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2007年8月 2日

チェインギャング

 3Zのヅラって全然ヅラらしくないよね、という感想生まれの、妄想銀八桂。
 カプを具体的に言うと、銀八×大桂前提の銀八×小桂(なにそれ)。かなり捏造系注意。


 だるい。昨日もろくに寝ていない。この時期、受験間近の生徒も寝ていないのだろうが、教師だって寝れない。なにせ、こちとら1クラス30人分の受験の面倒を見ているのだ。偏差値は足りてるけどお前の希望してる進路にその大学はむかねえよ、お前その大学じゃ一人暮らししないと難しいだろ家計大丈夫か、奨学金はいいけど勉強よりもその先を見失ってはいないか。
 取り立てて進学校というわけではない。補習授業も少なく、本気で受験に取り掛かってる生徒は大抵予備校に通っていて、学校には居眠りしに来るだけだ。だからこそ、それぞれの家庭環境や性格を見極めたケアは、担任教師の自分の仕事だと思っている。
 要は、茶々入れてるだけなんだけれども。
 今日は第三次進路調査の締め日だ。今日中にアンケートの集計をして、個別指導の計画書を作って、教員会議用のプレゼンテーション作って……
 ……だりー。
 こんなに頑張ってんだから、授業くらいダラダラやっても許されるよねー。
 本末転倒なことを考えつつ、準備室の扉を開ける。
「お邪魔しています」
「……勝手に入るんじゃねえよ、いつもいつも……」
 4畳もない小さなスペースに事務用デスクとロッカーと本棚と長机が詰め込まれた銀八の孤独の城、国語科準備室。その中央の長机に書類を積み上げ、A4ノートパソコンをパチパチ打っていたのは、いつも通り、我がクラスの学級委員長だった。
「あのね、手伝ってくれるのはうれしいんだけれど、守秘義務とか個人情報ウンタラとかうるさい時代なのよ。お前に見せちゃダメな書類とか結構あるの。聞いてる? ヅラくん?」
「ヅラじゃありません、桂です。別に他言はしませんから平気です。大体、俺が手伝わなきゃ進まないじゃないですか。先生のキーボードの打ち方、まだ指一本打法でしょう」
「お前アレだよね、堅物っぽいかと思いきやアグレッシブだよね」
 事実、銀八が自分で打ち込めば夜が更けても終わらないであろう。率先して手伝ってくれるのはよいことだ。礼代わりに、事務机下の小型冷蔵庫から買い置きの缶コーヒーを取り出し、桂の視界の端に置く。小さく会釈しつつも、その視線がディスプレイを、指がキーボードを離れることはなかった。
「あとどんくらい?」
「半分くらいです。30分もあれば終わりますから、別のことやっててください」
「神楽、もうやった?」
「まだ武者修行とか言ってますね」
「親御さんに相談したくても、つかまんなくてさあ……」
「忙しい人ですから」
 喋りつつも、キーを打つ桂の指は全くよどまない。口に出してる言葉を思わず打ってしまう、故にキーボードを打つときは書類の内容をぶつくさ呟いている銀八には真似のできない芸当だ。
「先生、仕事をしてください」
「それがまとまらないと、次の仕事が進まないんですぅー」
「じゃあ、ほかにやれる仕事を探してください」
「30分で終わる仕事なんかないんですぅー」
 ため息つきやがった。生意気な。
「ヅラくんは勉強大丈夫なのかよ。なんか、こっちに入り浸ってるけどよ」
「A判定は取れてます」
「医大……は、やめたんだっけか」
 こくんと頷く。
「和田の家のほうは、義兄が継ぎますから」
「……姉ちゃん元気?」
「おかげさまで」
 ふつと会話が途切れる。不本意な方向へ会話が進んでしまった。どうしたものか。
 今は後ろで括られている桂の長い髪をぼうっと眺める。作業のために雑に結んだせいか、幾筋かはらはらと零れ落ちている。また伸びたな。髪が伸びれば伸びるほど、その容貌は姉に似てくる。……今はもう亡くなった上の姉に。
 桂の、小太郎の家庭環境はものすごく複雑だ。複雑すぎて説明しにくい。しかし、その複雑さもリアルタイムで見ていた故に十二分に理解している。
 なにせ、小太郎の上の姉は銀八の幼馴染だ。
 年の離れた腹違いの弟が生まれ、それが病気がちであることに心を痛め、大病院の跡取りを得るために高校卒業と同時に婿養子と結婚させられ、幾年もしないうちになんかの大病でぽっくり逝ってしまって、その旦那はすぐに下の姉と再婚した。
 それを全て銀八は身近で見てきた。身近で見すぎて、耐え切れなくなって、逃げ出した。ほとぼりが冷めた頃にこの高校に転任してきて、小太郎を初めて見たときは腰を抜かすかと思った。化けて出たのかと思ったのだ。

