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2007年12月 3日

誰かの願いが叶うころ

 百九十二訓ネタ。ヅラとさっちゃん。珍しく恋愛至上主義っぽい話。


 簡単な仕事だった。あやめが行うべきは渡された情報の裏を取るだけ。幕府の主導で多くの忍びが動き一月以上にもわたって手掛かりなしとされた事件が、これ程簡単に解決してしまうとは。
 小さく歯噛みする。
 あやめは変節した幕府により不要と切り捨てられたものの一部だ。死よりも惨い屈辱を受けたものの一人だ。
 それでも忍びは主を持たねば生きてゆけぬ。忍びは元より人外のもの。それが私利私欲に人を殺めれば、獣にすら劣る存在に成り下がる。故に、自らを捨てた城にあやめは頭を下げざるを得ない。そうでなければ、あやめは死ぬ。忍びとしての己が死ぬ。
 あの男も私と同じであるはずなのに。不要と切り捨てられ、屈辱に落ち、それでも自らの信念を捨てられず縋っている。
 攘夷志士、桂小太郎。
 私とお前は、何が違う。それが差なのか。忍びと侍の、差なのか。
 あやめは闇から闇へ泳ぐように飛んだ。


 するりと絹のような滑らかさで、あやめのしなやかな身体が天板の隙間から室内に滑り落ちる。
「突き止めたわ」
「だろうな」
 既に気配に気付いていたのか、部屋の主は顔も上げずに答える。忍びの気配を捉えるなど達人と呼ばれる者のさらに一握の為す技だが、あやめの気配を常に捉える『あの人』と肩を並べていたというこの男なら造作もないのであろう。
 眼鏡の奥の瞳を眇める。異形に変えられたその姿はひどく不自由そうだ。刀を満足に振るうのも難しいのではないか。しかし、この男はその異形で厳重な警備に守られた監獄からの脱走劇をやってのけた。そしてその足であやめの下を訪れ、『さっさん、仕事を依頼したいのだ』と告げたのだ。さっちゃんだっつってんだろ、このヤロー。
 桂一派は独自にゲーマー星人の行方を追っていた。当然と言える。桂一派の目的はあのような地球を植民地化し、地球人を家畜と見なすような天人を廃し、真に対等な政権を築くことにある。
 そして、あのようなターミナルを介さず入国してくる天人に対し、幕府は完全に後手に回っている。不法入国であると見なしても、それを拘束し強制送還する術がないのだ。別件で逮捕する他ない。それに対し、攘夷志士達には裏のつながりというものがある。共に表の権力に依存しない存在であるゆえに、そこに尾を掴む影が見える。
 あやめが渡された資料には、そのゲーマー星人たちの影が克明に記されていた。眉を顰めた。情報など何もないと言っていたのではなかったのか。手掛かりもない、不可能だ、諦めろと言っていたのは、どこの誰だ。
『芋侍に手柄をくれてやる道理がどこにある』
 くふんと鼻を鳴らし、然も当然のように言う。
『これは攘夷だ。あやつらの手を借りる必要はない』
 分かりやすい。その『あやつら』にはあの人も入っているのだ。
 それは、お前の道理だろう。お前の独りよがりな、一方的な、押し付けた道理だろう。
 書面を確かめる桂の横顔を見ながら、あやめはそのことを脳裏で反芻していた。
「よし、御苦労だった。謝礼は後日届けよう」
 書面を懐に仕舞い、すっくと立ち上がる。
「襲撃をかけるつもりかしら?」
「勿論」
 笑いもしない。なんという男。
「連続拉致及び無断人体改造事件を引き起こしていた天人が攘夷志士によって天誅を下される。真選組は先だっての謀反事件から回復し切れぬまま、トップが瓦解した。このタイミングでの攘夷志士による朗報は、世を変える一報と言っても過言ではない」
 ぺらぺらとよく喋る。あやめがそれを知ったとて、何も出来ないことが分かっているのだ。
「すでに我ら一派は穏健派として名を知らしめている。その穏健派が武力を持ち出さねばならぬほど、悪辣非道な天人がまだいるということ。それを幕府が討てず、攘夷志士に頼らざるを得なかったこと。なにもかも、我らの好機だ」
 例えば、これを松平公に伝えたとしよう。すぐさま軍備を整え、天人を討ちに出たとしよう。それは攘夷浪士と幕府が手を組んだということに他ならない。攘夷浪士の力と正義を幕府が認める。それは有り得ない。
