2007年7月24日
テレ東伝説は永遠に不滅
銀桂というより、単に銀さんとヅラ。真面目にしようとして、真面目にならなくて、結局どっちつかずな。
銀さん大好きなヅラと、なんだかんだとヅラを裏切れない銀さん。
粗大ゴミ処理というのは、かなり割りのいい仕事である。壊れた機械であれば平賀のジジイのところに持って行けば大抵直るし、直ったものは地球防衛基地のリサイクルショップに持って行けば買い取ってもらえる。家具、調度品の類いもそちらへ。気に入ったのがあれば自分の家に持ち込むし、下のババアや志村家へ譲ってもいい。
それだけ割りのいい仕事なのだ。
だから、自主的に粗大ゴミ置き場で仕事に勤しんでも問題ないだろう。
「お、オーブントースターみっけ」
オーブントースターというものはそう壊れるものではない。捨てられるのは、『汚くなった』『買い替えた』『最新のオーブンレンジを買った』の三つが95%以上を占めるだろう。しかし、先日、坂田さんちではその残りの5%以下の理由でオーブントースターを失い、困窮していた。なにせ固くなった大福を甦らせるには、オーブントースターが一番なのだ。家電製品の中でも、その順列はかなり高い。
見たところ、壊れている気配はない。これは儲け物である。オーブントースターを小わきに抱え、銀時が粗大ゴミの山から足を引き抜こうとしているところ、
「銀時ィィィィィィ!」
「あ?」
ぐりんと首を回して見上げれば、
「避けるなァァァァァァァァ!!」
「普通、逆だろおおおお!」
空から降ってきた幼なじみに、頭ごとオーブントースターを踏み潰された。
「で、なんで俺がお前を乗せて逃げなけりゃいけないんですかねええ!?」
「それはだな、あの真選組のバズーカ小僧がだな、お前ごと俺に照準を合わせているからだ」
「てめえが後ろに乗ってるからだろうが、ヅラぁぁぁ!」
「ヅラじゃない、桂だ。お、照準仰角に修正。避けなければ当たるな」
「だあああ!」
「面舵いっぱーい」
「黙れぇぇぇぇ!」
思いっきりハンドルを右に切る。バックシートに後ろ向きに座る桂の尻がずずとズレるが、いつのまにやらその帯と銀時のベルトがしっかり縄で括りつけられ、落ちることはない。本当にいつ縛ったんだ。これでは振り落として逃げることもできない。
「大体なあ、空から降ってくんじゃねーよ! 天人じゃあるまいし! 空から降ってきていいのは、人間じゃない女の子だけって相場は決まってんだよ!」
「こんにちは、お助け女神事務所から来ましたスカディです」
「なんでスカディ!? なんでマイナー女神!? いや、ニヨルドの奥さんでフレイヤのお母さんですけどね! なんか家族で一人だけ影薄いよね!」
「あ、発射した」
本能的な危機回避感覚で、ハンドルを左に倒す。砲弾はベスパの横っ面を掠め、右3mに着弾。派手な土煙とアスファルトのかけらを撒き散らす。
後方のパトカーが、ザザッという雑音とともにスピーカー音声で喋り出した。
『ダーンナー。避けねぇでくださいやァ』
「避けるわああ!」
『速やかに停車し、後ろに乗っけてるテロリストを引き渡してくださぁーい。でねえともう一発いきますぜィ』
「黙れ、幕府の犬め! この桂が貴様らごときに捕らわれるものかぁ! バーカバーカ! おたんこなすー! お前の局長、Q2請求はっちまんえーーん!」
「そういうことは、てめえの足で逃げてる時に言えぇ!」
『あー、最高機密までバレてんなら仕方ねえや。旦那ァ、恨まねえでくださいねー』
「恨んでやる、てめえもヅラも恨んでやるからなあ!」
雨あられのように降り注ぐ砲弾を、すべて野生の勘によるギリギリの距離で避け続ける。白夜叉目覚めんぞ、この野郎。
「銀時。次の角、左に折れろ。車は入れない道だ」
「あぁ!? 行き止まりだろうが、そっちは」
「先日、突き当たりの布団屋が潰れてな、更地になったので通り抜けできる。今朝方のことだ、まだあいつらは気付いていないだろう」
「……あいよ」
「取り舵いっぱーい」
「ほんとに少しは黙れ、絞め殺したくなるから!」
更地となった旧布団屋の敷地を駆け抜け、なんとかパトカーは巻いたらしい。それでも油断は禁物と桂は辺りを見回し、銀時は法定速度ギリギリの速度でベスパを走らせ続ける。
「さっさと降りろ、ヅラ」
「もう少し走れば渋谷だろう。これから会合がある。乗せていってくれ」
「あのね、本当に叩き落とすよ? 銀さん、お気に入りのトースター潰れちゃって機嫌悪いんだから」
「それは悪かった。家にエリザベスが拾って来たものがひとつ余っている。進呈しよう」
「え? マジで?」
「マジだ。桂小太郎、嘘と天パは結ったことがない」
「天パだって結えるよ! 結えますー! これだから、サラサラヘアの奴っていやだよ!」
