出会い

Read Me

Offline

Gallery

Last Update 12/03/21
王子様と秋の空 [将棋]
...more
 

Web Clap

9/22 拍手オマケ更新。にくきゅう。
Res

Mail Form

Res

Search

Recent Entries

  1. お年賀
  2. 冬コミお疲れ様&あけましておめでとうございます
  3. 冬コミ告知
  4. 病気過ぎる。
  5. そういえば、ゴチメ見てきたですよ。
  6. テスト投稿
  7. CAヅラさん
  8. ヅラさんNTR篇
  9. 夏コミ新刊通販開始しました&ダンガン2おもろかった
  10. 夏コミお疲れ様でした

2009年2月14日

おねがい☆プライムミニスター チョコレィト・ファウンテン

 近桂維新後パラレル設定でバレンタイン話。沖神要素有り。
 おねプミシリーズのほかの話を読んでないと意味不明。


「……とゆーわけで、近藤さんは生まれてこの方バレンタインチョコをもらったことがねえんでさぁ」
「それはそれは。意外というか納得というか自業自得というか」
 ずず、と茶を啜りつつ、桂は穏やかな声色で答える。
 武州時代から江戸に上がり、組を結成し戦争に入り、そしてボロボロに崩れ落ちるまで。沖田はいかに近藤がモテず女性に忌み嫌われ空回ってきたかの歴史を桂に伝えていた。その一大叙事詩は二時間にも及んだ。
 屯所で一番小ぎれいな客間。そこで沖田と桂は、火鉢に当たりながら苺大福と緑茶でダベっている。公務に空きができたからとわざわざ桂が屯所に尋ねてきたのに、生憎と中央高速で大きめの事故があり主だった隊士は出払っていた。居残りの新参者は宰相殿を恐れて近寄ろうともしない。仕方なく沖田が客の相手をしている次第である。
 近藤の話を桂は興味深げに聞いていた。うんうんと頷き、小さく声を上げて笑い、合の手代わりの質問を投げかけ、二時間飽きる様子もなく沖田の話を促し続けた。
 本当に近藤を愛しているのではないかと思えた。愛しい男の過去を、その弟分から聞き出すことが本当に楽しい、そういう様子に見えた。
 そんな訳はない。この男が、そんな甘ったるい理由で近藤を側に置いているわけがない。
 なぜなら、これは桂小太郎だからだ。
 沖田は冷めた湯飲みと手を伸ばし、それを桂に阻まれ、煎れ直された熱い茶を小さく啜る。
「ですからねぃ、出来れば今度のバレンタインにゃあ、手作りチョコでもやってくれませんかぃ。あの人もこんなキレイなフィアンセからチョコがもらえりゃ、これまでのストーカー人生が報われるってなもんで」
「そうは言ってもな、俺もチョコなどは作ったことがないから……」
「万事屋の旦那にゃ、作ってやってなかったんですかぃ?」
 急所に向かって突き立てたつもりだが、さらりとした微笑みで躱された。
「あやつは甘味にうるさい男だったからな。手作りチョコの天パー乱舞だかはとても素人に出来るものではないから、ココアケーキだとかチョコパフェのほうがいいとか言っていた。だから、あいつにチョコを作ってやったことはないな。リーダーが作ったものは、固いだの油っこいだのぶつくさ言いながら嬉しそうに食っていたが」
「……へえ、そうですかい。あと、天パー乱舞じゃなくて、テンパリングだと思いますぜぃ」
 穏やかな笑顔で嫌なことを言う。あのチャイナのことは思い出したくもなかった。
 やはり、まだ自分は桂に嫌われているのだろう。肺に詳しい医者を紹介してもらったり新しい薬を回してくれたりと、なにかと世話を焼いてくるのが、どこかで疎まれている気がする。疎まれて当然なのだ。彼の行く手を阻んだことも、大ケガを負わせたことも、一度や二度ではない。
 それでも何故か、沖田は桂に疎まれるのが気に食わなかった。自分も桂を疎んでいるはずなのに、桂に疎まれていると思うことが嫌だった。
 だって、近藤さんの伴侶となる人が自分の気に食わない奴であるだけでも業腹だというのに。
 そいつは自分の機嫌を取ることに必死にもならず、けろりとした顔で遊びに来ている。許し難いにもほどがある。
 小学生並のメンタリティを自覚しつつも引き下がる気は一切なく、沖田は脳裏で策を巡らせ続けていた。
「じゃあ、桂さんの人生初チョコを近藤さんにくれてやってくだせえよ。俺ぁ、あの人の幸せがなによりの薬で……」
「いや、初チョコではないのだが?」
 きょとんとした顔で小首を傾げる。何でそんなことを言い出すのか。そう言いたいのはこっちだ。
「……誰にやったんですかい?」
「詮索は良い趣味ではないぞ?」
 桂はにこりと笑って、そろそろお暇しようと湯飲みを置いた。

