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2008年4月 5日

とかげのおうさま、ねこのおうさま

 干支フォーチュン流れの獣人ネタ
 でも、ただぎんづらがのだくだしてるだけです。設定垂れ流しなだけだし。


 侍の国。僕らの国がそう呼ばれていたのは、今は昔のことだ。
「だからおめー、それ自体、最近のことなんだってば。昔は獣人っつったら、なり損ないだハンパ者だって小突き回されてたもんだよ? 戦争始まってからこっちの話だよ、獣人が侍だとか言われ出したのは。力だけはあるからな、俺たち」
「でも、桂さんや坂本さんは武士の出じゃないですか」
「だってあいつら、神獣だもん。狐狗狸と同じにすんな」
「誰がコックリだ、誰が! あんただってでかい猫股じゃねえかよ、コノヤロー!」
「猫じゃありませんー、虎ですぅー」
「虎だって言うなら、いますぐコタツから出て来ぉい!」
 やだ、銀さん眠い。そう言うと、白髪頭は天板の下にもぐり、ぬくぬくと丸くなった。どこから見ても猫だ。新八はため息をつき、空になった銀時の湯飲みを下げようと腰を上げ……ついでに、コタツの右岸を覗き込む。
 黒髪の神獣は今朝からそこで寝っぱなしである。
 今日は寒い。この冬一番の冷え込みだ。その上、天気も悪い。バイトに行くつもりだった彼は危うく道端で冬眠しかけたらしく、ウール100%の御使いに抱きかかえられ万事屋まで運ばれ、呆れ顔の銀時にコタツに詰め込まれた。『こいつは自分が爬虫類だという事を分かってねえ』とべしべし頭を叩いていた。
 コタツの向こう岸には丸まって眠る駄猫な主人。コタツの右岸には冬眠一歩手前のトカゲな麗人。
 彼らこそが、先の戦争で天人を一時は追い払い、その功績から江戸の風水守護職に封じられた、白虎明神坂田銀時と青龍明神桂小太郎であると言われても、俄かには信じがたい。いくら、その力を目の当たりにしたことがあっても、だ。

 今の江戸は平和なのだと言う。天人との共生も進み、風水治安も北方守護職が不在であることを除けば、非常に安定している。
 それが多くの侍たちの犠牲の上に成り立っていることも忘れられようとしているくらい、平和だ。
 銀時たちの言うことを信じるならば、それまで半端者と虐げられてきた獣人たちが刀を取り、眠っていた神獣、もしくは神そのものまでが目覚めて戦い、中には絶滅してしまった種族もいるのだと言う。
 神代が終わったのだ、と言った。
「何故、天人……星夷がこの国に来たのか分かるかな?」
 ふるふると首を振るしかない。運が悪いのだ、と思っていた。
「この国が、未だ神代にあったからだ。この国では、神が人や獣になることも、人や獣が神になることも、そう珍しいことではない」
 俺やこいつのように。膝で丸まって寝る銀の毛玉を撫でながら付け加えた。
「しかし、外つ国、特に西洋では大きく違う。神の世界と人の世界ははっきりと区切られ、人の世界と獣の世界も隔たっている。神はこの世に唯一無二のものであり、その神の似姿である人も唯一無二であり、獣風情とは格が違うという訳だな。故に竜や麒麟のような神獣は悪魔と見なされる。神の手によらぬ奇跡は、全て悪魔の仕業だ」
 ああ、なんとなく解って来た。
「外宇宙、もしくは別の宇宙……異界より来た人ならざる力と姿を持つ『神々』など、この国以外では悪魔に他ならぬ。悪魔との共存など出来まいよ。かといって、悪魔が地上を支配することも難しい」
 なにせ、あちらの天兵は十五億もいるそうだから。俺達は八百万しかおらぬというのに。洒落のつもりか、くすりと笑った。
「この国は『都合よかった』のだ。絶対神はいない、異形を受け入れる土壌がある、風水地理的にも極東は地の気の集結地であり交流地だ。最初は抵抗に遭っても、交わってしまえばこっちのもの、ということさ」
 そして、受け入れざるを得なかった。交わらざるを得なかった。
「それで、いいんですか?」
「よくはない。このままこの国はゆっくりと天人と交じり合い、犯され、それはこの国以外にも広まっていくだろう。もう、この星は彼らに侵略されたも同じということだ」
「それなら、他の国に助けを求めればいいんじゃないんですか? 悪魔なんでしょう? 銀さんや桂さんみたいな人が言えば、きっと……」
「分かっていないな、新八くん」
 あんぎゃー。珍しいことに、桂がおどけて口を大きく開く。ぽうっ、と、小さな炎を吹いた。それは空気中の酸素をわずかに奪っただけで、儚く消え去る。
「俺も悪魔なんだ」

