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2007年10月12日

アキバ系JOY 黎明編

 アキバ系設定で銀桂前提の坂桂。大学時代の話。
 ナチュラルにヅラが変なのでお気をつけください。


「……こりゃまた、かわゆー化けたもんじゃの」
 坂本の声に桂が弾かれたように顔を上げる。今の今まで、緊張しすぎてて気付いていなかったらしい。
 二年生だからもう二十歳にもなるというのに、華奢な身体をふんわりとしたワンピースに包んだその姿は、大人びた、かつ未成熟な少女のようにも見える。サイトにアップされた写真通りの美しさだ。それに桂の秀麗な美貌が加われば、そんじょそこらの女子大生よりはるかに美しい。というか、そそる。
「え、え、あ……?」
 細く形のいい眉が顰められ垂れ下がり、戸惑いと焦りを伝えてくる。口は混乱から言葉を探し出すようにパクパクと開閉され、大きな黒目がちな目がじわりと潤む。
「ほれ」
 坂本が『目印に』と指定されたフルーツポンチの缶を振って見せると……桂はその場から脱兎のごとく逃げ出した。逃がすものか、そのひらひらしたスカートの端をしっかと掴む。
「まあ待て待てヅラよ。話ば聞かせるぜよ」
「ギャーーーー!! 違う違う、ヅラじゃない桂、じゃない! ヅラでも桂でもなくて、ヅラ子、いや違う! そうじゃない! 人違いだーーー!!」
「はじめましてー、『まっくろモジャすけ』じゃー」
「うあぁあああぁぁぁぁああぁあん! 離せえぇぇぇ!!」
「がふっ……!」
 見事なアッパーカットが坂本の顎に決まる。


 些細な噂からだ。誰から聞いたかも忘れた。
 えらくキレイな女装サイトがある。しかもこの近辺、さらにはこの大学の学生である可能性が高い、と。
 もっさん、そういうマニアックなの好きでしょ。
 まあ、好きだ。人類博愛主義を標榜する坂本としては、可愛ければ股間の作りなどどうであろうが構わないと本気で思っている。まあ、そこまで本気で可愛いと思う自分と同じ股間の作りをした人物など出会ったことはないが。
 しかし、そのサイトの写真は、正直キた。
 画素の荒い携帯電話の写真。画像編集ソフトで修正されたであろうポートレート。巧みに隠された顔。それらを抜きにしても、きれいだと思った。ほっそりと贅肉の付いていない足、薄い皮がぴんと張り詰めた背中、第二次性徴前の少女を思わせる鋭い輪郭、抜けるように白い肌とそれにまとわり付く滑らかな黒髪。完成された大人の肉体であるのに性が未分化な少女の体つきを思わせる、不思議な妖艶さを漂わせた写真の数々に、なるほどこういう世界もあるのか、と、妙な関心を覚えた。
 サイトのBBSは『彼女』の美しさを褒め称える書き込みで溢れ、『是非一度撮影会を』『オフ会を』『イベントなどには出ないのか』という誘いがひっきりなしだった。その全てに『彼女』は『身の回りの人物にこのサイトのことは話していないし、カミングアウトは考えていない』『バレるのは困るので、そういう場所に出る気はない』という返答をやんわりとした言葉で貫いていた。
 まあ、そうであろう。こういうサイトで一番怖いのは身バレだ。下手すればストーカーが付く可能性もある。写真の背景などから、この近辺に住んでいることは分かるし、日記の端々から学生の身分であることも透けて見えるが、それ以上の情報は出されていない。巧妙なラインを貫いていた。
 しかし、ある日の日記でそれが覆る。たった5分しか表示されなかった日記。
『本当は、ちゃんと目の前で見てもらいたい』
『顔も全身も見てもらって、それで似合うよって言ってもらいたい』
『ぎゅって抱きしめてもらって、女の子より可愛いよって言ってもらいたい』
『もしも、運よくこの日記を見ている人がいたら』
『メールをしてください。私の願い事を叶えてください』
 特に会いたいと思っていたわけではない。そのサイトに通っていたのは、綺麗な絵を見に行く感覚に近かった。
 まずい、と思ったのだ。
 日記からは『彼女』自身はひどく真面目で実直で、倫理観の強い人物であることが見て取れた。だからこそ自分の欲求を許せず日常ではひた隠しており、このサイトはその抑圧の結果であることがありありと伝わってきていた。もしも、『彼女』に妙な欲望を持っている人物と会ってしまえば、それに流されるままになってしまうだろう。その人物は、『彼女』の本当の姿を知る唯一の相手だからだ。下手すれば、何もかも許してしまいとんでもないことになるかもしれない。目の前で、人が不幸になっていくのを無視するのは難しい。
 おせっかいの一環である。坂本はメールを送った。


