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2007年12月24日

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 6

 銀さん誕生日話第6話。

 黒ヅラ降臨。そして、変な人が活躍。坂桂要素濃厚。


 党首が戦死した。これでこの軍に、桂や坂本よりも先達はいなくなってしまった。桂が坂本の部屋を訪ねたのはその夜のことだ。
 銀時は人を惹き付ける華があるが、情に脆く視野が狭い。高杉も身内の瑣末時にこだわりが過ぎる。二人とも一隊を任せるには適任でも、一軍を任せる器ではない。桂は、幼馴染其々を遠慮のない言い方で切って捨てた。坂本から見ても的確と思える判断だ。
「わしゃあ、桂さんが適任じゃ思うぜよ」
 質の悪い油のせいで部屋の空気は脂臭い。その中で、桂の目がくっと見開かれた。坂本を党首に推薦したい、というつもりだったのだろう。
 こなせる、と思う。やれると思う。それでも、自分より桂の方が適任だ。
「桂さん。この戦は、どれだけ長く負け続けられるかっちゅー戦じゃ」
 勝つのではない。どれだけ長く状況を引き伸ばせるか、どれだけの時間が稼げるか。それが第一目的だ。
「わしが頭に立てば、みんな笑ろうて戦ってくれるろー。飯がうまいゆえるろー。それじゃいけん。わしゃあ、その内、みんなで畑でも耕すかゆうぞ?」
 豪放磊落を絵に描いたような男だ。坂本についていれば誰も泣かない。笑って前のめりに突き進み、地に足をつけ、明日の飯を探す。
 誰も負けようとは思わなくなる。
「桂さんは、そんじょそこらのおなごよりも見目がええ。しょうにやせっぽちやき、見ちょるとはらはらしよる。みぃんな、桂さんを守りたいゆうちょるよ」
 ごりごりと足の裏を掻くと、固まった皮が剥がれ落ちた。長い道を歩けば誰でもこうなる。
「わしが頭でも桂さんが頭でも、みんな、頭のために死ぬゆうてくれるよ。やけんど、わしはみなに『わしのために死ね』っちゃあゆえん。ゆえば誰もわしを頭と崇めんようになる。桂さんはゆえろーよ」
「俺のために死んでくれ、と?」
「ん。何人が桂さんの絵姿を懐に入れちょるかしっとおか? 桂さんの声で泣きようやつがどんだけおるかしっとおか? みんな、桂さんにゆうてもらいたいんじゃ」
 共に死んでくれ、と。
「……銀時には断られたぞ?」
「うん。みんな、金時ほど臆病もんじゃありゃぁせんからの」
 その時の桂の顔を坂本は忘れないだろう。
 眉は泣いていて、
 唇は笑っていて、
 瞼は恐怖に戦慄いて、
 真っ黒に塗りつぶされた瞳孔には虚無があった。
 突き落としたのだ、と分かった。

 突き落とさざるを得なかった。


「……つーことで、犯人の要求は新型爆薬『銀散』の引渡しと頭との会談じゃ」
 淡々としゃべる陸奥の横で、桂は急拵えの報告書をめくる。時系列に沿ったメモをそのまま打ち出しただけだが、口頭で伝えられるより事態を把握し易い。乗り物酔いしやすい坂本のためか、際立って安定性の高い車中では文字を読むことも苦ではない。
「分かるか?」
「京で幾度か話した事がある奴らだな。千代田城への特攻を盛んに主張していた」
「阿呆じゃ」
「全く」
 いかにも呆れた風情の陸奥の言葉に、桂はくすりと笑う。
「直情径行の阿呆は、阿呆なりに扱い易い。適度に構ってやれば浮かれて尻尾を振ることに夢中になる。……しかし、しばらく顔を出し忘れていたな。飼い犬に手を噛まれるというやつか」
「どーせあの白もじゃといちゃいちゃしてたんじゃろ。頭ぁ、拗ねよーて大変じゃった」
「くくっ……うん、いやすまんな……くっ……」
 どれだけうんざりしたか、面倒だったか。それが滲み出る陸奥の声に笑いが止まらない。実際、品を発注する電話でも大変だった。