「……うおっ! どこだ、ここは!」
 やっと起きた。神獣の中の神獣、天帝より月へ昇る許しを得た証しである『桂』の名を持つ五爪の龍が、頬に畳の跡をつけてきょろきょろと辺りを見回している。
 大丈夫か。こんなんでも実家戻れば、ちゃんと神社があるらしいぞ。大丈夫か、その神社。
「おはようございます、桂さん」
「あ!? うん、おはよう。いい朝だな、新八くん」
「もうおやつの時間です」
 桂の前に、熱い葛湯と切り分けた羊羹を置く。まだ寝ぼけてるのかなんなのか、桂はいただきますと手を合わせて食べ始めた。
「……おかしいな」
「なにがです?」
「おやつの時間ということは、今頃俺はバイトをしているはずなのだが」
「あんた、また道端で冬眠してたんだよ! で、また運び込まれたんだよ! バイトはエリザベスが代わりに行きました! 現状把握しろや、このボケ老人!」
 おお、そうかそうか、この寒いのにそれはエリザベスに悪いことをした、褒美に暖かいセーターでも買ってやらねば。
 羊の化身にセーター与えてどうする。コタツに可能な限り入っておこうと、背を丸めて葛湯をすする桂にため息をつく。
「新八ー。こいつに突っ込んでも無駄だって言ってるだろー。こいつ、あっちの世界とこっちの世界の区別があんまついてないんだから」
 銀時はまだ眠っていなかったらしい。しかし、以前寝転がったままで声はすれども姿は見えず状態だ。
「あっちじゃない、常世だ」
「夢の国じゃねえかファンタジアじゃねえか、あっちでいいよそんなもん。お前、さっさとあっちに帰れ」
「江戸の夜明けを見るまでは帰るわけにいかんと言っておるだろうが」
 新八ー、銀さんにも羊羹持ってきてー。コタツの向こう側からにょきりと突き出された手のひらにため息をつき、新八は再び腰を上げた。台所で、黒い羊羹を幾分大きめに切り分けつつ、銀時と桂のやり取りを思い出す。
 常世に帰れと、銀時はよくそう言う。
 神獣、いや、龍神として神の一柱である桂は、人虎の銀時と違い本来は常世の住人である。いくら風水守護職に封じられたと言っても、それは現世でのことだ。桂が人身を解き常世へ帰ってしまえば、今のように江戸の地から出られないということも、気を地脈に吸い取られ神通力が弱まるということもなくなる。
 それでも桂は、帰らないというのだ。
 ざくり。
「あ」
 考え事をしていたら、羊羹の一切れ一切れが一寸ばかりの厚さになってしまった。いくらなんでもこれはない。さて、これを二枚に薄切りにするか、それとも櫛形に切るか。
「ただいまヨー! チョーさみーアルヨ、冬毛になっちまうアルヨー!」
 ガラガラ、ドタドタドタ。
 神楽が定春の散歩から帰ってきたらしい。三和土で靴を脱いだかと思えば、そのままコタツのある和室に直行した。
「神楽ちゃーん! おやつあるから、手を洗って……」
 と、言っても聞いていないのだろうな。再びため息をつき、分厚い羊羹に目を戻す。ドタドタドタ。神楽の足音が、すぐさまUターンしてきた。
「ヅラのヤローが羊羹食ってたアル! 寄越せヨ、メガネイヌ!」
「手を洗ってから! あと、人をウナギイヌの親戚みたいに言わないでくれる!?」
「口うるせー男アル。だからてめー、定春にも勝てないアルヨ」
 神楽はお座なりに流水に手を晒し、濡れたままの指で分厚い羊羹を摘まんで口に放り込んだ。
「……あのさ、神楽ちゃん」
「なにヨ。もう羊羹はかえせねえゾ」
「返してほしくもないよ! えっと……神楽ちゃんはさ、天人の獣人、だよね?」
「そうヨー。誇り高き夜兎の一族ネ。崇め奉るがヨロシ」
「やっぱり獣人だと、迫害されたりする?」
 色素の薄い丸い目が『訳が分からない』という風に見開かれる。
「何言ってるカ、オメー」
「いや、だからね……」
