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王子様と秋の空 [将棋]
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2007年8月27日

秒速5センチメートル 後編

 後半。


<<コスモナウト>>

「……厄介なことになったな、こりゃあ」
「……元から、かなり厄介なんだけどな」
 日曜。待ち合わせの代々木駅前広場で、顔を合わせたお妙と桂(ヅラ子)が『まあまあ、いつもうちの新ちゃんを可愛がっていただいて』『いやいや、こちらこそ彼には色々と迷惑をかけておりまして。本当にしっかりした弟さんで』『あらあら、そんなことありませんわ、まだ未熟者ですからよろしくご指導いただければ』『いえいえ、こちらこそ今までご挨拶にも伺わず』と、なんか長ったらしい挨拶を交わしている。そういや、ちゃんと顔を合わせるのはほぼ初めてなのか。……ちゃんと合わせてるとも言いがたいが。
「ダブルデートは、まあ、かまわねえんだけどよ。相手があの女となると、近藤さんに申し訳が立たねえ」
「いいじゃねえか、オメーのお目当てじゃねえんだから。付き添いだよ、付き添い。ヘタレくんの初デートをフォローするための」
「……そうなんだよ、坂田氏ぃ?……もう、ヅラ子嬢と二人っきりって緊張して緊張して、夕べから寝られなくってさぁ?。坂田氏が来てくれてマジ助かったでござるよ?」
「……お前、そのトッシーくんは鋼の精神で抑え付けとけよ。5秒で死ぬほど嫌われるぞ」
「でも最近は、腐男子とか乙男とかブームだと……」
「知るかー! ヅラはなぁ! あ、違うわ。ヅラ子はなぁ! もっと、こう、ワイルドで危険な香りのする男が好きなんだよ! たとえば、そう! クセっ毛を直しもせず、そのままほったらかしにしているような!」
「……それは、ワイルドじゃねえだろ。ズボラなだけじゃねえか」
「あ、戻りやがったコイツ」
「なにをじゃれ合っているのだ、銀時、土方殿。そろそろ時間ではないのか?」
「土方さんお勧めの映画ですってね、楽しみだわぁ。何かしら?」
 挨拶合戦を終えたヅラ子(もうヅラ子でいいや)とお妙が、掴み合う銀時と土方に声をかける。それぞれ一応デートということで振袖とは行かぬが、艶やかな娘仕立ての着物を纏っており、人目を引く小町ぶりだ。こんな娘二人と一日過ごせるとなれば、男冥利に尽きるだろう。オカマとメスゴリラだけど。
「そーだよ、俺、どこ行くとか知らねえよ? だいじょぶなの、多串くん?」
「ああ、任せとけ。各メディアでも絶賛の感動作だ」
 そういって、土方は懐からチケットケースを取り出し、前売券をそれぞれに配る。
「…………多串くん?」
「……土方殿?」
「土方さん?」
「俺もWebで予告編を見たがな。すばらしい映像美に繊細な心理描写。まさに新時代のクリエイターと呼ぶにふさわしい……」
「「「アニメじゃねえか、これーーー!」」」
 白夜叉と狂乱の貴公子とゴリラキラーの蹴りが、綺麗に同時ヒットした。

 まあ、結論から言うと結構良かった。ちょっと泣いた。
 あらすじをまとめると、寺小屋時代に好き合っていたが告白できず離れ離れになった男女の物語である。
 別々に奉公に上がり、男がさらに地方の店に行くというので会いに行ったが、大雪で列車が立ち往生し、女が寒い中で半日も待ち続けるとか、
 やっと会えた二人が、言葉もなく口付けを交わすとか、
 触れ合うこともなく、ひっそりと一晩を過ごすとか、
 そのような美しい思い出を持ちながらも、それ以来二度と会うことはなく大人になってゆき、
 年頃になった男を想う別の女が現れるが、その心にまだ少女がいることに気付き失恋したり、
 大人になってからも、恋愛がうまくいかなかったり、
 そうやって男はいつまでも女の面影を追い求めるが、無情にも女は……みたいな。
 なんかこう、『すれ違って行ってるのは分かるけど、戻れないし戻る勇気もない』みたいな。
 正直、来た。
 多串くんに至っては号泣していたようだ。目が赤い。
 ちなみに、銀時をはさむ形で座っていた桂とお妙は、超白けた顔をしていたのだが。