 こないだはわざわざ海に誘ったのに銀時ともう行ったからと断られた。苦労してとある海底リゾートの予約を取り付けたのにそこも潰れてしまったし、もう半年は遊んでもらっていないし。
『もしかして、竜宮城とかいうリゾートではなかろうな』
『おお、それじゃそれじゃ! さっすがヅラ、知っとったかぁ。知る人ぞ知るっちゅー楼閣でのー』
『そこを潰したのは俺と銀時だ』
 そこからがまあ大変だった。わしと遊びたくないばかりにそがな意地悪しよーか、ヅラぁわしのこと嫌いになっちゅーか、もういいもうヅラの頼みなんぞきかんちゃわしもヅラなんぞ嫌いじゃあ。大の三十男が泣きべそかきながら、そんなことをわめき立てる。
『嫌いじゃない。好きだぞ』
『……ほんとかー』
『本当だ。マジだ』
『愛してるゆーとくれー』
『あー、愛してる愛してる』
『わしも愛しちゅーよ、こたろーーv』
 本当に機嫌が直るのだから、簡単というか面倒臭いというか。気付かれぬようにため息をつく。
『愛してるから、銀散3トン、来月の十日までだぞ。いいな?』
『……やっぱりヅラは、わしより銀時が好きかー』
 何を当たり前のことを。
『安心しろ。辰馬のことは銀時の次に愛してるから』

「ともかく。これが片付いたら、頭と遊んでやっとくれ」
 でないと、迷惑するんはわしじゃ。
「銀時がいいと言ったらな」
 陸奥は、はぁと大きくため息をついた。
「どこから情報が漏れたと思う?」
 桂の言葉に脳内で報告書の内容をリピートする。
 船がターミナルに着いたのは昨晩のこと、検疫は翌朝になるということで船員は全員ターミナル内のホテルに泊まった。
 血液検査が終わったのが午前十時。
 荷の検疫のため、陸奥以下若干名が残り、他には休暇を出したのが十時半。
 検疫スペースに賊が入り込んだのが、十四時。
 早すぎる。情報が流れるスピードが速すぎる。
「普通に考えれば内通者だな」
「桂さんは、うちの奴らがそがぁな腑抜けじゃ思うちょるか」
「貴様らの内通者とは限らんよ」
 ちりっと頭の中で回路がつながる。
「入国管理局か」
「それと真選組だな。快援隊が攘夷派と繋がっていることを知るまではともかく、その荷の中身を確かめてから、半日のうちに武装と手引きを準備する。江戸全体の対テロ警備情報を把握していなければ出来ぬ」
 ターミナルはその特殊な役割ゆえに国家機関としてある程度の独立性を保っている。警備情報が外部に漏れる可能性は低く、逆も然りだ。
「何故、入国管理局と真選組が……その裏切り者同士が手を組んだか」
「手引きじゃ。天人とのルートを確保するつもりじゃろ」
「銀散は希少ではあるが高価な代物ではない。麻薬のような末端価格幾らという品ではない」
「あんたの注文じゃ。あんたが欲しい品じゃけぇ狙われた」
「つまり、主目的は俺だ。俺が何故銀散を必要としているかまでは読めていないようだが」
「うちのルートを使ったからぜよ。あんたが本当に必要な品は、ほぼ必ずうちを通す。うちがあんたに渡す品は、あんたが喉から手が出るほど欲しいものと決まっちょる。あいつらはあんたと頭の今の繋がりを知っちょるんじゃ」
「ということは、高杉の件も知っているだろうな」
「……裏引いちょるは鬼兵隊か!」
「60点だ」
 ぱちん、と、桂が手を打つ。陸奥は小さく舌打ちをした。未だかつて桂から70点以上を貰ったことがない。
「鬼兵隊は既に天人とのルートを確保している。わざわざ末端の役人を抱き込んで小細工をする過程はとっくに過ぎている。あやつらならわざわざ立てこもらず、そのままもっと別のルートを取る。かつ、現状、あやつらの戦力は疲弊したままだ。俺を迎え討つことは出来ても、俺を討ちに来ることはなかろうな」
「春雨がおる」
「春雨は高杉のために武力を動かさん。あいつの今の役割は、地球での体のいい鉄砲玉だ。もしくは、俺と銀時をおびき寄せる餌だな」
「……なんじゃ、真似っこか」
「晋助め、結局、俺の首も銀時の首も取れなんだ」
 くくく、と小さく桂が笑う。本来、鬼兵隊と春雨の同盟は、桂と銀時の首級と引き換えに成り立つものだった。しかし、今現在、二人ともぴんぴんしている。つまり、未だ鬼兵隊は春雨との契約を果たしていない。しばらくは果たすことも難しい。
 今、桂の首級を挙げれば、鬼兵隊の立場をそっくり奪い取ることが出来る。
 春雨の麻薬密売ルートを潰し大損害を与えたのは桂と銀時しかいないが、春雨の後ろ盾が欲しい組織は掃いて捨てるほどいるのだ。
 可愛がってもらえなくなった犬が、どうせなら利用してやろうと別の飼い主に媚を売ろうとしている。それだけのことだ。
「猿真似しかできん男は嫌いじゃ」
「辰馬はサルの真似をしてもサルにならんからなあ。龍は龍にしかなれん」
 90点だ。90点を取れば、坂本をくれてやると言われた。陸奥はくすくす笑う桂の憎たらしいほど美しい横顔を伺い見る。
 ひょっとしたら、桂が坂本に飽きる方が早いかもしれない。お下がりなど嬉しくもない。小さく唇を噛む。