「夜兎、仲間外れされてるヨ。だから私、地球来たネ。でもそれは、夜兎が獣人だからチガウ。夜兎がおっきさの割にツエーからみんな夜兎怖がるヨ。だから夜兎仲間外れ。地球じゃそんなことないネ、銀ちゃんもヅラもおっきさの割りにツエーしな」
「別に銀さんも桂さんも背が低くは……って、そういう意味じゃないんだろうね」
「宇宙、人でもドーブツでもない姿した天人でいっぱいヨ。そんなこと言ってたら、みーんな仲間外れアル」
 ことさら分厚い羊羹をいくつか奪い取って、神楽は自分の寝床である押入れに上がった。散歩の途中で拾ってきた漫画雑誌を読むつもりらしい。
 天人がこのままこの星に溶け込めば、獣人への迫害はなくなるし、神獣が悪魔と呼ばれることもなくなる。でもそれは、この星が乗っ取られるってことだ。
 天人が追い出されれば、桂のように地に縛り付けられている神たちは常世に帰っていけるだろう。そして、二度と現世に出てくることはない。常世と現世が交わる神代が終わったことに違いはないのだから。
 どっちがいいんだろう。新八のような人狼は、人と溶け込んで暮らすことに慣れていた。自分の正体を隠し、埋没しながら生きてきた。狼は群れで暮らす生き物だからそれは苦ではない。
 しかし、本来は下界との関わりを避けて生きる人虎たる銀時、そして俗世の穢れを厭う龍神たる桂は、どうすればいいのか。あの二人が帰る場所は、どこなのだろうか。
 濃い玄米茶の湯飲みを二つ、羊羹の小皿も二つ。盆の上に並べて、新八は和室の襖を開けた。
「うわ」
 思わず盆を引っ繰り返しそうになった。何度見ても慣れない。
 炬燵の同じ口で、銀時と桂が抱き合って眠っていた。
 銀時がいつも眠そうで気だるい顔をしているのは、単なる怠け癖ではない。西方守護職として気を地脈に吸われているせいだ。
 桂はともかく、銀時は単なる獣人である。並外れた気を持っているとしても、到底、守護明神の役割を担えるだけの器はない。江戸西方の龍穴に置かれている祭殿に入れば多少はマシなのだろうが、銀時は決してそこに入ろうとはしない。
 出れなくなるから。誰にも会えなくなるから。
 そうやって、過去の英雄を幽閉するために、天人は銀時たちを守護職に封じたのだ。
 桂は訪ねてきては、銀時と身を寄せ合って眠る。気を分け与えているのだ。地脈と密に繋がる龍は、祭殿を離れても銀時のように疲れ果てるということはない。それでも、実質二つの龍穴を桂一人で封じている訳で、きっと負担は大きいのだと思う。寒いくらいですぐ眠ってしまうのは、そのせいだろう。
 すうすうと、安らかな子供のような寝息が二つ。起こさないようにそっとのぞき込めば、炬燵の熱で頬を火照らせた二人が内緒話でもするように顔を寄せていた。
 銀時が桂に常世に帰れとうるさく言うこと。何を言われようとめげもせず桂が万事屋に通ってくること。銀時も桂も祭殿に入ろうとしないこと。
「……素直じゃないなあ」
 二十年も前。現世に『降臨』した桂を初めて見つけたのは、銀時なのだと言う。龍神池にぷかりと浮かんだ小さな身体。溺れているのだと思って助けようと飛び込んだ。
「まさかさ、龍だとは思わないじゃん。もうあそこの龍は千年も出てきてないって言うからさ。だから引き上げて、里までつれてってやろうと思ったわけ」
 あの時の銀時は酔っ払っていたのだろう。昔の『時代』のことは話しても、昔の『自分』のことは話さない人だから。
「引っ繰り返して、ああ、これは人間じゃねえな、って気づいた訳よ」
「龍だって分かりました?」
「うんにゃ。天女だと思った」
 一目惚れなんじゃねえか。思い出すだけで胸焼けしそうな惚気だ。
 羊羹の皿に布巾を掛けておく。茶は冷めるから飲んでしまおう。
 この人たちにとって、帰る場所も生きる場所も、ここなのだ。
 ここしかなくなってしまったのだ。