 その白けた顔の理由が、『童貞をこじらせたような映画』ということらしい。

「泣かそうというポイントは分かる。実際、そのポイントにはまってしまえば泣けるだろう。だがな、あれは自分に酔いすぎだ」
「まさに、恋に恋しているという感じでしたねえ。勝手にやってろって話だわ」
 こいつら、一応これがデートだって分かってんのかなー。多串くん、もう泣きそうなんですけどー。いや、俺も泣きそうなんだけどー。
「ヅラァ……子、ってさぁ、そーゆー人だったけぇ?」
「そーゆー人ってどーゆーことだ」
「いや、お前、前に言ってたじゃん。恋愛ってのは、こう、無駄なものから出来てるって」
 そういや、あそこには多串くんもいたな、と、不意に思い出した。
「銀時、無駄なものに美を見いだすのと、無駄なものに盲目になるのとは違う。例え無為な徒労と思えるものも、それを貫き通せば一つの生きざまとなる。しかし、すでに失われたものに捕らわれて、為すべきことを為さなくなってしまっては駄目だ。それは人の生きざまではない。死人の恋だ」
 あー、こーゆー奴だったわ、こいつ。
「つ……つまらなかったか……?」
 おお、多串くんの手が震えてらっしゃる。
「つまらなくはなかったぞ。面白かった」
「絵がきれいでしたねえ。空とか素敵でした」
 …………。
「「えええええええ!?」」
 女ってわかんねええ!!(いや、一人オカマだけど)
「ロケットの打ち上げシーンはよかったな。あれは少年と少女の間にある大きな間隙を象徴しているのだろう」
「すごく近くにいると思っていた男の子が、実はすごく遠くを見つめていると気づいてしまった、って事かしら?」
「ああ。だから少女は告白を取りやめてしまったのだろう。ロケットの打ち上げ速度が秒速5km、言葉の伝わる音速は気温摂氏15度の環境下で秒速340m。追いつくはずもない。切ないシーンだ」
「お前ら、すげーちゃんと見てるじゃん! ぼろくそ言ってたくせに!」
「ぼろくそ言ってたのは恋愛観であって映画そのものじゃないぞ。映画は恋愛観だけで出来ているものじゃないだろうが」
「むしろ、あれだけダメな恋愛観を描き切ったということで、すばらしい映画だと思うわぁ。普通はもうちょっと、マシで救いのあるお話にしちゃうわよねえ」
「なにげない風景にも登場人物の心情が込められているようだったな。何度も見れば、そのたびに発見があるのだろう」
「……そう! そうなんでござるよ、ヅラ子嬢!」
 うわ、復活した、トッシー復活した。
「やはり、アニメーションが実写と最も違うのは、すべての映像が人の手で描かれているということで、雲の動きひとつ取っても演出意図がある訳で……!」
「ほほお、浮世絵の判じ物と同じという訳か。絵の中にあるすべての要素が意味をもっている、と。そう考えると、非常に日本的な文化であるな」
「そう! 人物がデフォルメして描かれているのも、浮世絵と同じでより作者の世界観を伝える手段であって……!」
 うわー、うざーい。オタクうざーい。
 銀時がほぼ空となったグラスをなめていると、すっとお妙が身を寄せて来た。
(なんだか、いい感じですねえ)
(いや、いい感じになられちゃ困るんだけど……)
 桂はなににつけクソ真面目だ。だから、どんな映画でも真剣に見る。真剣に理解しようとする。真剣に語る。土方、否、トッシーくんにとって、これだけ真面目にアニメの話をしてくれる異性(じゃないんだけど)は貴重なのかもしれない。
「ロケットの煙の描写にすごいこだわりを感じた。リアルだったな。あと、あの地球上ではないような風景はなんなのだろうな? あの映画に天人の存在は感じられなかったのだが……」
「あれは少年の心象表現のひとつじゃねえかな。心は別の風景の中にあるって言う。あと、この監督の別の作品にSFの名作があるんだ。地球上ではなく、太陽系外縁部で攘夷戦争が起きていたという設定で……それを見れば、もっとよく分かるんじゃねえかと……」
 本当に普通に盛り上がっている。
(別にいいじゃないですかぁ。面白いわ、本当に)
(それは何? 多串くんが騙されてるのが?)
(オカマに騙されたって弱みを握れば、ドンペリ何本搾り取れるかしら)
 怖いよー、この女怖いよー。