 なんで連れて逃げてくれなかったの、と。

 あの時、彼女を連れてどこかに逃げれば、小太郎は跡取りとして大事に育てられ、家から追い出されるように養子に出されることはなかったのだろうか。
 担任になってから二年以上、この鉄面皮以外の表情を見ることは殆どない。
 カウンセリングへ連れて行こうかとも思った。情操教育にはペットがいいという坂本の薦めで変なペンギンモドキを飼い始めたはいいものの、溺愛が過ぎて人付き合いが疎かになっている気がする。
 教師という職が気に入っている。人と深く関わりあうことが嫌だ。彼女を捨てた自分がそのような形になることに罪悪感を覚える。人との関わり合いを絶つことが嫌だ。彼女を捨てたあの日のことを思い出してしまう。
 3年間。3年間だけだ。その限られた時間だけ、銀八は人と関わりあう。3年が過ぎれば、それはもう終わったこと。銀八は卒業アルバムの片隅で『怠惰でやる気のない教師』のカテゴリに収まり、もうそいつの人生に関わりあうことはない。

 関わりあいたく、ないのだ。

 桂がふうと息を吐き、キーボードから手を離す。こきこきと手首を曲げる仕草が妙に年寄り臭い。
「終わった?」
「もう少しです」
 目が疲れたか、ぐいぐいと自分で眉間を揉んでいる。だから年寄り臭いって。
「ちょい貸してみ。目閉じて」
 机越しにその白い小さな顔を両手で包む。素直にぴたと閉じられた瞼に両の親指を押し付け、ゆっくりと押し込む。
「気持ちいいだろ?」
「あー……はい」
 眼精疲労で目の周囲の筋肉が固まっている時にこれをやると疲れが取れる。おっさん臭い話だが。
 ああ、本当によく似ている。
 目を閉じて眉を緩めた表情は、あいつそのものだ。瞼からずらした親指で眉骨の上をたどる。眼窩の縁をたどり、頬骨の起伏を確かめ、滑らかに口元まで降りる。
 骨格自体が似ているのだな、と。
 幾度か、本当に数えるほどの幾度かだけ触れた感触を、指が覚えている。もはや、彼女の頬より彼の頬に触れた回数の方が多いというのに。
「目、そのままな」
「……はい」
 ふっくらと柔らかい唇を指で押す。瑞々しい弾力に、若いなあ、などと変な感慨を抱き、そこに自らの唇を押し付けた。


 まーたやっちゃったー。外はすっかり日が落ちている。節電だとかで電灯の消えたままの校内を歩きながら、ガリガリと頭をかく。五歩ほど先を歩く桂の髪が、ちらちらとグラウンドのナイター照明を反射している。
「……悪いね、いつもいつも」
「どっちのことですか?」
 どっち、って。
「どっちも」
「いやならいやって言いますから、気にしないでください」
 あらやだ、ちょっとは好かれちゃったりしているのかしら。それはそれで重い。
 そういえば、
 結局のところ、あいつに好きだなんだと言ったことはなかった。
「なあ、和田」
「和田じゃありません、桂です」
 きっ、とこちらを振り向く。
 ああ、あいつはこんな目はしない。白く強い光に顔半分だけ照らされた桂は、びっくりするほどきれいだった。全然似ていなかった。
「じゃあ、ヅラ」
「ヅラじゃありません、桂です」
「先生、ヅラのこと結構好きよ?」
 口に出してしまった。ぽうっと染まり、慌てて背けられる頬を見たくて、つい口に出してしまった。


 精々があと半年だ。
 胸の内で何度もそう呟く。そうして、自らを傲慢と偽る。