 生憎、スクーターを取りに行く余裕もなかった。桂の真似ではないが、屋根から屋根へ、ビルからビルへと飛んで渡る。なるほど、これは早い。ただ、やはり鈍っている。途中何度か、足を踏み外して落ちかけた。
 眼下の道路を銀時と同じ方角に向かって多数の車両が走って行く。物騒な車はどんどん増えて行き、代わりに道行く人々の姿が消えて行く。えいりあんの騒動を思い出す。下手したら、あれより物騒な相手とやり合うことになるのだろうか。
 銀時は、腰の木刀の柄を確かめるように握り締めた。


「おーおー、皆さんごくろーさんー」
 かんらかんらと笑いながら坂本が厳戒態勢のターミナル前に現れた。その後ろを追って、沖田と山崎は警告色のテープをくぐる。
「ちっ、面倒なことになりやがった……」
 真選組だけではない。一般警察からターミナルの予備警備隊まで、江戸中の治安部隊が集結している。これが陽動だったらどうする。やりたい放題だろうが。
 過敏になっているのだ。最大のテロ抑止力であった真選組自体がテロの被害を受けたことで、この街は異常なほどテロリズムに過敏になっている。つまり、この失態は真選組の失態の続きなのだ。沖田は忌々しげに眉を顰めた。あの騒がしいおっさんを、ここまで連れてくるのだって、本当はイヤだったのだ。
 既に事故の事情聴取は済んでいる。これ以上の引止めは出来ないどころか、さっさと現場に連れてこいとどやされた。車中の坂本は、常にハイテンションで騒ぎまくった挙句、車酔いして吐いて、すぐ回復し、はしゃぎ、吐いて、はしゃいで……を繰り返し、隣席していた山崎の体力を極限まで削った。今はぐったりとアスファルトに座り込んでいる。
「総悟っ!」
 名を呼ばれ、振り返る。人ごみを掻き分け、見慣れた巨体が駆け寄ってきた。一瞬、ヒラの警官に止められかけたがすぐに正体が知れたのか、テープの内側へ招き入れられた。
「近藤さん、休暇中でしょうよ」
「こんな事態に、休暇だなんだ言ってられるか! 大丈夫だ、お妙さんは快く送り出してくれた。俺の立場を分かってくれているのだ、やはり武家の妻とはあのような人でなくては……」
「武家の妻ってのは、旦那をエプロン姿で戦地に送り出すもんなんですねぃ」
「いや、これはな……その、お妙さんが、『外出するなら真っ直ぐ行け。寄り道したら切腹、っつーか斬首』というので……着替えに寄ることが出来なくてな……」
 近藤は恒道館の台所でせわしなく働いていたままの黄色いエプロン姿だった。
 お妙の苦肉の策である。丸一日、近藤を抑えつけておくようにと言われたが、ターミナルでの事件となれば市民全体の安全に関わることで、近藤を行かせない訳にはいかない。しかし、野放図にして桂の動きに影響が出てはいけない。『少なくとも、現場以外の隊士と関わらないようにすれば何とかなるだろう』という折衷案だった。
「あ! 貴殿が坂本殿でありますか! 自分は真選組局長を勤めさせていただいております近藤と……」
「おー。なんじゃ、真選組っちゅーんはお料理教室もやっちゅうか」
「いえ、そうじゃなくてですね、実は今日は休みでして……」
「近藤さん、近藤さん」