「その話じゃ、女が戦争に行って男は地球に残るんだ。メールでやり取りするんだが、当時は即時通信なんかまだ存在しねえ、戦場が太陽系を離れるごとにやり取りもできなくなっていくわけだ。亜光速航法によるウラシマ効果もあって、女と男は引き裂かれていくっていう……」
 熱く語る多串くんの説明を、桂は真面目に聞き入っている。……なんかちょっと、いやな話をしている気がする。
「……トッシーくぅん。そろそろ時間じゃなぁい?」
「トッシー言うんじゃねえ! ……そうだな、出るか」
 本当に近江牛のしゃぶしゃぶを抑えたらしい。気合入れ過ぎだろ、お前。伝票を持ち、女二人(正確には一人半)を先に店から出し、男二人でレジに並ぶ。お妙の分を出してやる気はないが、土方に奢られる一方というのも嫌な気分だ。茶代くらいは自分で出す。マンゴーラッシー450円を片手に話しかける。
「盛り上がってたじゃん」
「ああ。あんなに真剣に話を聞いてくれるなんてな……脈はあるってことかな」
 いやー、違うと思うよー。だってあいつ、神楽に対してもあんな感じだもん。口には出さないけど。
「純情派かと思ってたら、意外と切り替え早いのね、多串くん」
「……うるせえな」
「まあ、いなくなっちゃった女の子だけずっと思い続けてもぉ? ねぇ? 映画の主人公なんて、それで会社辞めちゃったしぃ? せっかく復職できたんだからねえ、君がそうなったら協力してやった銀さんたちの面目丸つぶれ? いいことじゃん?」
「そんなんじゃねえよ。……少しは、人並みのもんに欲が湧いただけだ」
 ガラス戸の向こうで、桂とお妙が携帯の画面を見ながら何かを話している。
 一瞬、素直に『ああ、かわいい女の子同士が仲良さそうなのは微笑ましいな』などと思った自分の脳みそを心配する。女の子じゃねーって、あれ。方や、怪我人に刃物を突き付ける恐怖のザ・ゴリラキラーであり、方や、常に爆発物を手放さない狂乱の貴公子だ。どこがかわいいんだ。どっちも、本性は恐ろしく過激で、厳しく強かなことを銀時は嫌というほど知っている。
「……ヅラ子のどこがいいんだよ。まあ、顔はいいけどさ。結構アレだよ、アイツ。天然だし、ズレてるし」
「目」
 あら、ベタな。
 ちゃんちゃらちゃらちゃら、ちゃらちゃらちゃららー。
 不意に銀時の携帯が鳴り出した。メールだ。
「天国と地獄か」
「ちげーよ、文明堂のカステラだよ」
「メール着信音まで糖分か、てめえ」
「うっせーな。お前のがネギまの木乃香着ボイスなことくらい沖田くんに聞いてんだからな。ヅラ子にばらすぞ」
「……そういえばさー、松平のオヤジさんと取引してる仕事人にさー、せっちゃんそっくりな声の子がいるらしいんだよねー。なんか、頼めないかと思ってさー」
「黙れ死ねネギまグッズに埋もれて死ね明日菜のぽかぽか添い寝シーツにくるまって窒息して死ね」
 メール内容を確認し、ちらと外を見る。桂と目が合う。こくり、と頷いた。
 秋葉原で攘夷志士同士の小競り合いがあり、それにたまたま居合わせた新八が巻き込まれたらしい。怪我人などは出ていないようだが、話がこじれる前に仲裁に出向かなければならない。自分一人でも十分だが、心配ならついてこい。お妙は巻き込む訳にいかないので、事情だけ伝えてある、とのこと。
 そういえば、握手会のチケットを取りに並びに行くとか言ってたっけ。つくづく不運なヤツだ。
「ねえ、とっすぃー」
「誰がとっすぃーだ」
「俺、今日はこれでお暇するわ。急な仕事が入っちまった」
「……ああ、いいぜ。アンタに奢るなんざ真っ平御免だったんだ、俺ぁ」
 さっき、ヅラ子と二人きりじゃ何話していいかわかんなぁい、ってめそめそしてたのは誰だよ。ちょっとうまく行ったら調子乗りやがって。
 会計を済ませて外に出れば、案の定、桂も土方に頭を下げた。
「すまない。バイトに欠員が出てな、すぐに秋葉原に戻らなければならない」
「……ああ、うん、そういうことなら仕方ねえよ……うん……」
 やーいやーい。明らかにショックを受けて、目が泳いでいるのがおかしくてたまらない。
「じゃ、俺達、これで失礼するからー」
「あとは楽しんでくれ」
 バイビー、と古臭い挨拶をする桂の頭をひとつ小突いてから、銀時と桂は歩きだした。
 肩でも抱いて見せつけようかと思ったが、大人気ないのでやめた。