 桂とは学部が違うが、銀時を通して何度か顔を合わせていた。えらく綺麗な顔をした男だとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。『人目につくから』と何とか車に引っ張り込み、後から後から溢れる涙をティッシュで拭ってやる。次第にそのしゃくりあげる間隔が広くなってきた。
「……落ち着いたがか?」
 こくん、と頷く。目元を真っ赤に晴らし涙に潤んだ表情は化粧も落ちたせいで酷くあどけなく見えて、本当にちょっと変な気分になる。
「……さかもとだなんて、おもってなかった」
「わしかて、ヅラじゃなんぞ思ってもみんかったわー」
 桂が恥ずかしそうに顔を背ける。話したことは数えるほどしかないが、桂がその容姿と違い男らしく真っ直ぐな性格をしていることは知っていた。まさか、女装癖があるなどと誰が思うだろうか。
「……わしで良かったじゃろ。他の男なら、ぱっくり食われとるところじゃ」
 普段からは想像もつかない弱々しさだった。たおやかで儚げで、本当に押し倒されたら抵抗も何も出来なさそうな。
「なんで、こがなことしたが? 悩んじょったがか? 銀時にも話せんかったがか?」
 親友なのだと思っていた。当人同士は幼馴染の腐れ縁だと言っていたが、その親密さや遠慮のなさは何もかも分かり合っているもの同士の信頼によるものだと思っていた。
「……銀時には言えない」
「なんで?」
「きっと、嫌われる」
 気持ち悪いと思われるから、と言うほど、単純な問題ではない口調だった。
 聞いてもいいか、そう口にする前に、聞いてくれるか、と桂が言った。
 受け入れてやる以外、何が出来ただろう。

 少しずつ話される。
 桂と、銀時と、一年下の高杉と、子供の頃からずっと一緒だったこと。
 高校時代に銀時に押し倒されたこと。
 怖くて混乱して、でも銀時を拒否する気にはなれなかったこと。
 恥ずかしかったけれど、銀時が喜んでくれるのが嬉しかったこと、そして自分も気持ちいいと感じ始めたこと。
 次第に、銀時無しでは寝付くことさえ出来なくなったこと。
 大学に入って、銀時に彼女が出来たこと。
「浮気がか」
 違う。
 好きだとか付き合ってくれとか、そんな言葉が出たことはなかった。互いに、単なる性欲処理なのだと分かっていた。
 浅ましくもその快楽を忘れられないのは自分だけなのだ。
 悔しいと思う自分が情けなくて、許せなくて、それでも認めざるを得なかった。
 銀時をよき友人と思いながらも、それに触れられることを求めている。
 それを受け入れるか、首を吊るか。二つに一つだと思った。

 ……ああ、だからその格好か。
「自分で言うのもアレなんだがな、結構似合ってるだろう?」
「かわええの」
「下手な女に負けてないだろう?」
 泣き腫らした目元で桂が笑う。
 自分を見てもらいたい。
 綺麗だ、可愛いと言ってもらいたい。
 抱きしめてもらいたい。
 女よりお前がいいと言ってもらいたい。
 それは全部、桂が銀時に求めたものだ。
 純粋な友愛と、恋愛ですらなかった情欲の合間で、ただ真っ直ぐに人を想うことしか出来なかった桂が生み出した歪みだ。
「かわええよ」
 同情である。それは否定しない。
「ヅラは、おなごよかかわええよ」
 それでもこれは坂本の本心からの言葉だ。
 くすん。鼻に掛かる泣き声のような息を吐いて、桂は笑った。手を伸ばしファンデーションの塗られた頬を撫で、グロスの落ちた唇に口寄せる。
 ああ、本当に綺麗な顔だ。


「いやだ! 絶対にいやだ!!」
 坂本の出したイベント案を桂は即座に否定する。
「なんでじゃあー。司会のおねーさん呼ぶ必要ものうてええアイデアやお? 予算も少のおし、これなら余分な衣装代も掛からんち」
「だからって、なんで俺が……コスプレして……!」
 二ヵ月後、多数のブランドが参加する新作発表会のような展示会が開かれる。新規参入のJOYとしてはここでなんとしてでも目を引きたいと、苦労してイベントスペースを確保した。だが、その時点で予算の大部分を消費してしまい、肝心のイベントに掛ける金がない。
 そこで、『ヅラ』『作画資料用に作った衣装』を活用し、『新作のヒロインのコスプレをしたヅラに司会をやらせる』という斬新なアイデアを捻り出した訳だ。
「いっつも社内じゃ着ちょるやか」
「お前らに見られるのと、他の者に見られるのとでは意味が違う!」
 桂が顔を真っ赤にしてぶんぶんと頭を振る。まだそんなことを言ってるのか。ここは切り札しかあるまい。
「金時もええアイデアじゃゆうてくれたんじゃがのー」
 ぴくん、と、桂の肩が跳ねる。
「ヅラならきっとみんな萌え萌えじゃぞー。ヅラ子たんハァハァって新しい客も増えよるぞー」
「……そんな客が増えてどうする」
「まずは注目度をあげることやき」
 作画モデルを渋った時もそうだった。『金時も見たいゆうてたぞ』の一言で桂は首を縦に振った。
「金時もかわええヅラをみんなに見てもらえりゃ喜ぶぜよ」
「……分かった、俺がやろう」
 桂はひたすら自分の欲求を押さえつけるタイプだ。人に見られたいと思っているのに、強固な倫理観がそれを許さず必要以上に抑圧してストレスを溜める。だから、それをゆっくりと解いてやらねばならない。
 ……要は、無自覚でドMということなのだが。
「ヅラはかわええのー」
 頭をぐしゃぐしゃと撫でてやると、拗ねたように唇を尖らせる。
 桂は未だ、銀時が自分を抱くのは性欲処理だと思っている。
 坂本が自分を抱くのは同情だと思っている。
 それもおそらく、抑圧の結果なのだろう。
「ほんにかわええの」
 少しずつ、分かってもらえればいいと思う。自分も銀時も、そして、桂も、ただ本当に相手を愛しいと思っているのだということを。