 小さくバツサインを送る。ペースに乗せられるな。坂本は阿呆に見えて老獪だ。人を信じるしか能がない近藤では煙に巻かれる一方だ。
「お休み中、御苦労じゃのー。すまんの、もう帰ってかまわんきに」
「お気遣いありがとうございます! しかし、これは自分の職務でありますから……」
「邪魔やき、帰れ」
 予想外の言葉に近藤の表情が強張る。狸め。沖田は小さく舌打ちした。
「快援隊の船籍は地球やがない。立てこもっちょる奴らも、幕府にゃなぁも要求出しちょらん。おんしゃーらの世話になる道理はなかきに、帰れ」
「ち、治安維持は我ら特殊警察の……!」
「分っからんかのぉ。邪魔じゃ、ゆうちょるんぜよ」
 にこにこと笑顔を崩さぬまま、坂本が言い切る。
「すぐに追っ払うきに、心配なかぜよ」
 不意に後ろが騒がしくなる。
「……局長! 沖田さん!」
 山崎の声に弾かれるように二人は振り向き……同時に飛びのいた。
 ギャリリリリリリリリリッ!
「どぇぇぇぇぇッ!?」
「ンなぁぁぁぁぁッ!?」
 人込みを、警備員を、警告テープを全部ぶっちぎって、黒塗りの車が突っ込んできた。
 一台、もう一台、さらに一台。アスファルトでタイヤの表面を削るけたたましい音を立てつつ、次々と黒い車が集まってくる。
「な? な? なぁぁぁ!?」
「て、てめぇらぁ! 道交法違反でしょっ引くぞぉ!?」
 ちょうど自分たちの立っていた場所が、最初に突っ込んできた一際大きな車の前輪に占められているのを見て、近藤と沖田が腰を抜かす。あのままでは轢かれてた。そして死んでいた。
「……なんだ、今日は一日店仕舞いではなかったのか?」
 いやみったらしいほど優雅な仕草で、黒塗りの車から侍が降りてきた。


「姉上ー。ただいま戻りましたー」
「お妙ちゃん、ただいま」
 志村家の玄関口で、新八と九兵衛が下駄を脱ぐ。随分と時間がかかった。買い物にナマ物は含まれていないから大丈夫だが、ジュースや酒の類いは早めに冷蔵庫に入れないと、パーティには生ぬるいままで出されることになるだろう。
 ぱたぱたと取り乱した足取りで、お妙が奥から出てきた。
「新ちゃん! 九ちゃん! ごめんなさい、あのゴリラがね……!」
「……あー」
 さすがにターミナルであんな大事件が起こっているというのに、縛り付けておく訳には行かなかったのだろう。
「仕方ありませんよ、姉上。姉上のせいじゃありません」
「そう? でも、桂さん大丈夫かしら? まあ、ゴリラにはまっすぐターミナルに行くように言っておいたんだけど……」
「あ」
 まずい。桂が向かった先もターミナルだ。鉢合わせになる。
「大丈夫だろう、お妙ちゃん、新八くん。彼ほどの策士がその程度を読んでいない訳はない。うまく裏道でも使っているさ」
 銀時殿もいるしな。そう言って九兵衛は、さっさと買い物袋を台所に運び、居間のテレビの前に陣取る。
「とりあえず情報を把握しておこう。状況によっては、柳生が手を貸すことも考えなくは……」
 ぱちん。
 テレビのスイッチをひねると同時に、九兵衛の動きは止まり、お妙は美しい顔を禍々しくしかめ、新八はメガネが落ちた。
「……なにやってんだ、あのバカはぁぁぁぁ!!」
 テレビ画面の中では、猫耳を付けた桂がピースサインをしていた。