 あとは楽しんでくれ、と言われても。土方としては、お妙は知っている女ではあっても、口説きたい対象ではない。そしてなによりも、近藤の愛する女に下手は打てない。
 しかし、お妙はそんなこと知ったこっちゃないと言うかのように、にこにことしている。
「じゃ、行きましょうか? 土方さん」
「……行くのか」
「しゃぶしゃぶなんて久しぶりだわ。楽しみです。ここからなら、歩くより山手線で行っちゃった方が早いかしら」
「……ま、いいけどな」
「それとね、今月、同伴ノルマ厳しいんです」
「アンタ、最初からそれが目的だったな!」


<<秒速5センチメートル>>

「中央線が止まってなくてよかったな。先日も職を失った浪人が飛び込んで……」
「暗い話はやめてください」
「このような不遇なものがこれ以上生まれる前に、この国を変えねば……」
「攘夷の話もやめてください」
 ホームで電車を待ちながらする話ではないだろう。もっと他愛もない話しろ。桂の白い顔を横目で見つつ、銀時は小さくため息をつく。
「それにしても、新八は不幸な子だよ……」
「貴様に似たな。この先、延々と貧乏くじを引き続けるのだろう。哀れな子だ」
「俺のせいかよ! 大体、なんでアイドルショップで攘夷浪士がケンカすんだ!?」
「知らんのか? 最近、裏ルートで俺なんかの写真が出回ってるんだぞ?」
「……は?」
「先日のテレビ出演以来、妙に需要が高まったらしくな。攘夷の気風が上がるなら、と、いくつか限定で出してみたんだが予想外に売れた。で、それに乗じようとした他の一派が、盗撮まがいの品を流し出した。俺はある程度は泳がせておけと言ったんだが、若い者には血気盛んな者が多くてな。店に殴り込んだらしい」
「……なんで指名手配犯が自分から顔写真ばら撒いてんだああああ!」
「いいじゃん、もう全国のお茶の間に流れちゃったし」
「開き直るなああ!!」
 一応は女の姿をしている者を人前で殴る訳には行かない。必死に拳を抑える。
「まあ、確かにそろそろ潮時だな。……高杉の写真も出回りだしたらしい」
 ぴくり、と、自分の眉が引き攣れるのが分かった。
「危険性の分かっていない金目当てのバカどもの仕業だ。不逞浪士というやつだな。今は完全に闇ルートだが、近いうちに鬼兵隊の粛正が入るだろう。血を見る前にやめさせないと……」
「……ヅラァ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
「さっき言ってたのって、やっぱ高杉のこと?」
 死人の恋。
「……映画でな、あの、別れた女が男に宛てたメールがあっただろう。1000回やりとりしても、距離は1cmも縮まらなかった、と」
「ああ」
「あれは辛かった。自分のことを言われているようだった」
 桂とはもう、出会ってから二十年近い付き合いだ。だから、その癖も何もかも知り抜いている。
「結局、俺の言葉ではあいつを引き留めることは出来なかった」
 桂は自責に捕らわれる時、強く拳を握る癖がある。爪が食い込んで血が出るまで、強く。
「あいつの世界には、もう、俺達はいないんだろう」
 だから、その手が拳を握る前に、素早く指を取った。
 顔は見れなかった。見る勇気はなかった。ただ正面を見て、落ちつつある陽に照らされるビル街を睨むのが精一杯だった。
「高杉んとこの奴と会った」
「聞いた」
「あいつは俺が止めてやる」
「そうか」
「あいつを、お前のとこに戻してやる」
 もう自分は戻れないから。
「お前のそばに、戻してやる」
 せめて、あいつだけでも。
「銀時。桜の花びらが落ちる速度は?」
「秒速5センチメートルだろ?」
「そう。打ち上げロケットに比べれば、一万分の一だ。でもな、銀時」
 きゅう、と、指が握り返された。
「散った桜が元に戻ることは、ない」


