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2007年9月30日

カフェ・ド・鬼 幕一 前編

幕一 『ディエンビエンフー』
ディエンビエンフー
 『秒速5センチメートル』の続きですが、シリーズは別。
 カプ的には、銀桂前提の土→ヅラ子で、高杉の影入り。

 動乱編?竜宮編の合間の話になります。


■おに 【鬼】
 〔姿が見えない意の「隠」の字音「おん」の転という〕]
 ・(天つ神に対して)地上の国つ神。荒ぶる神。
 ・人にたたりをする怪物。もののけ。幽鬼。
 ・放逐された者や盗賊など、社会からの逸脱者、また先住民・異民族・大人(おおひと)・山男などの見なれない異人をいう。

 ・死者の霊魂。亡霊。

(大辞林 第二版より)


「ケーキフェアをやるのだ、銀時」
 桂がチラシをすっと差し出す。
「貴様、ケーキとか洋菓子とか大好きだろう。タダとはいかんが旧知のよしみ。3割引に負けてやろう。リーダーや新八くんも連れてくるといい」
「……それ自体はありがたい話なんだけどよお」
 チラシに書かれた店名を見て、げんなりとする。
 攘夷喫茶『カフェ・ド・鬼』。
「これって、何?」
「攘夷喫茶だが?」
「いや、だから、攘夷喫茶って何?」
「攘夷とは夷狄を攘斥する、つまり外敵を排する思想であり……」
「しっとるわ、そんなもん! 先生から耳にタコが出来るくらい聞かされたわ! そうじゃなくてだな……!」
「出資者は坂本だ」
 ずず、と桂が茶を啜る。あとお前、先生の講義は大抵寝ていたじゃないか、とも付け加える。
「飲食業に乗り出したいというのでそのテストケースだな。俺は、まあ、えぐぜくてぃぶぷろでゅーさーというか、店長というか。資金を稼ぎながら、若者に攘夷の思想を広め、戦中の歴史を伝え、かつ志士たちの隠れみのにもなる。妙案だ」
「なってねーよ隠れてねーよ攘夷志士だってバレバレだよ」
「でも、結構流行ってますよね、桂さんのお店」
 新八が茶菓子の羊羹を出しながら、口を挟む。
「前通るといつも行列出来てますよ。ウェイトレスのレベルも高いって評判ですし」
 秋葉原はアイドルの街でもある。やれショップ独自の予約特典だ写真集発売記念の握手会だとしょっちゅう通う新八が訳知り顔で語る。それにしても、いつから『あきはばら』って言うようになったんだ? 銀時が江戸に来たばかりのころは『あきばはら』と言われてたはずだ。
「うむ。この手の喫茶は芸能界も注目しているということでな。アイドルを目指している婦女がよく集まるのだ。うちも、とあるプロダクションと提携している。もちろん、攘夷喫茶の思想に賛成してくれるものだけだが……」
「攘夷思想を理解するアイドル候補って、どうなんだよソレ……」
「何を言う。新八くんのお気に入りである寺門通とやらも、なかなかに反幕的反天人的な歌を歌っているではないか。気骨があってよいぞ」
 そうなの? と、振り返れば、まあ、たまに、と頷かれる。新八の歌う暴力的騒音では、歌詞までは分からなかった。
「だから、怪しげなものではない。安心して食べにくるがよい」
「怪しいわ! 思いっきり怪しいわ!!」
「……ヅラァ」
 それまで一切しゃべらず、ソファの上で胡座をかきチラシを睨んでいた神楽が口を開く。
「どうした、リーダー」
「コレ、私が行っちゃあ駄目アルカ?」
 私、ワルモノネ。
 付け加えられた言葉に思わず新八が身を乗り出しかけ、銀時の左腕に制される。
 攘夷戦争。天人と地球人の戦い。傭兵種族である夜兎が参加していなかった訳はなく。
「リーダー」
 桂は音もなく立ち上がり、神楽の横に膝をつく。目線を合わせ、しっかりと語りかける。桂はどんな相手にもそうだ。子供だからと言って侮ることは一切ない。
「この店は確かに攘夷戦争がモチーフだ。ウェイトレスもそのような格好をしている。しかし、それはその時代に戻れと言っているのではない。俺もあの頃に戻りたいなどとは思わない。だからこそだ。そのような時代があったことを忘れず、しっかりと踏まえ、新たな夜明けを目指すためにこの店はある。夜の闇を知らねば陽の光の美しさは分からぬのだ。リーダーが目指すものもそうであろう」
 夜兎の血は戦いを欲する。だからこそ、誰かを守るために戦いたいのだと、神楽は言う。
「俺は、リーダーは同志であると思っている」
「……タダで食わせてくれる?」
「三つまでなら俺が奢ろう」
「キャホオオオ! 銀ちゃん、行くネ! ケーキ食いに行くアルヨ!」
 お前、この胃袋娘が三つで満足できる訳ねえだろうよ。そう言う銀時の頬が緩んでいたのが、新八には嬉しかった。