「それでは、この事件は幕府の力を借りず、快援隊と攘夷浪士のみで解決するということですか、桂さん?」
「桂さんじゃにゃい、ヅラメスにゃ。あ、あんまり顔映さないでください、事務所うるさいんで」
「カメラ目線でそんなこと言われても困ります、桂さん。ということは、これはもしかして攘夷浪士内の内紛ということに?」
「桂さんじゃにゃい、ヅラメスにゃ。内紛も何も、倉庫の中に変な奴が忍び込んだだけの話ではないか。芋侍の手を借りるまでもないにゃー。あ、あれだな。あのランプがついてるカメラが今映ってるカメラだな?」
「角度決めないでください、桂さん。そうすると、これは終戦後、攘夷浪士が初めて公の場で行う活動となりますが……」
「桂さんじゃ(以下略)。攘夷浪士とか関係無いにゃ。ヅラメスはあの黒い毛玉のお手伝いをするだけだにゃ。ほら、猫の手も借りたいというにゃ? ところで、花野アナは元気かにゃ?」
「先程、あのヅラ野郎一発ぶっ飛ばすと息巻いて局を盗んだバイクで走り出たという連絡が入りました、桂さん。ということは、以前より噂されていた桂一派と快援隊のつながりとは……」
「かつ(ry。元気そうで何よりだ。いや、別につながりなんかないにゃー。俺と坂本は……」
「ヅラメスちゃんはわしの可愛い子猫ちゃんじゃーv」
 横合いから飛び込んできた坂本が、桂、否、ヅラメスに抱き着き、その頬にむちゅーと唇を押し付ける。ヅラメスは無表情でそれを受け止めた。
「子猫ちゃん、ですか」
「そうじゃー。可愛い可愛いわしのにゃんこぜよ。ほれ、ピースじゃ、ヅラァ」
「ヅラじゃにゃい、ヅラメスにゃ。坂本、そっちじゃない。これだ、こっちが映ってるんだ。いえーい、せんきゅー」
「おー、せんきゅーせんきゅー。陸奥ー、これ録画しちょるかー? おおー、ほーかほーか。さっすがじゃあー」
「マジでか、あとでダビング寄越せ。あ、これ、全国中継ですか? 田舎のねえさーん、ついでにしんすけー。見てるかー? こったろー、じゃなかった、ヅラメスでーす」
「おりょうちゃーん、見ちょるかー? ほれ、姉ちゃんこっちゃ来。一緒に映るぜよ」
「えー、皆さん、お分かりでしょうか。私は今、あの攘夷戦争の英雄たちの独占インタビューを……」
「銀時、見てるかー? うらやましいだろー。ばーかばーか。あ、あとでサインください。自慢するんで」
「姉ちゃん、この辺にプリクラないかの?」
 カメラの前でキャッキャはしゃぐ女子アナとテロリストと会社社長を、近藤と沖田は隅っこで体育座りしつつ眺めていた。車からぞろぞろ降りてきた快援隊の社員たちは何か大荷物を抱えて忙しそうに行き来しており、時折『邪魔っけじゃ』と蹴りを入れられる。山崎は何故だか、それを手伝わされていた。あまりの地味さに、バイトか何かと思われたらしい。
「頭。準備整ったぜよ」
 陸奥とか言うぶっきらぼうな女が、坂本に向かって手を振る。なんの準備だ。
「おー、早かったの。ほき、行くかぁ」
「うむ。結野アナ、短い間だが楽しかった。あ、サインはここに。ええ、羽織裏で構わないんで」
「はい。あの、出来れば桂さんのサインもいただきたいのですが……」
「ヅラメスだと何度言わせるにゃ。一介の猫耳のサインなどもらってどうするにゃ」
「飽くまでそれを突き通すんですね、桂さん。分かりました。さて皆さん、ついにターミナル史上初、民間の軍隊による突入作戦が開始されようとしています。江戸の警察部隊のどれもが手を出せなかった凶悪なテロリストに、彼らがどう立ち向かうのか! 生命の保証が出来ないとカメラの同行は許されませんでしたが、可能な限りお伝えしたいと……」
