出会い

Read Me

Offline

Gallery

Last Update 12/03/21
王子様と秋の空 [将棋]
...more
 

Web Clap

9/22 拍手オマケ更新。にくきゅう。
Res

Mail Form

Res

Search

Recent Entries

  1. お年賀
  2. 冬コミお疲れ様&あけましておめでとうございます
  3. 冬コミ告知
  4. 病気過ぎる。
  5. そういえば、ゴチメ見てきたですよ。
  6. テスト投稿
  7. CAヅラさん
  8. ヅラさんNTR篇
  9. 夏コミ新刊通販開始しました&ダンガン2おもろかった
  10. 夏コミお疲れ様でした

2009年2月26日

一番勝負 告白将棋 前編

 お久しぶりです、棋士モノ第二部。


 一時期は週に三回はあった桂の来訪が、週に二回になり、一回になり、あいつもだいぶ晋助のいない生活に慣れたのかと安心するやら寂しいやら。銀時がそんな微妙な感傷を抱いていた時期だった。
 久しぶりにやや荒事に関わる仕事が入り、神楽と新八を置いて一人で歌舞伎町の小さな賭場に向かう。カジノや麻雀などに押されているとはいえど、昔ながらの丁半博打や賭け将棋を代理抗争の対象に好む任侠は多い。とはいえ、銀時ほどの実力者は逆にパワーバランスを崩す。敵がいないほど強ければ、争いようがない。だから、銀時の元に荒事が持ち込まれることは少ない。代わりに、歌舞伎町界隈に根を張る組織からは、わずかずつ金を渡されている。『自分たちに敵対しないでくれ』という証しだ。
 今日呼び出されたのもそんな組のひとつだった。
「厄介な将棋指しがおるんじゃ」
 凝り固まった眉間の皺をさらに深め、いかにも参っていると言うふうに京次郎が口を開いた。
 銀時と同じ年頃のこの若頭は、若い闘争心と古臭い任侠を持ち合わせ、組の中でも人望が厚い。同時に背負うものも大きい。それが部外者である銀時の前では多少緩むのか、いつのまにやら任侠と代指しというよりは、友人関係に近い間柄になっている。
「クラブなんぞで賭場を開いちょるらしい」
「……クラブぅ?」
「DJとかがズンドコレコードかけちょる、あのクラブじゃ」
 ズンドコはないだろう。京次郎にはどこか時代錯誤な部分がある。
「わしゃあ、あっちのシマには関わりないからのぅ。若いもんに任せちょったが、薬や女の流れは分かっても、賭場の仕切りなんぞやったこともない連中じゃ。気づくのが遅れたわ」
「賭場って。なに、そのクラブで踊ってるBボーイの皆さんが、将棋指してるワケ? 自慢じゃないけど若い子には受けないよ、将棋なんて」
「わしが知るか、静かなブームとかそんなとこじゃろ。なんにせよ、わしらの仕切りを受けん賭場なんぞ認められん。じゃが、今時肩で風切って脅すわけにもいかん。向こうさんはこっそり金は賭けちょるが、表向きはクラブイベントとしてやっちょる。警察への根回しは済んどるっちゅうことじゃ。シマ争いとして介入されるんは面倒じゃけぇ」
「で、俺に潰してこいって?」
 ゆっくりと京次郎が頭を振る。
「先生を呼ぶまでもない、と思うたんじゃ」
 だから、別の代指しを行かせた。銀時も知っている将棋指しで、一時は奨励会を目指していたという実力はアマチュアレベルでは中々のものだ。相手がアマ竜王だの元奨励会でもない限り、まず負けることはない。
「あっさり負けてきよった」
「マジでか」
「そいつが言うには、相手はプロレベル。……先生と同じくらい強い、ということじゃ」
「いやいやいや、それはないわぁ」
