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2007年11月12日

ニセモノヘヴン

 銀桂。
 『月に果実が実るころ』アナザーみたいな。あと、小松左京『神への長い道』ネタ。


「ヅラ、幼な妻は欲しくないアルか?」
 突然のロリータ発言に、新八は客用に奮発して買った染付けの茶碗を割り、銀時は書き途中の請求書に墨をべっとりと溢した。当事者の桂だけが涼しい顔でわらび餅をもむもむ食べている。ごくりと飲み込み、茶を一口啜ってからゆっくりと、しかして簡潔に口を開いた。
「欲しくないが、なにかあったか? リーダー」
「即答かヨ。なぁに、いつまでもゆーちょーに最後の一歩を踏み切れないマダオに、アタイも愛想が尽きたアルヨ。こうなったら、ヅラの愛想が尽きる前にアタイが引き止めてやるアル。ヅラがアタイの嫁になれば、晴れてヅラと銀ちゃんは若妻と義父ネ。禁断の昼下がりでも淫欲の夜でも好きにやるヨロシ。お義父様イケマセンあの人の弟か妹がデキチャウってなもんヨ」
「俺がリーダーの嫁か。新感覚だな」
「神楽ちゃーん! 色々間違ってる! ってゆーか、お前が幼な妻になるんじゃねーのかよ!」
「幼な妻が若妻貰ってなにが悪いネ!」
「訳分かんない! 訳分かんないよ! 銀さん、なんか言ってやって!」
「……いや、もう、俺はなにがなんだか……」
「放棄しないでエエエ! 僕一人に押し付けないでくださぁい!」
 新八がぐったりと椅子から崩れ落ちる銀時の胸倉掴んでがっくんがっくん揺する。桂は大皿からわらび餅のおかわりを取り、再びもむもむ食べ始める。口元がきなこで汚れているが、あんまり気にしていないらしい。
「無理だ、リーダー」
「無理とはナニヨー! オメー、無理は失礼だぞ! そういう場合、『嬉しいけど君は僕には勿体無いから』とか『僕なんかより他の人を好きになったほうがいいよ』とか、遠まわしに断るもんヨ!」
「いや、無理というかな。俺とリーダー、というより、地球人と夜兎の間では子が成せぬから、出来るならもっと近い種族を探したほうがよい」
 神楽が目を丸くし、新八と銀時がぴたりと動きを止める。
「そうなの、銀ちゃん?」
「いや、知らねえよ。そうなのか、新八?」
「何で僕に聞くんですか。知りませんよ」
「そうらしい。染色体とかいうものが違うようだ。正確には子種は受けられるが、腹の内で育たん。夜兎をはじめとして、地球人に酷似した外見の天人は多いが、その出自や身体の構成は大きく異なる。性交は可能であっても、その先には進まぬわけだ。中には、種族的に非常に近く、子が作れる天人もいるらしいが」
「性交とかゆーなよ、オメーはよー」
「では、どう言えと言うのだ。チョメチョメか、そう言っていいのか、逆にいやらしいぞ」
「お前はそれをいやらしい言葉を認識してるのか!」
 神楽は新事実に、首を捻り眉を顰めて考え込んでいる。
「……じゃあ、あれアルか。銀ちゃんの光源氏計画も頓挫アルか」
「いつ俺がそんな計画を企みましたか!?」
「婚姻だけなら不可能ではなかろう。天人と地球人との婚姻を制度化する動きも出ているようだ。安易な永住権獲得、財産の流出、もしくは人身売買に悪用される恐れがあるので我が攘夷党としては反対の立場を取っているが、時代の進み方によってはリーダーが銀時の末期の水を取ってやることも可能だ。ただ、その場合でもやはり子は成せぬが」
 ずず、と、茶をもう一口啜る。
「人と人のつながりは子を成す為だけのものではないが、夜兎は絶滅の危機に瀕しておるのだろう。リーダーがどのような道を選ぶにしても、もう少し考えたほうがよい」
 んんー。神楽が腕を組んで天を仰ぐ。
「我が種族の繁栄は、私の双肩に掛かってるとゆーことネ」
「そこまでは言っておらんがな。担うものがあれば、進むべき道も見えてくる。それらを全て捨てて別の道を選ぶにも覚悟が必要であるということだ」
「銀ちゃぁん! これは困った事態アルよ!」
「いや、何も困ってねえよ」


「天国への階段というらしい」
「はい?」
「天人に我らと同じ二足歩行のヒト型が多い理由だ。どの星でどのように生まれた生命体も、高度な知能と技術を得ようと進化を続けるとこのような姿かたちにたどり着くらしい。生物学的に言うと不完全にも程がある姿なのだが、同じものを目指せば同じ形を取ってしまう、ということなのだろう」
「……あー、つまり、同じ『天国』を目指して進化してるってワケ?」
「そうだ。神への長い道のりというわけだ」
「どこで聞いたのよ、そんなこと。坂本か?」
「バイト先だ」
「は?」
「ほら、最近、天人限定で生OKの店とか増えてるだろう。危険ではないのかと思っていたのだが、どうもそういう理由で……」
「ストーップ、ストップストップ。生とか言わなーい」
「感染予防という点では危険なことに変わりはないのだがな」
「感染とか言わなーい」
 一応、ここは商店街だ。いくら爛れた街だとは言え、夕暮れの商店街というノスタルジー溢れる場所で、生OKだの性病だのの単語は出してほしくない。銀時と桂は夕飯の買出しに八百屋魚屋と回って、てくてく帰宅の途についている最中である。
「ふぅん……気にしたことなかったけどなあ。そういうもんなのか」
「うむ。そういう意味では長い目で見れば……何千年何万年という単位だが、我らも天人も同じものを目指しているのかも知れぬ」
 天国。ただひとつの完全なる調和のかたち。
「……弱気にでもなっちゃってんの?」
「違う。しかし、同じものを目指しているのならば、出来ればその道筋は穏やかなものでありたい、と思うだけだ。今はな」
 桂にはその道筋が見えているのだろう。自分達が成すべき調和のかたち。進むべき道。
 ……何千年何万年って、先を見すぎじゃね? 一万年と二千年どころじゃないよ?
 それでもきっと、桂はその道を行く。そういう男だ。自らの痕跡を何も残さず、ただひたすらに前進しその果てに朽ちる。それを自分から選ぶことが出来る男だ。
 その姿を、銀時は美しいと思う。