<<エピローグ>>

「あら」
「どうした?」
 振り返れば、お妙が向こう岸のホームを指さしていた。中央線上り。ぼんやりと立っている万事屋とヅラ子。
 その手はしっかりと握り合っていた。
「……やっぱり出来てるんじゃねえか」
「残念でしたね、土方さん」
 ふふふ、と笑う顔は、いつ見ても涼しげに綺麗な娘だ。ホステスを生業としているのに、夜の女にありがちな媚びが一切ない。そういえば、ヅラ子も夜はかぶき町で働いていると聞いたが、男に媚びへつらったところはなかった。土方にとっては、そういう女のほうが気持ちがいい。背がしゃんと伸びた、いい女だと思う。
「ただの幼馴染だとか言ってたくせにな」
「今日、焼けぼっくいに火がついたのかもしれませんよ。やっぱり他の男になんか渡せない、みたいな?」
 キューピッド役ご苦労様、とまた笑う。同伴を頼むのなら、もう少し気分よくさせてほしいものだ。
「あんたはヅラ子さんのこと、よく知ってんのか? すまいるの女じゃねえだろ」
「直接お会いしたことはあまり。新ちゃんがよく話してくれますけど」
「どんな風に」
「きれいなのにすごくバカだとか、ボケだとか、天然過ぎてウザいとか、人の気持ちが分からない人だとか」
「……ボロクソだな」
「でも、すごく優しくて情が深くて、とても頼りになる、とても強い人だそうです」
 強い。女を褒める言葉ではないような気がする。
「でも、そう言ってました。だから銀さんと一緒にいられるんだろう、って。銀さんを守ってあげられるくらい、強い人だから」
「……そりゃあ、強いな」
「ええ」
 あのなんでもかんでも背負ってしまおうとするお節介な男をさらに包んでやれるような女は、そう滅多にいないだろう。ならば、自分が彼女に見出したものもあながち間違いではないのかもしれない。
「強い女は好きだ」
「同伴はお願いしましたけど、口説かれるつもりはないんですけど? いいんですか、ゴリラに言いつけますよ?」
「口説いてねーよ、アンタのことじゃねーよ! あと、頼むから、名前で呼んでやってくれ!」
「ゴリラはゴリラじゃないですかぁ」
 本当に、こういう時までころころと綺麗に笑う娘だ。
「土方さんこそ、どんな人かわからない子を口説くつもりだったんですか?」
「そういうもんだろ、男が女を口説くなんざ」
「意外と軽い人だったんですねえ」
 軽いつもりはない。ただ、もうやめようと思っただけだ。武士道だ志だを持ち出して、弱い自分から目を逸らし、誰かを傷つけることしか出来ない。そんなことはもうやめようと思ったのだ。
 そんなものを全部ひっくるめて、自分の背中に背負う。それがどれだけ辛かろうが、出来ないわけではないだろう。あの男に出来て、自分に出来ないわけはないだろう。
「……目が気に入った」
「ベタな一目ぼれですねえ」
「強い女の目だ、あれは。背がしゃんとして、真っ直ぐ立ってる目だよ」
 どれほどの孤独の中でも、押しつぶされずにただ真っ直ぐに。
「惚れた男に置いてかれてもメソメソなんかしそうにねえ、笑って送り出してやれる、そんな目だ」
「サイッテーだな、オメー」
「……はあぁ!?」
 予想外の返答に思わず振り返る。やぶ睨みのお妙の顔が正面にある。
「どうして男の人ってこうなのかしら。もう、チンコどころかタマも腐ってもげろやマジで」
「女がそういうこと言うんじゃねえよマジで!」
「女が泣くのは涙でだけだと思ってんじゃねーぞコルァ」
「……知ってるよ」
 痛いほどに知っている。
「そういうのもひっくるめて、守ってやりてえんだよ」
 電車が入ってくる音がして面を上げた。生憎とこちらのホームではなく向こう岸。中央線江戸方面。電車が過ぎ去ったあとに、あの幼馴染たちの姿はなかった。
「最低。マジで」
「知ってるよ。マジで」
 守ってやるだけではなく、守ってもらえていると思えるくらいに、そのくらい女を信じてやることができたなら。
 半回りも年下の娘に最低と言われることはなかったのだろうか。
「……近藤さんはこういうこと言わねえから。安心しろ」
「ゴリラがどうだからって、ストーカーに安心なんか出来ません」
 あと、
「それくらいは知ってます」
 近藤は本当にいい女に惚れたと思う。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<<OneMoreTime、OneMoreChance>>

