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2007年10月 8日

僕らはそれに慣れることはない

 なんでか鴨桂。
 カモカモはヅラお母さんに救われればよかったのにね、って、そういう話。殆ど会話のみ。

 タイトルは、アツミサオリ『あい』から。カモカモに一番贈ってやりたい曲。


「はい、カルガモさんチーム失格、と」
 巨大な白いボール(なんかアヒルみたいな顔が描かれている)に押しつぶされ、伊東は無情なる声を聞く。桂が手元のボードにバツを書いたのが見えた。
「正解の地図は誰かが絶対持ってるって言ったでしょ? なんでちゃんと相談しないかなあ。報告連絡相談。ほう・れん・そうは組織の基本だからね、そういう同僚との連携が取れないと仕事は回っていかないんだよ、分かる?」
 やかましい。不確かな地図に頼らず、一つ一つのトラップに対処していけばよいという合理的な自分の意見を聞き入れなかったあいつらが悪いのだ。鴨太郎悪くない。うん。
「あ……あなたも……僕の価値を理解しないのか……」
「ボクのカチっていうか、君みたいな協調性のない子はどこ行っても難しいんじゃないかな。伊東君、クラスで流行ってるアニメをわざわざ録画して見た挙句、げっちょんげちょんにけなすタイプだろう」
 似たタイプ、知ってるからね。十五年ほど前のトラウマを指摘され、ぎくりと伊東は身を硬くする。バタバタと走りよって来る足音がした。試験官役の攘夷志士らしい。
「桂さん! パンダさんチーム、シロクマさんチーム、フクロオオアリクイさんチーム、失格です!」
「全滅、か。今回は不作だったな。試験が少々厳しすぎたか……」
 桂がため息をつく。そうだ、試験が厳しすぎた。自分と同じレベルの者と組めたなら問題はなかっただろうが、他のバカに足を引っ張られてしまったのだ。だから、自分まで失格になってしまったのだ。そうに違いあるまい。
「し、試験問題の不備だ! 再試験を……!」
「やはり、王道的に○×クイズからはじめるべきだったか? 何もかもすっ飛ばして大迷路クイズに突入してしまったのは、参加者の心の準備が出来ていなかったかもしれぬ」
「スタジアムでの○×、敗者復活、機内ペーパーテストと緊張感を高め、ハワイのゲートで一つのカタルシスを迎え、泥んこクイズで気持ちをほぐすというのが、参加者のテンションコントロールに繋がってますからね。このような大掛かりな試験なら、そこに気を配らないと……」
「おおォーーーーーい! 僕の話を聞けぇ! 何をアメリカ横断ウルトラクイズの構成の妙について語り合ってるんだあああ!!」
「なんだ、まだいたのか伊東君。残念ながら君は失格だ、また来年がんばってくれたまえ」
 そして、桂は伊東の首に『成田行き』の札をかけた。成田行ってどうする。せめてターミナル行きにしてくれ。
「僕は成田になど戻らないぞ! 桂小太郎! 攘夷戦争の英雄、暁の神将、黒き狂乱の貴公子! 数多の賛辞に謳われ今も孤高なる戦いを続けるあなたなら、僕の崇高な孤独も理解できるはずだ!」
「勝手にあだ名を増やすのはやめてくれ。本人の了解を得ず、変な名前で呼ぶのは失礼だぞ。あと、理解理解言われてもだな。何を理解してもらいたいのか言ってくれないと、さっぱりなんだがな」
 未だ巨大ボールの下敷きになったままの伊東の目の前に、桂が屈み込む。腿に肘をつき両手で顎を支え、小首を傾げてまじまじと伊東の顔を見ている。
「人から理解を得られないのは、偏に自分の責任だぞ? 何を理解してもらいたいのか、理解してもらうにはどうすればよいのか、考えて動いていない、もしくは考えが足りないということだ。私ですら、時には理解を得られず苦汁を舐めることがある。先日も知人にエリザベスまんじゅうを作って持っていってやったら、あの天パ、甘味狂のくせにキモいと言って食いもせず犬の餌にしてしまいおった。エリザベスの愛らしさを理解しないとは、もはや感性自体が違うとしか……しかし、根気よく接せればあの野蛮な天パもいつかは……」
