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2007年8月10日

もこふわ

 エリヅラキャッキャウフフと銀桂イチャイチャをいっぺんに書こうとしたら出来た、正体不明コイバナSS。
 とりあえず、メインは銀桂。


「……なに、その格好」
「エリザベスのおやつだ」
 割烹着に三角巾。手首には輪ゴムが巻かれ、粉でもこねていたのか爪の間に白いものを残した手を前掛けで拭っている。
 お母さんだ、お母さんがいる。
「なんなら、食っていくか? カップケーキだが」
「……お前、時々母性に満ち溢れてるよね」
「気持ち悪いことを言うな」
 いや、気持ち悪いのはお前だよ、ヅラ。新八に持たされたカレーのタッパを渡しつつ、銀時は靴を脱いだ。


 キャッキャキャッキャしてんじゃねーよ。なんだよこの空気、なんなんだよ。
 紅茶に砂糖をドバドバ叩き込んだものをすすりつつ、ちゃぶ台の向こうに並んで座る桂とエリザベスを眺める。
 ちゃぶ台の上には焼きあがったカップケーキが1ダースほど。他にはホイップクリーム、チョコペン、マーブルチョコ、他デコレーション系のお菓子が山ほど。
 つまり、アレ。デコケーキ。アレ作って遊んでんの、目の前のバカとバケモノ。
 キモい。
「おお、よく出来たな、エリザベス」
 なんか褒めてるし。頭撫でてるし。エリザベス照れてるし(最近、ある程度の表情が分かるようになってしまった。まずい)。
「それでは、これは銀時にやろう」
「へ?」
 すっと差し出されたそれに目を落とす。丸いカップケーキの輪郭を人の顔に見立てているらしい。髪の毛はホイップをツンツンと逆立たせ、目の部分には赤いマーブルチョコ。
 ……俺ですか? エリザベスお手製の?
 ちら、と目を上げる。いつものエリザベスの無表情。その隣の桂は、めったに見れない満面の笑みを浮かべてる。……お前、そんな顔、戦中からこっち俺にも見せないじゃんよー……
「どうした、食わないのか?」
 正直食いたくない。しかし、カップケーキは桂が焼いたものにしては上等の出来であり、ホイップクリームも新鮮でいかにもうまそうだ。銀時としては、この誘惑には抗いがたい。
「どっから食えばいいの?」
「好きに食え」
「……ヅラ、冷たい」
「ちぎって口に運んでやらんと食えんのか、貴様は」
 お前、さっきエリザベスに、味見だってちぎって運んでやってたじゃん! 何スか、本命変更ですか!? 銀さんとのただれた関係よりも、そのバケモノとキャッキャウフフしてるほうが楽しいですか!
 心の声を押し込めて、カップケーキに噛り付く。中にジャムが入っている。うまい。銀さん泣きそう。
 桂とエリザベスは、第二弾第三弾の作成に取り掛かっている。似ている似ていると桂が囃すのだが、誰に似ているのかさっぱり分からない。それは誰だと問いかけると、
「角の酒屋のミツルくんだ。そろばん塾に通っている」
「お前、テロリストがご近所付き合いしてんじゃねえよお!」
「何を言うか、地域の情報を手に入れねば、潜伏も出来んではないか! 酒屋は地域のまとめ役だぞ! あと、マリカーが強いんだ、彼は。直ドリのやり方を教わった。WiFiは直ドリが使えないと話にならんからな」
 知らないうちにヅラの交友関係がえらいことになっている。昔は俺たち以外ほとんど友達いなかったのに。正確に言うと、俺たち以外はほとんど死んじゃったんだけど。
「うん? どうしたエリザベス? ああ、そうかそうか、持って行くがいい。転んで落とすんじゃないぞ」
 そのミツルくんとやらにカップケーキを持って行くらしい。小さな菓子箱にケーキを詰め込んだエリザベスが部屋を出て行く。
「車に気をつけるんだぞー」
 廊下に出て見送るお母さんの声。大丈夫だよ、はねたって死なないから。玄関の引き戸が閉まり、部屋に戻ってきた桂の表情はいつもの無表情に戻っていた。
「……何を半べそかいているのだ、貴様は」
「……別にぃ」
 まだ割烹着を脱いでいない桂が座布団に腰を下ろし、脇のポットで茶を淹れる。熱く渋い煎茶をズズとすすり、ふーと満足げな息を吐く。すげえ幸せそう。
 ……んん?
「昔、こんなことがあった気がする……」
「? そうか? デコケーキなど初めて作ったが……」
「デコケーキじゃねえよ。乙女顔してクリーム見つめんな、気持ち悪いから。違くてだな……」
 額を指で抑えて、じっと記憶をたどる。萩にいたころ? 違う。上京したばかり? いやいや、あの頃のこいつといえば、無表情通り越して軽く鬱入ってて、回復したのは……
 黒いモジャモジャ。
「ヅラくん、今更つかぬことをお伺いしますが……」