 ならば、攘夷浪士共の存在を隠蔽すればどうか。攘夷派の幕府に対する反感がより激しくなる。過激派はより過激に、穏健派も怒りを募らせる。そして、この男はどうするのか。決まっている。それらに気を逸るなと説いて回るのだ。幕府が天人の危険性に気付けばよい、名声が欲しくて行ったことではないと。桂はそれにより、さらなる人望と忠誠を集めるだろう。無私無欲の志し高き侍として、今以上のカリスマと心酔と、そして武力と政治力を手に入れる。
 なにもかも、この男のいいように転がるのだ。
 唇を噛む。疎ましい。この男に利用されると分かっていて利用されるしかなかった己が疎ましい。
「……銀さんは……」
「うン?」
「銀さんは、呼ばなくていいの?」
 銀時の居場所は解っている。あのまま、桂の紹介した運送会社に勤めているらしい。……それはおそらく、桂の庇護下にあるということだ。これより始まる闘争、否、政争に巻き込まないための措置だ。
「あやつは攘夷志士ではない」
「エリザベスさんの時は?」
「あれは俺の私的な頼み事だ。攘夷は関係ない」
 私的な頼みは出来ても、政治的な活動に巻き込む気はない。そういうことか。
 なんという傲慢。なんという思い上がり。
「それでは俺は用がある。機会があれば、また……」
「あの時にね、私、銀さんが私のところに来てくれて嬉しかったわ」
 あの人はお前の持ち物ではない。お前の掌で転がされ、それをよしとする。そのような人ではない。
「はじめて、銀さんから私を頼ってきてくれたの。銀さんから私に会いに来てくれたの。あんなに苛めてくれたのも初めてよ、あんなに私を構ってくれたのも初めてよ。嬉しかったのよ」
 お前に思い知らせてやろう。その傲慢な鼻っ柱をへし折ってやろう。
「あなたの為よ」
 お前に、あの人を止めることなど出来はしない。
「あなたの為よ。銀さんはきっと、あなたの為ならなんでも出来るの。天人も攘夷も、何も関係ないのよ。あなたが……大切な人が困ってて助けてほしいと思ってる。それだけで十分なのよ」
「これしき、あやつの助けなど必要ない」
「銀さんはそうじゃないわ! そんなことで喜ばない!」
「貴様に銀時の何が分かる!」
 激昂。
 桂の声は男にしては細い。低いはずの怒声は僅かに上ずり、悲壮な響きを持っていた。おそらく、この声に皆引き寄せられるのだろう。ただの英雄ではない、ただの指導者ではない、悲劇を生き抜いてきた敗残の将の悲壮さに引き寄せられるのだろう。
 悲壮だった。悲愴でもあった。ざまぁみろ。なんだその歪んだ眉は。泣き出しそうな目は。子供じゃないか。自分がどうしたらいいか分からない、本当は怖くて仕方ない、そんな子供の目じゃないか。
「あやつを、戦いに引きずり込むな」
 本当は側にいてほしいのだろう。支えていてほしいのだろう。
「あやつにはもう守るべきものがある。子らがいる。無駄なものに巻き込むな」
 自分を守ると言ってほしいのだろう。
「あやつが、銀時が、ようやく手に入れたものなのだ」
 この男とあの人がどういう関わり合いであったか。深い話など何も知らない。知りたくもない。だが、分かる。
「奪うな」
 この男はきっとあやめと同じで、そんな自分を恐れている。
 自らの何もかもをあの人に委ねてしまいたくて、生殺与奪も何もかも身も心も捧げてしまいたくて、それほどまでに焦がれているのに、そんな自分を恐れている。
 自分が、あの人の重荷になることを恐れている。
「銀さんがどこにいるか教えて」
「やめろ」
「今の銀さんは銀さんじゃない。分かっているんでしょ? あの人があなたに目を塞がれたままでいるわけがないって、分かってるんでしょ?」
「やめてくれ。俺はもう十分なんだ」
 自らの信じるように生きろと言ってくれた。それを美しいと言ってくれた。それで十分だ。それ以上、何を望めばいい。
 なんという傲慢な言葉。
「嘘つき」
 あやめは畳を蹴り、天板の隙間に身を滑り込ませ、闇の中を泳ぐように走った。
 お前に思い知らせてやろう。あの人はそんな人じゃない。ただ見ているだけなんて、目をふさがれ、遠ざけられ、守られ、その安寧に甘えるなんて、そんなことを許容できるはずがない。
 知っているはずなのだ。あの男はそれを知っていて、それを恐れている。
 あやめを唇を噛んだ。
 お前は私だ。だからこそ分かる。だからこそ分からぬ。お前が何を恐れているかなど知らぬ。私が知るのはただ一つだけだ。

 あの人がお前を裏切ることなど有り得ないと、痛いほどに知っている。

 あやめは闇に飛んだ。