「む!? 止めろ、銀時!」
「なに、やっと降りてくれんの?」
「そこのドラッグストアでサランラップが安かった。三本二百円だ!」
「お前、今一応追われてるってことを自覚しろ!」
「何を言うか。人は理不尽な暴力に襲われた時ほど、冷静な日常を保つよう心掛けなければならん。大震災があろうが政治家が捕まろうが、我関せずアニメを流し続けるテレ東を見ろ。あれが本当の非暴力主義、高潔なる精神というものだ」
「理不尽な暴力と書いてテロリストなのはお前だ、ヅラぁぁぁ!」
銀時がベスパのスピードを落とすことは無く、悔しそうなうめきを上げる桂を無視し、それでも律義に渋谷方面へと走って行く。
「……お前ねえ、そろそろテロはやめなさいよ。いつまで続けんだ、こんな生活」
「もちろん、攘夷を成すまでだ。第一、テロをやめたところで追われる生活は変わらないぞ?」
「頑張りますね。……本当になんでやめないかね」
「自分はやめたのに、か?」
再会したばかりのころのように、戻ってこいとは言われなくなった。攘夷党自体も実力行使に出ることは少ない。それでも依然、桂は攘夷志士であり、銀時はそれを足抜けした人間だ。
「それはな、お前はテレ東だが、俺はテレ東じゃないからだ」
「……何言ってんだ? ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。……俺は、俺の内から起こった信念だけで生きているのではない。時代によって引き起こされた攘夷という信念にすがって生きている。お前のように、自らのみを信じているのではない」
いきなり変なことを言い出した。
「自らのみを信じるというのは恐ろしいことだ。自分が間違っているのかどうか、誰も見定めてはくれない。気付けば道を外れて一人野垂れ死にということも有り得る。俺はそれが怖い」
「いいのかよ、党首様がそんなこと言って」
「いいんだ。みな、同じだ。自らが間違っていないことを信じたいがために、徒党を組む。お前のように、たった一人で自分のみを信じていられるほど、人は強くはない」
背中に桂の重みを感じる。よりかかっているらしい。
「災害が起ころうが、天変地異が起ころうが、ただひたすらにアニメを流し続ける。人はそんなテレ東を見て安堵する。今、自分がいる闇は永遠に続くものではない。どれだけ自分がボロボロになっても、それだけは変わらずにいてくれる。テレ東のアニメと通販番組だけは、そこにある。だからテレ東は高潔なのだ。アニメと通販番組と旅番組こそが自分自身なのだと信じているのだから」
背中が重い。同時に軽い。桂は後ろ向きに座っているのだから、どうしたって体重は後ろに引っ張られる。
「俺は所詮フジや日テレだ。特番を延長し過ぎて、深夜アニメの枠を潰す。それを再放送する余裕もない。だからといって、もはや特番を作らずにいることはできない。……お前はそうはならないでくれ」
「……いや、テレ東はそんなこと考えてないと思うよ? ただ単に特番組む予算がないとか、急な事件に対応できるだけのスタッフがいないとか……」
「それならそれでいい。テレ東伝説など、視聴者が勝手に作ったものだ。勝手に信じているだけだ」
ふっと走りが軽くなる。桂が飛び降りたのだと気付き、ベスパを止めて銀時は振り返った。道路脇に立った桂が、こちらを見ている。
「あとでトースターを持っていこう。リーダーとアニメでも見ながら待っていてくれ」
そう言うと、黒い羽織と長い髪をひらりと翻し、雑踏に紛れ込んでしまった。
「……いや、だから、テレ東を買いかぶり過ぎだって……テレ東だって、変な特番組むことあるんだぞ? なぜか偶然、高橋名人にインタビューしちゃったりとか……」
ぶつぶつと言いながら、着物の裾に着いた煤を払う。洗濯が必要だな。
「……ノイタミナでも見ながら待つか」
神楽は『こんなオサレアニメ、だるいネ』と嫌うのだが、今日ばかりは付き合ってもらうしかあるまい。
- at 13:09
- in 小咄
comments
「テレ東伝説は永遠に不滅」というタイトルに惹かれたのですが、みごとに歌い(?)上げましたね。
もうステキすぎですよ、テレ東を語る桂さん!
確かに”アニメと通販番組と旅番組”なテレ東は銀さんです。
それにしてもテレ東を語り尽くしていますね。
まさに、その通りで、その会話が銀時と桂らしくて楽しかったです。
コメントありがとうございます。
最初はもうちょっと真面目な会話だったのですが、ちょっとテレ東ネタ出したらこんなことに(笑)。
今見ると、キャラ掴めてないこと丸分かりな文章で恥ずかしいのですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。