「なんだ、エリザベスって! これか、このキモいのか! これがまんじゅうになってるのか、食えるかこんなもの!!」
 どっしりと背中に乗っかっている物体を指差し、伊東がわめく。
「ほら見ろ。私がこんなにエリザベスの愛らしさを訴えているのに、君は理解できない。それは君がバカだからか? 私が崇高なる孤独だからか? いいや違うな。単に君がエリザベスの愛らしさを理解する気がなく、私がそれをねじ伏せてでも理解してもらおうとまでは考えていないだけだ。分かったら帰りたまえ。記念品のエリザベス人形焼は出口で渡そう」
「どんだけグッズ作ってるんだ、あなたはぁ!」
「同志諸君にも好評なものでな。月に一回、自作エリザベスグッズの持ち寄り会議をしている」
「仲いいな、おい!」
 見た目に似合わぬ力強さで、桂がエリザベスボールを押しのける。伊東は痛む腰を庇いながら、その下から這い出た。
「仲はいいさ。皆、同じ志をもち、同じ未来を語り合い、同じ世を見た者たちだ。時に考えが食い違い、言い争いになることもあるが、ほら、足を抜きたまえ、よし……仲間というのはそれで壊れるようなものではない」
 やあ、メガネが割れているな。言われて、メガネを外し確かめる。フレームも歪んでひびが入っていた。セルフレームはこうなったら駄目だ。小さく舌打ちをする。
「……仲間、か。そのような言葉をあなたが使うとは思っていなかった」
「だから、そう勝手なイメージで語らないのでほしいのだがな」
「その仲間である者たちが、みな、あなたの思想を理解していると? 崇高な志を持ち得ていると? 愚鈍な兵を仲間と呼ぶ、それは甘いのではないか?」
「少なくとも、みな、理解しようとしてくれているが」
 ほほう、おもしろいメガネだな、ちょっと見せろ。伊東の手元からひょいと桂がメガネを取り上げ、ためすがめつ手の中で転がす。
「みな、世を憂い、自分にできることはないか考え、私の経験や知識にそのきっかけを得たいとやってくる。来る者拒まずと言いたいところだが、いかんせん今の世では反体制と呼ばれる思想だ。ある程度自己の確立した人物でなければ時代に流され、危険な行動に出てしまうこともある。そのため、このような試験を設けさせてもらっているが……乱視か、君は。剣士としては不利だな、大したものだ」
「……どうも」
 あなたのその細腕は、剣士とは到底思えないが。よくぞ今まで生き延びていたものだ。
「本来であれば、全員と話し合いたい。それぞれが抱える不安を聞き、それをどうすればよい方向に持っていけるのか。その上で、道を違えるというなら仕方ない。私の考えに賛同してくれるというなら受け入れる。だから、私の仲間は私を理解しようとしてくれている。得難いことだ」
 なによりもまず、話し合うことだ。目にレンズを合わせ、像の歪みに眉を顰めている。
「先程から聞いているとな、君はどうやら理解してほしい誰かがいた、というか、いるようだな。私達ではなく」
「無理だ、誰も僕を理解できない」
「そう急くものではない。その人は、君の話を聞いてくれるか?」
「……まあ」
「君と同じ風景を見てくれるか」
「見ている者もいるだろうな」
「君と同じ時に笑い、君と同じ時に怒ってくれるか」
「……ああ」
「ならば、何も案ずることはない。長い時をかけて語り合えばいい。君がそれに耳を塞いだり道を踏み外すことさえなければ、何も問題ない」
 桂の手が伸び、伊東の耳にメガネを戻す。
「君には既に、友がいる」
 ひび割れたメガネ越しの桂の淡い笑顔が、じわりと滲んだ。
 レンズの汚れだと思いたかった。