 桂が車寄せで迎えの車を待っているところに、ちょうど近藤たちが戻って来た。待たせたことをぺこぺこと平謝りしながら夕飯は官邸に食べに行くという近藤に、楽しみにしていると笑って桂は黒塗りの車に乗り込む。
 ついでに交通整理と怪我人の救出で疲れ果てた隊士達に、にこやかに手を振っていった。あまりにも堂に入ったその仕草に、隊士達はほうと熱っぽい息を吐く。むさ苦しい男所帯で癒し系オーラに飢えているからと言って、かつての仇敵に簡単に丸め込まれるとは。ぺっと小さく唾を吐いた。
「どうした? 痰でも絡むのか、喉を痛めたか」
「……へえ、姐さんのお相手で随分起きてましたんで」
 土方うぜぇ。当てつけがましくげほげほと咳き込む振りまでしてやれば、早く床と薬を用意してやれと指示を飛ばし始める。
 ああ、面倒臭いったらありゃしない。
 ぬくぬくと布団に首まで浸かり、沖田はぼんやりと天井の木目を見る。その向こうに、桂の言葉に引きずり出された顔が浮かび上がる。
 何一つ、思い通りになりはしなかった。
 沖田が最初に血を吐いた時、真っ先に駆け寄ってきたのは姉ではなく万事屋だった。
 病に伏した時、沖田の後を背負ったのは土方ではなくチャイナだった。
 世を追われ、居場所を失い、逃げ場を失い、このまま滅ぶのだけはいやだ助けてくれと頭を下げたのは、桂ではなく近藤だった。
 自分が思い描いていた全てのことと、今は全く食い違う。なんでこうなったのだろう。何をかけ違えたのだろう。げほんとひとつ嫌な咳が出て、枕元の散薬に手を伸ばす。天人由来だというこの新薬も、本当だったら口にするのは姉だったはずだ。新しい時代の光も祝福も手に入れるのは自分たちだったはずだ。
 何を間違ったのだろう。何がいけなかったのだろう。けほんと軽く咳を吐き、沖田は布団に頭まで潜った。

