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2007年12月29日

プリンセス・メィカー

 坂桂、ヅラ育成ゲーム。
 フェティッシュ注意。


 恐らく、この江戸に桂小太郎の情人を自称する男は十人を下らず、全国に広げれば三十か四十には達するだろう。一夜を共にしたというレベルであれば数え切れない。
 それらの特権は金銭であったり、情報や人脈であったり、政治思想であったりと、セックス以外にも桂になんらかを与えられる人間、桂を満足させられる人間、そして桂の価値が容色だけではないことを分かる人間に限られていた。その美貌だけでも傾城と呼ばれるだろう。しかし、桂の価値は長州攘夷派筆頭であり、最大派閥桂一派の党首であり、攘夷戦争の英雄であり、剣豪としての腕であり、かの吉田の後継とされる思想である。
 桂の価値を正しく計り、それに見合う対価を与えられるものだけが、あの世にも美しい男を閨で啼かせる権利を持つ。だが、それら全てを兼ね備える男など、江戸広しと言えど滅多におらず、大抵は、金と情報は持っているが桂の美貌しか興味がない、思想は分かち合うが金はない、そのような半端な情人であった。
 桂の壮麗さと聡明さを全て正しく評し、金、情報、思想全てを与えられる男は、宇宙に一人しかいなかった。
 そして、桂の類稀なる美貌も、高潔なイデオロギィも理解せず、金もなく、地位もなく、思想すら持たず、それでも桂を抱くことを許された男も宇宙に一人しかいない。
 桂はそのどちらも、自分の情人であるとは言わなかった。


 坂本が桂に会うと、必ずすることがある。
 その指に口づける。
 人目があるところであれば、騎士が貴婦人にするように、ほっそりと長い手指に。
 二人きりであれば、白足袋を脱がせ、日に当たらぬ白い足指に。
 豪奢なホテルなら、長椅子やベッド。昔ながらの宿なら、三つ重ねの絹布団。そこまで桂を抱き抱えて運び、ゆっくりと下ろし、恭しく跪いて白足袋のこはぜを一枚一枚外していく。するりと露になった骨の細い足先に唇を寄せ、丸い指腹を吸い立て、爪の形を舌で辿る。
 坂本が桂に従属している訳ではない。桂に、己が男を従属できるだけの価値があると教えるためだ。
 男の無骨さとも女の湿り気とも無縁の冴えた美貌。掴めば折れそうな細い骨をくるむしなやかな肉。指に吸い付く白い肌にうっすらと浮かぶ古傷の数々さえ、その美しさを引き立てる。
 己の容色すら利用しろと桂に言ったのは坂本だ。その思想を理解できるものは少ない。理解できるようになってからでは遅い。流され行く時代に逆らうのであれば、その流れに逆らってでも食らいつきたい餌を用意しなければならない。
 桂の美しさは、その餌に十分成り得る。
 死の恐怖と殺意の狂気に浮かされた戦場で、桂の自然な美しさはそれだけで崇拝の対象であった。
 しかし、今はそれだけでは足りない。日に日に整う町並みや艶やかな異国の服をまとう若い娘たち、夜空に煌々と浮かび上がるターミナルよりも、己の方が美しく価値があると思わせねばならない。
 媚びてはいけない。男に媚びることに関しては女に敵う生き物はいない。冷たく厳しくてはいけない。男が求めるのは結局のところ柔らかい膝だ。
 無自覚でいろ、高慢ではいけない。男が自分にかしずくことを当然として受け入れ、当然として労え。自分は男に崇められるだけの価値があり、崇める男に慈愛を持て。
 坂本は短い逢瀬の間、桂を幼く高貴な姫君のように扱う。その肢体を至上の宝物として扱い、その手に撫でられるのを無上の喜びとした。
 桂が誰よりも自分に重きを置いているのを坂本は知っていた。桂の中でどの男よりも坂本が最も価値のある男だということを知っていた。だからこそ、まず自分がかしずかねばならない。桂に、自分は坂本すらかしずく価値がある存在だということを教え込まねばならない。
 桂は自らの美しさに無頓着だった。己の価値を正しく分かっていなかった。そのままではいけない。利用できるものは全て利用しなくてはいけない。
 それを教えられるのは自分だけであると坂本は理解していた。

 足指を舐り、踝を噛み、濃紺をまくり上げて露になった青白い臑を唇で辿る。時折音を立てて吸い付くが、決して跡を残さない。唇より先に行く坂本の指が膝裏に達すると、ああ、と小さく声を漏らした。膝裏から内股へ、柔らかく薄い皮膚を坂本の長く骨張った指が優しく侵略する。
「いやだ」
 抑揚のない拒絶に顔を上げる。
「もっと足を揉め」
 桂の頬は微かに上気し、目許は赤く染まっている。しかし、溺れてはいない。冴えた頭で、淡々と坂本の奉仕を受けているだけだった。
 目の前の白く滑らかな腿から離れ、再び足指を口に含む。散々舐り桃色に染まった小さなそれを、もう一度丹念にしゃぶり、吸い上げ、舌で嘗め回す。手は土踏まずを揉み、アキレス腱を撫で上げ、柔い肌の下にしっかりとした筋があるふくらはぎを摩る。
 丹念な足への奉仕に、頭上の桂の声が少しずつ確実に熱を孕んでいく。膝が擦り合わせられ、身をよじる。今、顔を上げれば、身の奥底から沸き上がる官能に震える白い腿が見れるのだろう。
 見たい。
 坂本は自分の腹からぞくりと沸き上がる欲を感じた。見たい。見たい。そこに顔を埋め、体を割り込ませ、もっと深く。
 すでに黒眼鏡は外していた。桂は二人でいる時に坂本がそれをつけたままでいることを嫌った。柔らかな中指の腹に歯を微かに食い込ませながら、坂本はそっと視線を上げる。
 桂のもう片足が、坂本の目許を踏む。真っ暗だ。
「いやらしい」
 清廉な桂の声。
 汚れなく、どこまでも澄み切った桂の声。
 坂本が笑う。桂の足指を含んだまま、口の端を引く。
 そうだ。それでいい。どれほどの汚濁に塗れようとも、情欲の泥に溺れようとも、決してそれに染まってはいけない。男がお前の肌に、肉に、瞳に、笑みに、どれほどの欲を抱き、どれほどの衝動を覚えるか。
 お前はそれら全てを正しく知り、それを『分かってはならない』。
 清廉な別種の生き物。気高く美しい絶対者。無自覚な暴君。それを育てることこそが、自らの役目であると坂本は心得ていた。
 指を吸う。ああぁと声を上げ、桂が身をよじる。衣擦れの音が視覚を奪われた坂本の耳に届く。
 黒眼鏡を外さなければよかった。そうすれば視線を気取られることはなかったのに。