「よく来たな、同」
「……スカート短けええええええ!!!!」
 お決まりらしい文句を最後まで聞く前に、銀時の踵が桂の脳天に入る。
「な、何をする! 店長、いや、党首に手を上げるなど志士にあるまじき……!」
「黙れええええ! どこの世界に絶対領域を装備した党首がいるかああああ!!!」
 ミニスカートだ。正確には極端に短い行灯袴というかそういう仕立てだが、ともかく見た目はミニスカートだ。
「なにそれ!? お前がデザインしたんじゃねえだろうな!」
「いや、坂本が……」
 あのモジャモジャぁ! 銀時は、我が身を顧みぬ罵声を店の観葉植物にぶつける。
「まあ落ち着け。席は取っておいてあるぞ、早く入れ。同志三名歓迎するぞ」
「「「ようこそ、攘夷党へー!」」」
 ウェイトレスたちの甲高い声に招かれ、万事屋ご一行は『カフェ・ド・鬼』のテーブルに着いた。

「……あれ、絶対パンツ見えますよね」
「……見るなー、見るなよ新八くぅん。見たら、なんかこう、変な夢の扉開いちゃうぞ?」
 神楽がもっさもっさとケーキを頬張っている横で、銀時はパフェのスプーンも進まず頭を抱えていた。
 土方から聞いて、この店にいる桂が女装しているのは知っていた。しかし、あの格好はないだろう。
 髪は昔のように、横合いにゆるく結ばれている。しかしその額を占めるのは無粋な鉢鉄ではなく、控えめなレースが縫い付けられたカチューシャだ。上着はあの頃も好んで着ていた草色の単。ただし小袖。それを白い襷でまとめ上げ、やたら短い胸当てをつけている。そんな短かったら、心臓くらいしか守れないだろって短さ。腰の後ろに短刀が差されているが、まさか真剣を持っている訳はあるまい。雰囲気作りのための竹光だろう。
 そして、腰高に結ばれた黒い行灯袴は極端に短く……膝上っつーより、股下で二寸ほどしかない。逆に極端に長い脚絆が膝上三寸にも達し……まあ、その隙間が作り出す絶対領域の白さがまぶしいことまぶしいこと。
 短い着物を着ている娘は町にも多くいるが、こんなにヒラヒラしていない。呼び止められ、振り向くたびにひらりと舞い上がり、そのギリギリっぷりから目が離せない。
 もちろん、桂だけでなくウェイトレスは皆似たような格好なのだが、どうしても知り合いが目に入るというものだ。
 しかもこの店、テーブルと椅子ではなく、昔ながらの小上がりの座敷席だ。くノ一カフェと同じくレトロ趣味がモチーフなのだから当然なのだろうが……
 その……
 目線とスカートの裾の位置がほぼ一緒なんですけど。
「食べているか。ベリータルトがお薦めだぞ」
 うわあ、やってきた。
「美味しいか、リーダー」
「なかなかヨ、やるなぁヅラ」
「どうした銀時、箸が進んでないようだが」
「……食欲なくしました」
「新八くんはコーヒーだけでいいのか? 今、『党首様のお絵かきオレンジショコラケーキプレート』を頼むと俺がチョコソースで絵を描いてやれるが……」
「あ、じゃあ、それで……」
「……新八ぃぃぃ!?」
「だ、だってだってだってー!」
 待っていろと厨房に行く桂を尻目に、銀時が新八の胸倉を掴みがっくんがっくん揺する。
「落ち着け新八くん! お前、ヅラにお絵描きしてもらってどうするんだ! 何が楽しいんだ! 血迷うな青少年!」
「分かってますよ、ンなこたぁ! でも、あそこで断るのも変じゃないですか! 銀さんこそ落ち着いてください!」
「うるせーな、このマダオとマダメはヨー。ケーキくらい落ち着いて食うネ」
「ンだとコルァ。おめーが食ってるそれは誰の金で食ってると思ってんですか!」
「ねえ、神楽ちゃん。マダメって? マダメって何?」
「これはヅラのおごりの分ネ。次からが銀ちゃんのおごりヨ。マダメはマダメヨ、それ以上でもそれ以下でもないネ」
 フルーツババロアをもちもちと噛みながら、神楽がぼやく。
「いまさらヅラの生足くらいでギャーギャー言ってんじゃねーヨ。慣れろヨ、そんくらい」
「神楽ちゃんは慣れてるんだね……」
「無理、銀さんには無理。二十年近く付き合ってるけど、一向に慣れねえわ」
 というより、年を重ねるごとに奇行のレベルが上がっているのだ。ある程度慣れたころに、それを上回る奇行をやってのける。それが桂小太郎という男である。
 例えば、三十にも手が届こうというのに、女装でミニスカートを履きこなすとか。