「ヨッ! 久しぶりアルナ」
 また背が伸びやがった。すでにヒールを抜きにしても、自分より背が高いであろう。顎を上げなければ顔が見れないことに向かっ腹が立つ。同時に喉が痛んでげほげほと咳き込めば、オメー、まだモヤシっ子アルカと背中に手を伸ばしてくるので、余りの忌ま忌ましさに乱暴にそれを振り払った。
 チッと女らしかぬでかい舌打ちが聞こえる。
「相変わらずの恩知らずアル、このモヤシっ子」
「うるせぇ、チャイナ。今更なんの用でぇ」
「なんの用もクソも、てめーに用なんか1ナノグラムもねえアル。なにカ? てめー、お家にくる人は全員てめーのお見舞いで、毎回メロンにありつけるとかでも思ってンのカ? 思い上がるんじゃネーヨ、てめーがいつ布団の上で痰が詰まって死のうが、ゲロ詰まらせて死のうが、神楽様にはなんの関係もないネ。死ね、医者に『ごっめーん、投与量と致死量の数字、逆に読み間違えちゃったー☆』って劇薬投与されてショック死で死ね!」
「うるせぇ! てめえこそ死ね、かわいいウサギだと思って近づいた生き物が実は獰猛なエイリアンの擬似餌で、釣られた揚げ句、触手に全身の穴を犯されて死ね!」
「なにアルカ、てめーアタイをそんな変態チックなエロ妄想のオカズにして抜いてるアルカ! キメエアル、犯罪予備軍アル、現代の生んだ病巣アル! これだから引きこもりは死刑にしろって言ってんのに、ヅラは後手に回るにも程がアルネ!」
「てめえ、宰相にどんな過激政策陳情してやがんでぃ! 天人が内政干渉するんじゃねえや! あと、俺ぁ引きこもりじゃねえ、単なる寝たきりでぃ!」
「天人に尻尾振って生き延びてた野郎共がよくそんな口叩けるアルナ、この恥知らずのカマ野郎! 寝たきりなら尚更ネ、迷惑ばかりかけてすいませんって首でも括れヨ、この社会の負債! 非生産者!」
「カマ野郎に頼って生きてんのはてめえのほうだろうが! 殺戮者の分際で生産性を語るんじゃねえ、この反社会性動物!」
 背が伸びたばかりか、口まで良く回るようになった。どんどん、『父親』に似て来ている気がする。言論の過激さは、こっちが三割増しな気がするが。
「なんだ、もう来ていたのかリーダー。連絡をくれれば迎えをよこしたものを……」
 玄関先の騒ぎを聞き付けてか、桂が廊下を小走りに駆けて来て、すっかりと成長したかつての少女の姿に相好を崩す。
「おー、ヅラァ! 久しぶりアル、おめーまたちっちゃくなったナ!」
「ちっちゃくなってない、桂だ。それはリーダーが大きくなったのだ」
 神楽はヒールを脱ぎ捨て、上がり框に突っ立っていた沖田を押しのけて桂の横に並ぶ。ほとんど身長に差が無い。やはり追い抜かされていた。近くに寄りたくなくて、廊下を歩きだす二人の五歩後ろをついていく。
 銀ちゃん元気アルカ、まだベッドでピコピコやってるアルカ。その言い方だとまるで引きこもってファミコンばかりやっているようだが、まあ、以前と変わらないという意味では元気だ。
 不謹慎な会話をしつつ、実に楽しそうだ。今の神楽は地球を離れ、エイリアンハンターそして夜兎族の長としての活動とともに、銀河連盟での希少種族保護政策と傭兵種族の地位向上を訴えている。傭兵種族に対する差別意識が彼らの生計を限定し、それによって種族自体が絶滅の危機にだのどーのこーの。テレビで演説している姿をみかけたことがある。
 たおやかで可憐な二十歳そこそこの女性が、幼いころに一人地球に降り立ち、多くの人間に支えられ自らの種族的宿命を克服したと言うエピソードは、銀河中で多くの涙を誘ったことだろう。
 傭兵種族が血を欲する種族だというのは、彼らが血を求めざるを得ない場所でしか生きることを許されないからだ。その中でしか生きてはいけないと閉じ込めているからだ。血と硝煙より花を愛する者、決して手に入らぬはずの日の光を求め続けた者。彼らに対する無知と偏見がどれだけの悲劇を生んだのか、どうか理解してほしい。
 涙を滲ませ語り続ける神楽の姿に、土方は『桂と同じやり口だ』と呟いた。宣伝塔なのだと。いかにも悲劇に虐げられてきた、辛い目にあって健気に精一杯生き延びた、そう思わせる儚い容貌をイメージとして押し出し、同情と共感を呼び起こす。王道だが一番効果があるやり口だ。おそらく、裏でそれを操っているブレーンがいる。そう言っていた。
 だが、神楽の言葉に嘘はない。彼女が自分の血を克服したのも、それが偶然巡り合った地球人たちの理解と友愛に支えられたのも事実だ。桂が理不尽な政策に逆賊と追われ、思想を弾圧され、その中で手を汚しつつも生き延びながら地球全体の未来を訴え続けたように。