「ヅラくんなどではないが、聞いてやろう。言え」
「君はもしかして、坂本に惚れてたりしましたか?」
「…………」
 ずずー。
「何その沈黙ぅ!」
「好きに解釈しろ」
「やだやだ無理無理無理無理、俺好みの解釈なんて出来ない。今の銀さん超ネガティブだもの」
 桂はその表情だけでなく、感情を表に発することが極端に少ない。親しい人間でなければ、笑うところも怒ったところも見たことないだろう。だから何でも自分の腹に抱え込む。子供の頃からそうだ。他人の世話になることを極端に嫌う。付き合いの長い銀時や高杉は、それが桂自身の希望であり、本当にどうしようもなくなった時には、桂が本心から信頼できる人間にだけ頼ることを知っているので放置していたのだが……
 子供の頃を除けば、桂は坂本がいた頃が一番笑っていたと思う。桂の張り巡らしたATフィールドなどものともしないあの男がいたころが。
 嫉妬していた。今と同じように。
「惚れてた、といえば、惚れてたのだろうな。気に入っていた」
「……マジでか」
「マジでだ」
 そう言うのもいつも通りの無表情なのだから、本気なのかどうなのか全く読めない。
「坂本は、貴様に似ていたから」
「髪質がか?」
「なんだ俺はアレか、天パフェチか。ふわふわもこもこフェチか。だとすれば、貴様よりエリザベスより、さだぴーが一番好みだぞ。ふあっふあのもっこもこだ」
「何お前、定春のこと、さだぴーって呼んでるの!?」
「リーダーの許可は取った」
 そういう問題か。
「まあ、例えて言うなら、いつの間にかどこかに消えてしまいそうなところが似てたな、貴様らは」
「そのまんまじゃん」
「そのまんまだ」
 空になった湯飲みを置き、再び急須を手に取る。
「似てないのは、貴様のように使えもしない気を使おうとして変な溝を作る真似だけはしない、というところだ。気持ちのいい男だった」
 俺、いいとこないじゃん。こぽこぽと急須に湯が注がれ、貴様もいるかと問いかけられる。砂糖の入っていないカフェインは摂取しない主義なので、丁重に断った。
「変な気を回すといえばなあ、高杉もなあ。捻くれ者だわ、憎まれ口しか利けないわ、そのくせ、お節介を焼こうとするわ。なんか、もう、思い出すだけでウザい」
「お前にウザいって言われちゃ、高杉も首括るしかねーよ」
「ほんともう、貴様とそっくりだ。三白眼だし」
「似てねーーーーーーーーーーよ!!!!」
「……高杉も同じ反応したな」
 蒸らした茶が湯呑みに注がれ、桂はため息でその湯気を散らす。
「高杉のほうがよっぽど本音が分かりやすいがな。最近の言い方で言うならアレか? ツンデレ? 高杉はデレが分かりやすい。貴様は分かりにくいにもほどがある」
「だって俺ツンデレじゃねえもん! 高杉なんかに似てねえもん! 訂正しろ訂正!」
「そうやって認めたがらないところなんか、生き写しだ。貴様ら、実は魂の双子だろう」
 あの天邪鬼小僧と双子とまで言われては、それこそ首を括るしかない。銀時はぐったりと畳に倒れ伏す。
「イヤだー……坂本のパーもイヤだが、高杉はもっとイヤだー……」
「安心しろ、高杉の憎まれ口は可愛げがあるが、貴様のは全く可愛げがない。ただムカつくだけだ。そこは似ていない」
 ちら、と茶をすする桂を横目で見上げる。
「……高杉のこと、可愛いと思ってたわけ?」
「子供のわがままくらい、可愛いと思ってやれんでなんとする」
「……ヅラくん、男の趣味悪いね」
「悪いなあ。なにせ、未だに貴様にメロメロだ」

 おい。
 今、何言った。

「安心しろ、銀時。すぐどっかに消えそうで、気を使うのが下手で、捻くれ者でお節介で三白眼でツンデレで可愛げがなくて、白くてふわふわもこもこモジャモジャな男は、この世でお前一人だ」
「……いい趣味してるなあ」
「全くだな」
 さて、と言いながら立ち上がり、桂は自分の背に手を回す。
「おそらくエリザベスは夕方まで帰ってこないぞ。あれは聡くて気の回る子だからな。お前とは大違いだ。甘えたがりのところは似ているがな」
 しゅる、と割烹着の紐が解かれる音がして、銀時は突っ伏したまま、白い綿の裾を掴む。
「脱がないでもらえる?」
「どうして」
「……俺、今ならちょっとだけ、お前の人妻趣味が分かるわ」
「ほほう、それはよい進歩だ」
 山ほど男を見てきて、いいところも駄目なところも見て、命がけの日々を送ってきて、酸いも甘いもかみ分けて、
 それでもお前がいいと言われたら、もう骨抜きになるしかあるまい。
 首を捻って見上げれば、珍しく桂が微笑んでいた。唇を多少引いただけという感じではあるが、間違いなく微笑んでいた。
 悪女だ、悪女がいる。