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王子様と秋の空 [将棋]
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2007年10月10日

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 1

銀誕
 銀誕参加企画。
 銀さんがカッコイイぎんづらを目指し、早速挫折してる感じの第一話。続きます。


 ぬくい。
 銀時と目の前の存在はあまりにも距離が近すぎて、光が入り込まず何者であるか目で確かめることはない。
 耳に伝わる、とくんとくんという規則正しい心音。微かに膨らんではしぼむ華奢な胸の骨。そっとそこに手を当てる。ぺったんこ。乳でもあれば、色々変わったかもしれないのに(何が変わるのかは分からないけれど)。
 首をねじれば、あの人形のような無表情で眠る桂の顔が見れるのだろう。もう何度も見ているものだから、いまさら見たいとは思わない。代わりに、目の前の胸板にぴったりと額を押し付ける。どっくんどっくんと肉と骨を通して響く心音に導かれるように瞼が降りる。
 あのころ、戦も終わりが近づいて、坂本もいなくなって、銀時と桂が同じ布団で寝ることはめっきりと少なくなった。
 共に疲れ果てていた。考えることが多すぎた。明日の飯はどうしよう、生き残るにはどうしよう、生きているにはどうしたらいいのだろう。ただただそればかりで、最も身近なものを慈しむことなど忘れていた。倦怠期みたいなものだったのかもしれない。
 そして、桂は銀時の代わりに別のものを布団に引っ張り込み始めた。
 鬼兵隊と己の左目を同時に失い、精神の均衡を欠き、夜毎奇声を上げて暴れまわる高杉を胸に抱いてあのころの桂は眠っていた。そうすれば、高杉が悪夢に苛まれ刀を振り回して泣くことはなかった。
 体を繋げていたのかどうかは知らない。どちらでも銀時には関係の無いことだから。銀時は高杉の悪夢を止める術を持たなかったし、それを哀れみ苦しむ桂の痛みを癒す術も持たなかった。ただ自分が生きていることに精一杯で、寄りかかり合い、縋り付き合いながら生きていたあの頃の桂と高杉にしてやれることなどなにもなかった。
 自分は、何も出来ないのだと。
 何も守れないのだと。
 強く考えるようになったのは、あの頃からかも知れぬ。
 背を丸め枕も外れ、布団に広がる桂の黒髪。その合間に埋もれるように、包帯が巻かれた高杉の丸い頭。あの痛々しい姿を垣間見るたびに、己が生きる場所はここではないという疎外感に苛まれる。
 あのように、ただじっと朽ちるのを待つように生きるのは嫌だった。
 朽ちるのであれば桂と共にがよい。
 しかし、桂は自分とは朽ちてくれぬ。
 そしてなによりも、桂が朽ちる様を見たくはなかった。

 ああ、でも、今このように頭を抱かれて、桂の心音と匂いに包まれ、微睡み落ちて行くのはとても心地よい。高杉があれほどまでに桂の腕に執着するのも分からなくはない。銀時はとろとろと溶けていった。