 銀時の棋力は、A級棋士である桂と同等だ。将棋の世界は狭い。プロレベルの将棋指しがそこらへんにゴロゴロしているわけが……
 まさか。
「……そいつ、どんな奴だった?」
「賭場のか? イベントに出とるのは、一人じゃあないようじゃ。若い男の場合もあれば、小娘の場合もある。そいつらに何勝かすると、ボスが出てくる。そういうトーナメントイベントらしいの」
「ボス」
 嫌な予感がする。いかにも『あいつ』が好きそうなことじゃないか。
「まだボスを引きずり出したやつはおらんらしいが……噂じゃ、中坊くらいの小僧らしいのぉ。そんなわけはあらせんと……どうした?」
 やっぱり。銀時はソファに座ったままがっくりとうなだれた。なにをやってるんだ、あいつは。これが連盟にバレてみろ、桂の立場だって危うくなるんだぞ。
「いや、なんでもねぇ。ちょっと目眩がしただけ」
「何にしてもまだ相手の正体が知れん。手を出すにしても、もうしばらく探りをいれてからじゃ。ただ……その内、向こうさんが先生に気付くかもしれん」
 元奨励会、最強の真剣師。
「関わるなって?」
「先生に安易に動かれちゃあ困るんじゃ。協定っちゅうもんがあるからの。先生がおるからこの辺の賭場は安定しとる。万が一じゃ。万が一、先生があいつらに負けたら……」
 どこかの組がそいつらをかつぎ出して、一気に賭場荒らしが始まる。協定が破られれば、ことはもっと大きな抗争に広がりかねない。
「……負けるつもりはないけどね」
「分かっちょる。万が一じゃ、ゆうちょるじゃろ」
「話はそんだけ?」
「ああ、手間かけさせたの。少ないが、坊や嬢ちゃんに土産でも……」
 いくらか包もうとする京次郎を手で制し、銀時は席を立った。見送りの京次郎の足音を背に、狭いビルの階段を降りる。
「そんなに強い棋士なら、ちょっとは会ってみたいもんだけどな」
「……先生、話は聞いちょったか?」
「分かってる、分かってるって。……で、その『先生』はやめてくんない? むずむずすんですけど」
「なんじゃ、『銀時』のほうがええか」
 笑いを含んだその声に、銀時は後ろを振り仰ぐ。京次郎は何とも言えない、あえて言うなら寂しげな笑みを浮かべていた。
「最近、『店』でも会わんのぅ」
 銀時と京次郎が友人になったのは、年が近いからだけではない。『店』。いわゆる、その、二丁目辺りの。
 家出してからというもの、銀時は時折、どうしてもその欲求を抑え切れないことがあった。かつてすぐ近くにあった桂の感触を思い出して、少しでも似た温もりを求めてしまうことが度々あった。そうやってあちこちの店をうろうろしていた頃に、ばったりと京次郎と鉢合わせたことがある。すでに代指しで付き合いがあったので、互いの驚愕の程は半端なかった。
 しかし、バレたなら仕方がない。そこからはややぶっちゃけた付き合いが始まり、その手の『深い関係』になったことも、一度ならず、ある。どっちかというとスパーリングのようなものだが。互いに『本命』が別にいるのは分かっていたので。
 今の銀時は、そういう『店』通いをぱったりとやめている。桂と再会してからだ。やはり違うのだ。桂と他の人間は、性別が同じでも何かが違う。桂だけが自分の特別なのだ。それに気付いてからは、他の男に対する欲求は完全に潰えた。
「……悪ぃ。そういうの、やめたんだわ」
「嫁さんでも出来たか」
「ちょっと近いかもね」
 それからは後ろを振り向く事なく、銀時は再び階段を降り始めた。後ろめたい訳でもないのに。
「ああ、そうじゃ。『あいつら』の名前じゃがの」
「名前って?」
「個人の名前はわからんが、チーム名みたいなんをつけちょるらしい。確か……『鬼兵隊』とか言うとった」
 すっげえ中二っぽい。