 手出しできなかったんじゃない、手出しするなと言われたんだ。沖田が喚こうと立ち上がるが、直前で近藤に制される。上層から圧力が掛かったらしい。どういう経由なのかは分からない。しかし、自分たちよりも、いまや地球人で最大規模の貿易を行っている快援隊や攘夷志士である桂の方が権力を動かす手立てを持っているのだ。今自分たちが動けないのは、剣だけがあればいいと愚直に生き、政治的立場など考えてこなかった結果である。
「さて、行くか辰馬」
「ほいほい」
 帯刀は桂の腰の一本のみ。坂本と陸奥は手ぶら。そのまま、これから買い物にでも行くような気軽さで三人がターミナルに向かい歩き出す。それを遠巻きに眺め、見送るままの警察部隊、マスコミ、野次馬。奇妙な沈黙が場を支配していた。
 たった三人の後姿に気圧されていた。
 戦場を知る者たちの足取りだ。息をするように斬り、息を吐くように殺す。そのように生きてきた殺人者たちの足取りに、その場の全員が気圧されていた。
 三人がターミナルの建物内に消える。
「……ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」
 KYな叫び声が後ろから迫ってくる。ようやく来たか。
「おお、トシ! 大丈夫か、急性アル中で倒れたと聞いていたが……」
「土方さぁん、無理はしねえで寝ていたほうがいいですぜぃ」
「無理矢理飲ませたのはお前だろうがぁ! 近藤さん、なんだありゃ! 何故、桂をひっ捕らえねえ!?」
「いや、手出しするなとな、松平のおっさんが……」
「そんなのをホイホイ聞いたのかよ! 近藤さん、俺らには果たすべき職分ってヤツがあるんじゃねえのか!? ただお上の言いなりになるだけが真選組の……」
「……全く持って、その通りだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 新たなるKYが人ごみから飛び出してくると同時に、土方の後頭部に飛び蹴りを入れる。
「ンが……ッ! てめ、万事屋……! さっきはよくも!」
「なーにがサッキハヨクモーだ! 何してんの、あんたら! あれ、何!? なんかすげえ恥知らずの顔がダブルで大写しにされて、こっちの方が死にたくなったんですけど!」
「旦那ぁ。旦那の友達も大概アホばっかですねぃ」
「違うよ!? あんなん、友達じゃないよ!? 友達なんかじゃないけどね、俺、あいつらがいなくなると非常に困るんだよ、恥ずかしいことに! 何、民間人突っ込ませてんだよ、テロリスト放置してんだよ、あーくっそーー!!」
 友達じゃん。バリバリに友達じゃん。一人地団太を踏む銀時を中心に、白けた空気が流れる。
「すいません、関係者の方ですか? 是非お話を……って、あら? どこかでお会いしたことが……」
 マイクを持ち近寄ってきた結野アナに、銀時がきっと振り返る。鋭い目線。ドッグランで出会った時とは別人のような表情に、ジャーナリストの端くれとして結野は緊張感を覚え唾を飲む。
「すいません、サインください! この前は、もらえなかったんで!」
 流水紋も鮮やかな袂を広げながら、銀時は言った。

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