「そこが俺らと違うんだよ」
 数年前であればタバコのフィルターを噛み千切ったのであろう。苛立った歯噛みをしながら、土方は言った。
「世の中、一度泥にまみれた方が支持は得やすい。最初っからエリート街道を突っ走るよりも、どん底から必死に生き抜いてきてどんだけ辛かったかってのを訴えた方が、よっぽど世の中には受け入れられる。しょせん、世間の大部分はどん底と似たり寄ったりの生活してんだ。てめえと同じかてめえより下に生きてた人間の方が、てめえよりマシだって上から見下していい気になれる」
 自分たちは、どん底から這い上がったのか。それは違う。近藤は道場の跡取り息子だった。自分も士分でこそなかったものの、病がちな姉が働かずとも食っていけるだけの蓄えはあった。土方がどんな家の生まれかは知らないが(本人が妙に口を濁すので)、親戚の大店に奉公にいってすぐ追い返されたなどという話を聞く限り貧家の出ということはないのだろう。
 だから、自分らはやっとう騒ぎがしたいだけの悪たれの集まりとしか見られていなかったのか。
「……でも、俺らも泥んこになりましたぜぃ」
 そうだ。自分たちはあの戦争で一度敗れた。大義に見捨てられ、捨て駒にされ、ぼろぼろに落ちた。
「だからこうして、のうのうと生き延びてるんじゃねえか」
 なるほど。
 土方の言葉に同意するなど虫酸が走る。しかし、あの言葉は正しかった。
 沖田は理解した。近藤は桂の『泥』だ。
 戦争を生き残り、泥の中を這いずる敗残の志士から、栄光をその手で掴む『勝ち組』になった桂があえて引っ被った『泥』だ。
 敗残の中から忠義ひとつで生き残った侍。その『負け組』を自分から離さないための存在が近藤だ。
 しかも、それは他の隊士では勤まらない。仮に側に添うのが見目よい男ぶりの土方であれば、うまく桂に取り入った尻の軽い男と見られるだろう。病床にある白皙の青年沖田であれば、世間の同情は沖田自身に集まるだろう。
 愚鈍なほどに実直、ケダモノのように不器用。それこそ、生まれてこの方バレンタインのチョコももらったことがないような男。そんな近藤を側に置くことで桂の善性は高まる。桂が全てのものに分け隔てなく救いの手を差し伸べる、儚げで気高い侍であると、そうアピールできる。
 ああ、なんてずる賢い。まるで家族のような顔で屯所にまで入り込んで。実際は自分たちを道具として利用する気しかないくせに。神楽と楽しそうに言葉を交わす横顔に、ふつふつと殺意が沸き起こる。
 今ここで桂を殺せば、おそらく地球は今度こそ完全に植民地化されるだろう。知ったことかそんなこと。そんなことより、自分の仲間の方が大切だ。そのためなら、この星の未来なんぞいくらでもドブに捨ててやる。
 桂は右腕がきかない。右から斬りかかれば、十分に隙を突ける。しかし、今は偶然にか意図的にか、神楽が桂の右側を守るように歩いている。まず神楽の意識を剥がさなければいけないだろう。どのタイミングで……
 無意識にドテラの内側で拳を握る。そして気付く。
 ここ何年も木刀すら握っていない、細い自分の手。弱まった握力。きっと今本身を握れば、まともに振りかぶることもできまい。
 くやしい。殺せるのに。今なら殺せるのに。
「おい」
 くるりと神楽がこちらを振り返った。
「てめー、さっきから何変な気出してるアルカ?」
「……何の話でぃ」
「すっとぼけんナヨ。いいカ? あん時言ったこと、もう一度言うネ。ヅラに髪の毛一本でも傷をつけてみろヨ。私が銀ちゃんの分まで、てめーら全員9/10殺しにしてやっかんナ。頼むから殺してくれって泣き入ったって殺してやらねえかんナ」
 ぞろり。神楽から這い出す殺気に背筋が総毛立った。辛うじて腰が引けなかっただけマシだった。これが新参隊士であったら、その場で腰を抜かし小便を垂れ流していただろう。
 やはりこの娘は人外の生き物なのだ。自分とは全く違う生き物だ。あの頃はふざけ半分で殴り合うくらいには渡り合える自信があったのに、今はただ怯えるしかなかった。
「リーダー」
 桂が静かな声で神楽を窘めると、夜兎の暗い殺気は吹いて消すように霧散した。
「やめなさい」
「だってこいつ、さっきからヅラを変な目で見てるアル! このこんじょ腐れは油断ならねえアルヨ、釘刺しとかないと……!」
「大丈夫だ。彼も今は家族なんだから」