「オラ起きるネ、このマダオ」
 ドンと床を踏み鳴らされ、びくんと跳ね起きる。慌てて周囲を見回すが同衾相手の姿はなかった。
 枕元では神楽が小さな体を最大限に踏ん反り返らせ、腕を組んで仁王立ちしている。
「……朝?」
「朝ヨもう十時ヨ朝飯の用意もできてるヨむしろ朝飯じゃなくってブランチヨ。ベッドブランチでもするカ」
 いや、あれは洋風のベッドだから様になるのであって、畳と布団でやったら『おとっつあん、お粥ができたわよ』以外の何物でもないだろう。
「全く、マミーは朝から働いてるのに、パピーはダメダメネ。家庭を顧みない仕事人間でもねーのに、家族サービスもできねーなんてパーフェクトマダオネ。離婚されてもしらねーアル」
 ぶつぶつ言いながら、神楽が居間に戻る。マミーって誰だと突っ込むのも疲れた。夏からこっち、新八も神楽もずっとこの調子だ。いつ桂はうちに引っ越してくるのかとか、弟より妹がいいとか。最初は何を寝言を言っているのかと突っ込んでいたが、鼻で笑って返される。……ねえ、俺、なにかやっちゃった? ジジイになってた間は半分ボケてたみたいで、記憶もふわふわしちゃっててよく覚えてないんだけど。聞いても誰も答えてくれないんだけど。
 仕方なく腹をぼりぼり掻きつつ襖を開ければ、予想通り、割烹着姿の桂がかちゃかちゃと朝食の器を並べていた。銀時の姿を見て、かすかに眉をひそめる。
「なんだ、寝間着姿でみっともない」
 寝間着着ているだけいいじゃないか。夜中、トイレにいこうとして布団を抜けたらあまりの寒さに鳥肌が立ち、身につけたのだが。あれがなけりゃまだ全裸だ。
 固めに炊かれた白米。味噌汁は出来立てで味噌が椀の中で沸き返っている。ひじきの入った卵焼きにネギ味噌に青菜の白和え。……これがフレンチトーストやホットケーキであったなら、即座に『毎日、俺のために朝食を作ってくれ、ヅラ』と言えるのだが。
 神楽はドンブリ飯にネギ味噌をぺったぺったなすり付け、ごふごふとかき込んでいる。こいつ、飯のおかずになる塩っ気のあるものならなんでもいいのか。
「……そういや新八は?」
 普段であれば、九時過ぎには出勤してきた新八が『起きてくださーい』と声を張り上げるはずだ。
「新八はお休みヨ」
「なんだぁ、またコンサートかあ?」
「私が休ませたアル」
「……は?」
「私もお休みネ。姉御とお出掛けアル」
「え、ちょっと待って。じゃあ、銀さん一人で働けっての? お前ら、それでも社員?」
「社員扱いするなら給料払えヨ、バカ社長。おめーも休めばいいだろガ。てゆーか、毎日が日曜日だろガ」
 確かにここ最近、終わらない夏休み状態ですけども! 金が無くなれば真選組の屯所に『おめーら、あの時貯金全額払うって言っただろーがぁ!』とバケツで泥水ぶちまけに行けばいいので、カツカツだったころに比べると今一つ勤労意欲が沸かないのだ。カツカツだったころも、特に勤労には励んでいなかったが。
「休みったってなー、銀さん、パチンコ行くくらいしかやることねえしなー」
「……あーもー! どんだけダメ男ヨ、このモジャモジャ! オラ、ヅラァ! 言ってやれ、なんか言ってやれ! ガツーンと!」
「リーダー、この男は昔からそうだ。毛が捻くれている分、脳の伝達経路も捻くれているのだ」
「シナプスと髪質が関係ある訳ねえだろーがー!」
「しょうがない男アル、マジで……ヅラ、頭下げるネ」
 そう言って神楽は、ポケットから取り出した何やらを桂の頭にもぞもぞと取り付けている。
 ピンク色のリボン。
「……なにそれ?」
「ぷれぜんとふぉーゆーヨ」
「ふぉーゆーなのだそうだ」
「ふぉーゆー言われたってわかんねえよ、UFOから降りてきた生き物ですって言われた方が理解できるよ」
「銀ちゃんは今日一日、ヅラを好きなように出来るアル」
「普段も好き勝手やられている気がせんでもないがな」
「いやいや、そういう聞きようによってはきわどい発言は控えてくれない? ……え? なんで?」
「……オメー、今日誕生日だろーがあああああ!」
 テーブル越しの神楽の蹴りを受けながら、ようやく銀時は思い出した。
 すっかり忘れていた。