 同時に、悔しいとも思う。

「まあね、神楽がどんな大人になりたいとか、夜兎をどうしたいとかそういうのは別にしてね。惚れた男がいるなら、そっちに行くのもいいと思うんだけどさ」
「なんだ、やはり嫁にでもするつもりだったか」
「あんなエンゲル係数高い嫁はいらねえよ。……そうじゃなくてさ、その、目指すべき形ってのは分かりますよ? 人の前はサルで、サルの前はネズミなんだろ?」
「乱暴な進化論だな」
「人を目指すのもいいんだけどよ、ネズミーマウスやおサルライフをもうちょっと楽しんでもいいんじゃないか、って思うワケ」
「サルが進化してもヒトにはならんぞ」
「……そうなの?」
「サルはサルで完成された種であり、ヒトとは進化の過程で分かれた種だ。前頭葉の発達や五指の器用さなど、同じ形を目指しつつ道を分けた古い友だな。俗説ではあるが、ヒトはサルの幼形体に近いので、サルの方が完成された生物だという見方もある。ヒトだけが優れた生き物と言うわけではない。更に言えば、非ヒト型の天人の中には地球を実効支配しているのはヒトではなく昆虫類であるとして、昆虫にコンタクトを取ろうと……」
「あー分かった。いや、分かった。そうじゃなくてさ、俺が言いたいのは……」
「元は同じ種でも、目指す先が違えば違う種となる。当然のことだろう?」
 ああ、先に言われた。銀時は乱暴に頭を掻く。
「ヒトにサルの生活が出来ぬわけではない。だが、ヒトとサルは違う種だ」
「……うん、そうね」
「それぞれが住まう場所に最も相応しい姿を突き詰めて、種というものは成り立つのだ。知ってるか? ヒトとサルは食うものが違う。だから消化器官が違って……」
「だけど、同じ場所を目指してんだろ?」
 ああ、言ってしまった。桂の目が丸くなる。
 破れかぶれだ、ついでにその手をむんずと掴んで引き寄せ、そのまま歩き出す。
「おい、銀時。早い、歩くの早いぞ」
 手を強引に引かれ歩調の乱れた桂が、珍しく慌てた口調で銀時に呼びかける。
 知るものか。知るものか。いつもはお前が勝手な速度で歩いているのだ。たまには合わせやがれ。
「いいじゃねえか」
「何がだ」
「天国への階段を上りきるにはさ、何千年何万年かかるんだろ。本当に同じものになるにはそれくらいかかるんだろ」
「そうだ。そのためにはたゆまぬ進化の努力が必要だと……」
「同じになんかならなくってもいいじゃねえかと、銀さんは思います」
 本当に同じものなど知らない。天国など誰も見たことがない。それがどんなものであるかなど、誰も知らない。それは理想郷で、誰かの夢の中にあるもので、現実に存在しないからこそ美しい。
 だからこそ、誰もが、『きっと天国ってこういうところだ』とぼんやりと思う場所というものがある。あるはずだ。
「それが同じ場所だって分かってるならさ。そう思ってる奴らが一緒にいれるならさ」
 桂は本物の美しさを追い求めることをやめないだろう。それだけを見つめ、惑わされることはないだろう。
 そう生きて欲しい。
 そのためなら、自分の腕の中にいなくても構わないのだと、そう思っていたのに。
「本物じゃなくてもいいじゃねえか」
 この手を離すのは、悔しい。この手を奪っていくものが嫉ましい。

「ニセモノだっていいじゃねえか」

「分かっているとも」
 きゅうと手を握り返される。
「そんなことは、分かっている」

 多分笑ってるんだろうなあ。普段の鉄面皮よりも少しだけ眉を緩めて、唇の端を少しだけ引いている。きっと、こいつと付き合いの浅い人間が見たら『ちょっと眠いのか?』と思う程度の顔で笑っている。桂の顔を見ていないが、きっとそうだ。確かめるのはやめておこう、きっとそれを見たら泣いてしまうから。
 傾いた日差しをつむじで受ける。視界の端に映る桂の裾捌きは、昔と変わらず憎たらしいほどきれいだ。
 ニセモノだ。偽りだ。きっと長くは続かないし、そう遠くもない先には壊れてしまうのだろうし、なんかの拍子に誰かいなくなるかもしれない。戦争や災いなどなくても、人というのはあっけなく消えるものだから。
 それでもいい。こいつと一緒に帰ることが出来るのだから、それでいい。
 あそこはきっと天国に一番近い場所だ。