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2008年9月 3日

おねがい☆プライムミニスター ラプソディ・イン・ブルースター

 近桂維新後パラレル『おねがい☆プライムミニスター』と同設定。
 やや鬱設定有りのため、要注意。


 深夜、枕元の携帯が鳴る。近藤は寝よう寝ようとする脳をなんとか引っ張り起こし、片手でそれを探り当てた。
 なにか事件が起きたのなら、携帯が鳴る前に誰かが大声で飛び込んでくる。ならば、こんな非常識な時間にかかってくる電話の心当たりは、ひとつしかない。
 ディスプレイの名前も確認せず、着信ボタンを押し、耳に押し当てた。
「ふぁい、もひもひ。こんろーれす」
 我ながら寝ぼけた声だ。相手も呆れたのか、返答がない。返答がない。しばらく待つ。念のため、携帯を耳から少し離し、ディスプレイを横目で確かめる。やはり。
「……桂さん。なにがありました?」
『…………っ……』
 スピーカーから、わずかに息を詰めた音がした。もっと音質のいい機種にしておくべきだった。布団を抜け出し、携帯を耳と肩の間に挟みながら、近藤は着替え始める。
「すぐ行きます。10分待ってください。サイレン鳴らして行きますから」
『……ぅ……』
「5分で行きます」
『こんどう……』
「はい」
『ぎんときにあいたい』
 息が詰まる。固い空気の塊を、無理やり飲み下した。音質の悪い機種でよかった、この音が彼に聞こえなくてよかった。
「3分で行きます。門のところで待っててください」
 サイレンは桂の神経を刺激するだろうと思い取りやめた。運転手代わりに宿直の隊員を連れていこうかと考えたが、今の桂は近藤以外の人間に会いたくないだろう。
 自惚れではなく、配慮だ。
 敢えてパトカーではなく、私用のミニバンを走らせた。
 官邸の門前に、寝間着に薄物を引っ掛けただけの桂がうずくまっていた。不用心さを咎めている時間はない。かける言葉もそこそこに、背を丸めた桂の身体を抱き抱えるようにして、後部座席へ促す。
 運転席に戻り、バックミラーで桂の顔を確かめる。うつむき加減のその目許は、真っ赤に泣き腫らしていた。
 時々、本当に時々、桂は一人で夜に泣く。何が切っ掛けかは分からない。今抱える政府の問題のことなのかもしれないし、まだ近藤は聞かせてもらっていない戦争時代のトラウマなのかもしれない。何を切っ掛けとしてか、桂は一人で泣いて疲れ果てて、どうにも動けなくなると近藤を呼ぶ。
 正直、近藤はそれが少し嬉しい。これが桂なりの甘え方なのだと思うと、桂の支えになれているのだと思えて嬉しい。
 しかし、桂が近藤にしがみついて寝るのは、三回に一回くらいだ。
 大抵はこんなふうに、『銀時』に会いに行くための運転手になる。
 近藤はそれが少し悲しい。

 静まり返った夜の病院は悲しい匂いがすると思う。死の匂いだけではない。夜の冷たい空気の中に不安や絶望の感情が入り交じって、鼻の奥にしくしくと染みるような悲しい匂いがする。
 守衛には既に顔パスだ。暗い廊下を寝間着姿の桂がふらふらと歩く。時折すれ違うナースはただ無言で頭を下げる。
 似合わないな、と思った。桂に、このような場所も、悲しい匂いも似合わない。
 誰よりも血に汚れ、絶望に塗れ、死の覚悟と共に生きてきたはずなのに、桂に負の感情は似合わない。
 それでもただひたすらに前だけを見て生き抜いてきたのが、今の彼なのだから。どれほど泥に塗れても、絶望を振り払い、死を選ぶことなく進み続けてきたのが、桂小太郎という人だ。
 だから似合わない。桂に、このような場所は似合わない。
 桂の足が止まる。六階建ての最上階、一番奥。この病院で一番見晴らしのいい特別病室。近藤は黙ってそのマホガニーのドアを開けた。するりと滑り込むように桂は病室に入り、広い室内に立ち並ぶさまざまな医療機器の間を縫って、ベッドの側まで駆け寄った。
「ぎんとき」
 名を呼んでその枕元に跪く。眠っている男の髪を撫で、顔を寄せて縋る。それでも男が目を覚ますことはなかった。
 かれこれ三年は目を覚ましていない。

 かつて、桂は高杉の首を持ったまま一カ月ほど行方を眩ませた。その居場所を突き止め、追跡作戦の陣頭指揮を執ったのも銀時だった。
 結果として一番隊予備隊は全滅。右腕と右目が潰れた桂と、こめかみが撃ち抜かれた銀時を背負った神楽だけが帰ってきた。詳細な報告は受けていない。それから銀時の意識は戻っていない。神楽は二人のやり取りを見ていないと言う。桂は頑として口を割らない。
 全ては、銀時が出陣前に残した『悪いのは全部俺ってことにしていいから』という言葉で片付けられた。
 例外は桂の右目だけだ。これは自分で抉ったのだと桂が言った。高杉と一緒に埋めたのだと言った。どこに埋めたのかは、決して答えてくれなかった。

 夜が白むころ、桂を官邸に送り届けた。泊まっていけとは言われなかった。
 桂がそんなことを言うはずがないとは分かっている。言われれば、自分は桂を厭うのだと分かっている。
 それでも、そうは言わない桂が何を考えているのかと思うと、近藤の胸は重苦しく居心地の悪いもので満たされるのだ。
 死人に嫉妬するほどみっともないことはない。
 車のライトを反射して青白く光った桂の義眼を思い出す。きれいだった。