 十中八九、間違いない。晋助だ。
 中学生ほどの子供で、プロに匹敵する棋力。奨励会のやつらが、こんなことに手を出しているとは考えにくい。東京周辺の棋力の高い弟子で、だれかが非行に走ったという話も聞かない。
 なによりあの中二センス。間違いない。晋助だ。
「晋助だな。奴以外にそんな名前をつけるバカがいるとは思えん」
 育ての親とも言える桂に断定されたくらいだ。
「クラブで将棋イベントって……想像つかないですねえ。女の子とか楽しんでるのかなあ」
「何ヨ、ダメガネ。そこでなら地味で貧弱な僕でもモテモテにートカ思ってるんじゃネーダロナ。ダメガネはクラブでも道場でもダメガネネ、不相応な夢は捨てるヨロシ」
「だ、誰がモテたいとか言ったよぉ! 勝手に決めつけないでくれる、神楽ちゃん!」
「鼻の下延ばしてたアル、いやらしっ! 僕の飛車が君の穴熊に速攻突撃とか考えてた顔ヨ、アレは」
「神楽ちゃあああああん!」
 じゃれ合う弟子二人の声を遠くに、銀時は目の前の桂の顔をじっと見ていた。長考するような顔をしているが、大抵こういう時は既に腹積もりは決まってしまっている。それを脳内で検証しているだけなのだ。
「銀時」
「俺ぁ、やらねえぞ」
 話を最後まで聞け。そう言うように桂の眉がしかめられたが、銀時はどこ吹く風と無視をした。
「え? どういうことですか?」
 話の読めない新八が、二人の顔を交互に見る。
「ヅラはね、俺にそのキヘータイとか言うヤツと対局して、晋助引きずり出せって言ってるの」
「はぁ!? でも、銀さん、これには関わるなって言われて……!」
「……だからと言って、俺が行く訳にいかない」
「そんな、桂さんが負けるワケないじゃないですか」
「そういう問題ではない。俺はプロだから」
 新八は何かを言いかけて、すぐに口をつぐむ。
 桂は現役のプロ棋士であり、タイトルホルダーである。その対局は全て将棋の歴史と直結している。桂の指す一手一手が将棋全てを推し進める一手なのだ。
 例えば、将棋を指すコンピュータがある。プロ棋士は、連盟の許可なく、それと対局することは出来ない。万が一負ければ、それは現在過去全てのプロ棋士を否定することにつながり兼ねないからだ。
 真剣師である銀時とプロ棋士である桂。それぞれが将棋に対して背負うものは、それ程までに違う。
 桂は真っすぐ銀時の目を見ていた。
「晋助は悪知恵が働く。そのような荒事に関わっている以上、まともな手段では捕まえることは出来まい。ならば、正面切って乗り込むしかあるまい」
「……言ってることは分かるけどさぁ」
「貴様しかおらん、銀時」
 プロレベルの将棋指したち。それを完膚無きまでに叩き潰せる『プロではない』将棋指し。
「晋助を救い出してやれるのは、貴様しかおらんのだ」
 そう迫る桂に、銀時はわずかに目線をそらし床を見つめた。
「あの、待ってください、桂さん」
 そこに新八が割り込む。
「銀さんは、何も晋助くんを見捨てるとか、そういうつもりじゃないと思います。ただ、その……こういう世界の義理って奴があるんですよ。京次郎さんから直々に頼まれたんじゃ、銀さんもそう軽々しく動けなくって……」
「私がやってやろーカ、ヅラァ」
 さらに神楽が首突っ込んできた。
「あの生意気なチビなら、グラ様がやっつけてお仕置きしてやるネ」
「いや、リーダーは関わらずともよい。ことは賭博や荒事に関わる。前途あるリーダーが下手に関わっていいものではない。その点、銀時なら既に泥に塗れているし……」
「これ以上汚れても一緒だってか! 何お前、プロになれとか言う割にちょっと扱いがぞんざいじゃない!?」
「何より、リーダーでは晋助には勝てまい」
 神楽は一瞬眉を吊り上げ、すぐに唇を尖らせてそっぽを向いた。少なくとも、今の自分の棋力が桂には遠く及ばないことは分かっている。その桂が判断したことならば、文句をつける隙はない。
「じゃあ、銀ちゃんやってやれヨ」
「だからさ、神楽ちゃん。それやると銀さんが組の人から睨まれることに……」
 別に睨まれようがどうしようが、構わないのだ。
 気に食わぬ行動に出たからといって、一般人である銀時に制裁を加えようなどと言う乱暴な行為には出ないだろう。下手に敵に回せば、対抗する組の賭場に銀時を取られるだけだ。
 問題はそこじゃない。
 晋助が気に食わない。
 勝手に出て行って、桂を一人にして、これほどまでに心配を掛けている晋助が気に食わない。
 自分と同じことをしている晋助が気に食わないのだ。
 馬鹿らしい。情けない。今、桂の心を占めているのがあいつだというのが、泣きたくなるほど悔しい。
「銀時、頼む! 晋助を救えるのは貴様しか……!」
 桂のこんな真剣な瞳が、自分のものでないことが、こんなにも。
「ぜってぇヤダ」
「銀時!」
「恋のライバルに手を貸すなんて、ぜってぇヤダ」
 新八は手にしていた急須を取り落とし、足の指を潰して悶絶している。神楽はぽかんと大口を開け、齧りかけの酢昆布は床で埃塗れになっている。桂は、ぱちぱちと瞬きをし、しばし長考し、はてと首を傾げた。
「……銀時と晋助は、恋のライバルだったのか?」
「そうだよ」
「誰を」
 お前。持ち上げた人差し指は真っすぐ桂を指す。桂はそれをむんずと引っつかみ、神楽の方に向けさせる。すぐに指し直す。桂はぶんぶんと首を横に振った。
「……いや、ない。それはないぞ、銀時」
「なくない」
「いやいや、ふざけるのもいい加減にしろ、銀時。今はそういう話ではなくて……」
「俺はお前がずっと好きだったの。お前と一緒にいたくて将棋指してたの。俺は、ガキのころからずーっとヅラが大好きだったの」
 桂の特技は詰め将棋だ。作るのはからっきしだが、解くことに至っては二十手詰めだろうが三十手詰めだろうが一目で見切る。その神速の頭脳が今真っ白になっているのだろう。ぽかんと口を半開きにして、呆けた顔で銀時の顔をじっと見つめている。
「……ヅラァ、俺さ……」
 銀時が口を開いた瞬間、弾かれたように桂が立ち上がった。足元のカバンを引っつかみ、ドアに向かって走り、勢い余って本棚にぶつかって棋譜のファイルをばらまき、足が縺れたのかあちらの壁こちらの壁とぶつかりながら、ばたばたと出て行った。かんかんかんと階段を駆け降りる足音が聞こえ、しばしの後、ひどく静かになる。
 銀時が新八と神楽に向き直る。
「……やっちゃったかな、俺」
「やっちゃいましたね」
「やっちまったアル」
 うん、そうね。銀時はひとつうなずき、はぁ、とため息をついた。
「俺、ちょっと引きこもるから。飯は部屋の前に置いといて、カレーでいいから」
 銀時はそう言ってのろのろと寝室にこもり、それから三日の間、言葉通り、トイレ以外では一切外に出てこなかった。
 精神力が弱いにもほどがある。きっとあの胆力ではプロになっても通用しないだろうと、新八と神楽は主が不在の将棋盤を挟んで語らっていた。

>後編へ