレで吐いた上に、歯磨きしに戻った時間ロスが痛かった。
 駐車場についたのは、待ち合わせ時刻をとっくに過ぎた後。もちろん、シンタローの車の影などあるわけもなく。
「……そげなぁ」
 遅れたのを待っていてくれるような人ではないのは重々承知している。おもわずミヤギは座り込んだ。
「うっく……」
 まずい。涙が出てきた。せっかくシンタローが食事に誘ってくれたのに。誕生日だとは気付いていなかった、きっとただの気まぐれだった。それでも、それでも……すごく嬉しかったのに。
「うえぇ〜〜……」
 『一つ大人になった』くせに、これしきで泣いてしまう自分が情けなかった。駐車場のど真ん中に座り込んで泣いているのを部下に見られたら、示しがつかない。それでも、涙が溢れて止まらなかった。せっかく、せっかくなのに。せっかく誕生日の夜を一緒に……
 キキィッ!
 車のブレーキ音。
「なんじゃあ!なにそんなところでしゃがみこんどるんじゃ、ミヤギ。轢いちまうとこじゃったぞ」
「……コージィ…」
「……どーしたぁ?」
 なんだか、さらに泣けてきた。

「そおか。約束しとったんか。残念じゃったのぉ」
「……いーんだべ、遅れたオラが悪いんだべ」
「しかし、少しゃあ待っちょればいいもんを、シンタローも短気じゃのぉ」
「ええんだって。ほれ、飲みさ連れてってくれンだべ」
 びーびー泣き出してその場を動かないミヤギを、仕方無しに助手席に乗せ、コージの車は宿舎への道をはずれて繁華街の方向へと向かう。
「ま、誕生日祝いじゃ、奢っちゃるけんの。何がええ」
「うーん、焼肉食いてえ。牛タン食いてえ」
「……狂牛病見つかったんしっとるか?」
「だから、和牛がええべ。牛タン食いてえべ」
「……うーむ」
「和牛!牛タン!あー、だどもこっちの牛タン、薄いンだべー。仙台はな、もっとこう分厚くってな、牛タン定食一つでこんだけあってなー。普通の焼肉屋だと、五人前は食わねえと牛タン食った気にならねえべ」
「まあ、わしもそんくらい食うがのぉ。ううむ……」
「あんだべ、もっと安いのにしろってか?せっかくのオラの誕生日に、安い肉でごまかすんか?」
「わーった!奮発しちゃるけえ、腹いっぱい食え!」
「えへへー」
 にくーにくーと、嬉しそうに笑い出したミヤギを横目で見て安心する。普段滅多に落ち込まない分、落ち込んだときには手がつけられない。肉程度で元気になれるなら、安いものである。
「……あ」
「どした?」
「止めれ!止めてけれ、コージ!」
「うおっ!なんじゃ、危ないのぉ!」
 ハンドルに掴みかかる勢いのミヤギを抑えて、路肩に車を止める。すぐさま助手席から飛び出したミヤギを追って、コージも外に出る。しばらく来た方向に走って、一台の路傍駐車の車の前で立ち止まった。
「どしたぁ?」
「……スンタローの車」
 指をさす。確かにシンタローの車だった。ナンバーも間違いない。
「この近くにいんのかな?」
「そうかものぉ」
「探すの手伝ってけれ、コージ」
「別にええが……」
「え?」
「焼肉はええんか?店、閉まるぞ」
「………」
 一瞬、ミヤギの目が泳いだ。焼肉が惜しいわけではなく……
「ま、ええわ。また今度奢っちゃるけえ。わしゃこっち探す。見つけたら携帯に電話する」
「んだ。そっだらオラ、こっちさ探すから……!」
 人ごみをすり抜けて走り出した。仕方ないだろう。小さくため息を吐いて、襟を立て、コージも走り出した。

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