 思っていた以上に違和感は無いが、違和感が無いというのが怖くて仕方がない。
「待たせたな。どうする、何を描いてほしいんだ、新八君?」
 トレイにショコラケーキの白いプレートを乗せ、再び桂がテーブルにやってくる。
「何……と言われても……」
「なんだ、何も考えていなかったのか。駄目だぞ、そんな優柔不断なことでは。志士たるもの、常に先の先を考え、自らの歩む先を答えに出しておくものだ。でないと、そこの天パの如く曲がりくねった場当たり人生を過ごすことになる。ただでさえ眼鏡なのに」
「天パ関係ねえええ!」
「眼鏡関係ねえだろうがああ!」
「定春描いてヨ、ヅラァ」
 唯一、状況に適応している神楽が、桂のスカートの裾を引っ張る。
「む、さだぴーか。よし、隣にエリザベスも描いてやろう」
 そう言うと、さっとスカートの裾をさばき、床に片膝をつく。ただでさえあらわな太ももがさらに白日の下に晒され、銀時はぎょっとした。不覚にも新八も。
「ヅラアアア! その座り方はよせ、パンツ見えるだろおが!」
「安心しろ、見せパンだ」
「見せパンってなにいいい!? っていうか、見たくないんです、見ると自分が自分でなくなりそうな気がするんです!」
 狼狽する二人を放置し、桂は膝に置いた白い皿にチョコペンでさらさらと描いていく。
「……うまいじゃん」
「犬を描いてくれという客は多いものでな。さだぴーの尊顔をお借りした」
「あー、ヅラ、それ肖像権侵害アルヨ。おわびに今度、ドッグフードもってくるヨロシ」
「それもそうだな。ルージャ、リーダー。今度、挨拶とお詫びに伺おう」
 ほのぼのしてんだかなんなんだかの会話が終わるころには、これだけ見れば愛らしい犬とこれだけ見ると何がなんだか分からない謎の生き物が、白い皿の上に現れていた。
「ゆっくりして行け」
 残された皿を放置する訳にも行かず、新八は黒いケーキをフォークで切り崩し口に運ぶ。
「……どうよ、党首様のお絵かきオレンジショコラケーキプレートは」
「……おいしいです」
「銀ちゃん、パフェ溶けてるアル。食ってやろうか?」
 神楽の音速の右を躱し、銀時もスプーンを口に運ぶ。
「……うまいな」
 掛け値なしでうまい。そこらの喫茶店では敵わないだろう。パティシエ並みの味だ。坂本の飲食業に掛ける気合の賜物なのだろう(もしくは陸奥のフォローの賜物か)。
「ええ、おいしいんですよ。それで女の子が可愛ければ、流行るに決まってますよね……」
 美人店長もいるしね。
 客は引っ切りなしに訪れ、とうとう行列ができたようだ。店内では、愛らしい笑顔のウェイトレスたちの合間を桂の長身が颯爽と歩き、各テーブルに営業スマイルを振り撒いている。既にファンがついているのか、何やらプレゼントを押し付けられそうになり、困り笑顔で断っているシーンも見受けられる。
 あいつら、あれが男だって分かってんのかな? 分かってないんだろうな。もしくは、分かっててもそれでいいとか思ってんだろうな。攘夷志士たちの隠れみのにもなると言っていた。ならば、客にも紛れ込んでいるのだろう。あいつらの桂さんファンクラブっぷりを考えれば、別におかしくもない。
 確かに桂はきれいだ。女装に違和感がないのは知っていたが、こんな格好まで着こなすとは思っていなかった。背こそ高いものの身体の線は飽くまで細く、薄い撫で肩からつながる背中の儚いラインなど男には到底見えない。腰高の袴のおかげでウェストも締まって見え、絶対領域の抜けるような白さはこの店でも比類なきものだろう。
 ……でも、ヅラなんだよなあ、アレ……あ、
「パンツ見えた」
「……銀さん、僕には見るなとか言っといて……」
「ちげーよ! 不可抗力だよ、勝手に視界に入ってきたんだよ! ちなみに白いアンスコみたいなやつでした!」
「報告せんでいいわあ! とゆーか、フリルか! あの下、フリルなのかあ!」
「すンませーん、お代わりヨロシー。レアチーズケーキとオレンジタルトとサクラムースとパッションババロアとラズベリーオペラとメロンショートケーキとー……」
「神楽お前、少しは遠慮しろお!」
 それぞれが甘い物を口にし、次第に調子を取り戻してきたころに、その衝撃はやってきた。
「あー、坂田氏とそのゆかいな仲間たちー。奇遇でござるなー」
 ……うっわあ。


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