 そして、大広間に続く襖に手をかける。
「というわけで、これが我が家のバレンタインです」
 がらり。襖を全部ぶち抜かれ五十畳敷きになった大広間の中央には、茶色の液体を吹き出し続ける噴水が設えてあった。甘い匂いが広間一杯に漂い、周囲には用意された果物や菓子を品定めしながらはしゃいでいる隊士達がいる。近藤と土方も、茶色の噴水を見上げながら何か話していた。
「……なんでぇ、これは」
「ちょこれーと・ふぁいんでぃんぐ・ぽにょ、だ」
「チョコレート・ファウンテン、アル。あと、ファインディング・ニモ、アル」
 あの茶色い泉は全部チョコレートなのか。道理で、胸焼けしそうなほど甘ったるい匂いがする。
「最新の甘味パーティだそうでな。切った果物やマシュマロなどをあの泉に浸してチョコがけにして食べるのだ。滑らかで上質なチョコレートを使わねばいけないのだが、それはリーダーに探してきてもらった。な、リーダー?」
「うん、呵々尾星特産の最高級ショコラアル。ありがたく最後の一滴までなめ尽くすがヨロシ」
「……俺ぁ、近藤さんにチョコをやってくれって言ったんでさあ」
 沖田の低い声に桂が小首を傾げて顔を覗き込んでくる。
「誰が俺達全員にチョコ用意しろっつったんでぇ。そんなんじゃなくて……」
「そりゃあ、お母さんからのチョコは家族全員に、と相場が決まっているだろう?」
 にこ、と桂は笑い、またあとでなと広間中央の近藤へと歩みよっていった。次々と隊士達が桂と近藤の周囲に集まり始めた。
「おいこら、モヤシっ子」
「……なんでぇ、チャイナ」
「おめーの心配も分かるアル。ヅラはちょっと冷血アルヨ。結構簡単に人を切り捨てるし、騙すし、他人の気持ちなんか気にしねーし、男転がして手玉に取るなんて得意中の得意ネ。おめーのボスゴリラ、ぜってーヅラに騙されてるアル」
 ぐいと上から顔を覗き込まれる。圧迫感に沖田は目を逸らした。
「だったら、俺ぁ、近藤さんを守らねえと……」
「でもナ。ヅラはウソだけは絶対言わないアル。他人を騙すし、利用するし、ゴミくずみたいにポイするけど、ウソだけはぜぇー……ったいッ! 言わないネ。ヅラがおめーを家族だって言ったなら、おめーは死ぬまでなにがあってもヅラの家族ヨ。それだけは信用しろ。分かったカ?」
「分かんねえよ。目茶苦茶じゃねえか、そんなん。家族を騙したり利用したりって、どういう母ちゃんだよ」
「別に珍しいことじゃないネ。私は兄貴を家族だと思ってるけど、ちゃぁんと兄貴を憎んで殺せたアルヨ。家族だから殺れたアル」
 くるりと大きな澄んだ青い瞳。この瞳ばかりは、あの頃と変わっていない。すっかりと背も伸びて、面立ちも細く大人びたというのに、青い瞳だけが少女のころのままだ。
 沖田はどうしてもそれを真正面から見れなかった。背も伸びず手足は細り身体はあの頃より衰えたというのに、瞳だけが暗く澱んだ自分を見られたくなかった。
「じゃあ、俺もいつか桂を殺してやらぁ」
「おう、やれるもんならやってミロヨ。そしたら、私がてめーを殺しにやってくるアル。旦那の不始末片付けるのは嫁の役目ネ」
「一発もヤらせたことねえくせに」
「何言うカ、モヤシっ子が私の超絶テクにかかったら一発で昇天赤玉アル。ヤリたきゃ健康になれヨ、なんのために薬送ってやってると思ってるネ」
 バチンと背中を叩かれ、一歩二歩とよろける。そのまま神楽は大股で泉まで歩み寄り、空のジョッキを泉に突っ込んで一気飲みしようとするのを必死に止められていた。リーダー用のはもう一つ用意してあるからと桂に窘められ、ふてくされたように唇を突き出している。そんな二人を、近藤は楽しそうに笑って見ていた。
 あそこに銀時がいたころは、もっと違っていたのだろう。きっと、銀時と神楽の二人掛かりであの泉は飲み干されていたし、それに怒った桂が血糖値がどうのこうのとズレた説教をしていて、もしかしたら自分も悪ノリしてそれに混ざっていたかもしれない。
 混ざっていく気にはなれなかった。そうするには、自分は大人になり過ぎた。
 甘い空気で肺が満たされ、身体が重く感じる。ふう、とため息をつく。
「おう、どうした。気分悪いのか?」
 輪から弾き出されたのか、甘い匂いに辟易したのか、のっそりと土方が近づいてきた。ちらりと横目で見やってから、広間の中央に視線を戻す。
「あの噴水」
「おう」
「泥水吐いてるみてぇだ」
 なるほどなと土方が小さく笑った。何がおかしいのか、さっぱり分からない。