「銀時、暑苦しい」
「いいじゃん、別に」
 電車の中で、桂はべっとりと銀時に抱きつかれていた。背中にぴったりと身体を押し付け、腕を回し、肩口に顔を埋める。傍から見れば、いい年したバカップルにしか見えまい。
「変な目でみられてるぞ」
「大丈夫よ、ヅラ子可愛いからぁ」
 それを鑑みても、おかしいと言っているのだ。
 ああ、甘えモードが入ったな。昔から時々あることだ。桂は、ふ、と小さくため息をつき、扉に側頭を預ける。
「……ヅラ子、可愛いね」
「黙れキショイ」
「褒めてんのに」
 ぐりぐりと額を押し付けられる。銀時の声は低く小さいが、身体を直に伝わってくる響きは桂にはよく聞こえた。
「ヅラ子ちゃん。実はな、多串くんには故郷に可愛い女の子がいるんだ。就職する多串くんを見送って、ずっと待ってるんだ」
「ほほう。それはそれは」

「お前もそうだったらよかった」

「……あのな。俺がいなかったら、今頃、貴様も高杉も土の下だぞ。坂本は分からんが」
 あれはしぶといから。
「……それもそうね」
 くしゃくしゃと頭を撫でる。桂は銀時の頭を撫でるのが好きだ。ふわふわしていて気持ちがよい。
「貴様らしくもないな」
「そうでもねえよ」
 悔やむな。
 お前が間違っていないことは、お前が一番よく知っているはずだ。
 そう言ってやりたかったが、桂は口を噤んだ。
 きっとそれは、こやつにとって、俺に言われるのだけは耐えられない言葉なのだろう。
 自分はもう、こいつを救う言葉は言えないのだろう。
 銀時のクセっ毛に頬を埋める。銀時の好きなときにこうしてやれるのなら、この格好も悪くはない。
 それくらいしかしてやれない。