「全く、己の誕生日を忘れるとは本当に呆れた奴だ」
「うっせーな。大人になると、日々の細かいことなんて薄れていってしまうものなんですぅ」
「せっかく先生が決めてくださったものを……」
 覚えやすいし、盆や秋の祭りが終わった後で暇な時期だからちょうどいいって理由で決められた、アレね。
「だから、教本も無くしてしまったんだろう。ラーメンこぼしたってなんだ、出前かカップめんか、醤油か味噌か塩か。……まさか、とんこつではなかろうなぁ、貴様ぁぁ! だとしたら叩き斬ってくれる!!」
「なんでそこでキレるの!? とんこつになんか恨みでもあんの、お前!? 心配されなくても、醤油のチャーシューメンですから!」
「なんだ、ならば良し」
「お前が、豚の肉は許せて、豚の骨は許せない理由はなんだ……」
 桂が鯉口を戻すのに、はぁとため息をつく。これのどこが誕生日プレゼントなのだ。嫌がらせじゃないのか。
 神楽に家から追い出されて五分、すでにこれ以上無いほど疲弊している。
 ……もはや、最終手段に出るしかあるまい。
「そんじゃ、ま、平日ですしホテルのサービスタイムにでも……」
「生憎、床入りは日没後のパーティが終わってからでなければ許可しないとリーダーから言われている」
「……なんですと?」
「そういう爛れたのは不可、なのだそうだ」
 べろんと紙が差し出される。『銀ちゃんばーすでーぷらん』。新八に休みをやり、俺とヅラを追い出し、一日デートさせ、夜のサプライズパーティまでの担当スタッフとスケジュールがみっちり書かれている。
 ……あれ?
「なあ、このサプライズパーティって、何?」
「ああ、志村家でな、貴様の友人知人を集めて計画しているらしいぞ。俺は貴様の目をそれから遠ざける役目も担っている訳だ」
「へー、それは楽しみだなー……って、サプライズ違ああああああああう!!!!!!」
「な、なんだ、いきなり飛び蹴りを! 俺はまだなにもボケてないぞ!」
「存在自体がボケとるんだ、お前はあああ! サプライズの意味を、胸に手を当ててよぉっっく考えろおおお!」
 桂は、本当に胸に手を当て、眉根を寄せてじっと考え込み……
「……はっ!?」
「しくじった! って、顔してんじゃねええええ!」
「ええい、こうなれば貴様の記憶を飛ばすしか……!」
「やめろ、バカ! 峰打ちで頭打ったら普通に死ぬからな!?」
 何で起きぬけ一時間で、こんなにテンションを上げなければいけないのだ。銀時は鈍器を掴む桂を押さえ付け、このままではリーダーに顔向け出来ん貴様諸とも散ってみせると爆弾をつかみ出す手をねじ伏せ、頬を張り、馬鹿野郎お前が死んだらエリザベスはどうなる仲間たちはどうなる神楽も新八も泣くだろう坂本だって辛い思いをするそれになにより高杉を救ってやることもできなくなるお前はそれでいいのかああ銀時俺はまた道を見失うところだった俺はいつだってそうなのだ馬鹿だから俺がいるんじゃねえかお前が何かを見失いそうになったなら俺を見ればいい俺はいつでもお前の行く先を見ていてやるから銀時ィ!ヅラァ!ヅラじゃない桂だぁ! と、一通りやって、
「って、ちがあああああああう!」
「きゃん!」
 抱き合った桂を、内股の要領で思いっきり路面に叩きつける。
「……ほんと、もー、何がしたいの……」
「だから、でーとをせねばならんのだ、銀時」
「お前とデートなんかしたくない、疲れる困るテンションおかしくなる、今だって、週刊連載にして四週分の濃度を繰り広げちまった気がする」
「案ずるな、銀時。このような時のためにこの教本が……」
 ごそごそと桂が懐を探り出す。おいこら、先生、そんなこと教えてくれてたっけ?
「ほぅら、これだ」
「なんだその、『二人で新しいアニバーサリーを作っちゃお☆カレシカノジョのハートトキメキ! ドッキドキファーストデートマニュアル 編・小学五年生編集部』ってえええ!!!」
「とりあえず、ワイルド派の彼氏の場合は、運動クラブなどに関連する場所に行くのがよいらしい。銀時はサッカー部か? 野球部か? イトマン所属か?」
「どれにも所属していません! おいこら、ちょっと待て……」
「ふむ、その場合は自分の可愛さをアピールできる場所に行く、か。俺の可愛さというと、あれだな、エリザベスだな。よし、行くぞ銀時」
「エリザベスに関する場所ってどこだああああ!」
 銀時の叫び声が、秋の高い空へどこまでも響いていく。

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