2007年10月17日
やさしくはない人たち
銀誕アナザー、金魂設定で金桂。
『くらッ×3!!!』と同設定ですが、雰囲気は全く違います。薄暗いです。
そして微エロ。気持ちR15程度で。
『銀さんをヅラの胸でむぎゅーしてあげよう』キャンペーン。
今日ね、お店に女の子が来たんだよ。
(ほう、それはめずらしいな)
いろんな話を聞いたよ。
元カレに殴られた話とか、お金を取られた話とか。
その子が言うにはさ、元カレの親が早くに離婚してさ、母親一人に育てられて愛情が不足してるから、女の子を殴っちゃうんだって。
だから、自分が受け止めてあげなきゃって思ってたんだって。
その子はね、お兄さんに子供のころからえっちなことされててさ、それはお父さんがお兄さんに受験のプレッシャーをかけてたストレスのせいなんだって。
自分は男の人に弄ばれて生きてきたんだって。
お金取られて、借金して、今はヘルスやってて、お金返したいけどどうしてもホストクラブに通っちゃうんだってさ。
高いお酒入れるとすごい喜んでくれるから、プレゼントあげると必ず使ってくれるから、報われてるって思うんだって。
泣きながら話してたよ。サービスのやっすい焼酎でべろべろに酔っ払っちゃってさ。
俺は何度もかわいそうだね、つらかったね、君は悪くないよって繰り返してさ。
ほんとはそんなこと、思ってもいないのにさ。
(きんとき)
そんなことばかりだよ、いつだってそうだよ。
この街にいるやつらは、みんな自分が一番かわいそうだと思いたいんだ。
誰かが悪い、その誰かが悪いのはまた別の誰かが悪い。
それは仕方ないんだって、言うんだよ。
人が弱いのは仕方ないことで、それでつらい思いしても仕方ないんだって。
そうやってつらい思いがつながって、痛くて、苦しくて、その最後に自分がいるってみんな思ってる。
自分が一番不幸だって、かわいそうだって、そうやってそれよりひどいものがあることから目を反らしてるんだ。
(きんとき、ねろ)
俺、ヅラのこと好きだよ。
ヅラはさ、お父さんもお母さんも天人に殺されてさ、家族みたいだった組の人もたくさん殺されて、生き残った人もばらばらになっちゃってさ。
追いかけられて、たった一人で逃げて、今はお金のために男の人に体売ってさ。
でも、ヅラは自分がかわいそうだって言わないよね。
運命が悪いとか、神様が悪いとか言わないよね。
みんな、ヅラみたいならいいのに。
みんな、ヅラみたいに強くてきれいならいいのに。
(きんとき、づらじゃない、づらこだ)
ヅラは、俺のことかわいそうだって言わないよね。
俺はちゃんと頑張って生きてるよね。
俺、頑張ったんだ。
ヅラのお母さんやお父さんを守ってやりたかった。
でも出来なかった。
だからもう、刀は握らないって決めたんだ。
自分で決めた。
グラさんに拾ってもらって、ホストになろうって。
女の子の話聞いて、褒めてあげて、いい気持ちになってもらって、笑わせてあげようって。
笑ってほしかったんだよ。
泣いてる人見るのは、つらいんだよ。
それなのにさ、なんでああなっちゃうんだろう。
ヅラ、俺、頑張ってるよね。
俺、かわいそうじゃないよね。
俺はさ、誰かのために頑張れてるよね。
疲れて、いるのだろう。
珍しく泥酔して帰ってきた金時は小太郎の薄いパジャマを引き剥がし、ただひたすらに肌をまさぐり口付け突き入れて腰を振り、愚痴を言うだけ言って寝てしまった。客に不評だから跡を残すなと言っているのに。二の腕の内側に残された赤い跡を横目で見ながら、小太郎はため息をつく。
顎に当たる金時の髪はヤニと油と垢と交じり合った整髪料の匂いがする。あとでちゃんとケアしないとニキビができるな、と思った。
小太郎の平らな胸に柔らかなふくらみを求めるように、金時は何度も顔を摺り寄せる。それをぎゅっと抱きしめる。
馬鹿な男だ。ホストには向いていない。客の感情に肩入れしすぎる。人斬りの方がよっぽど向いている。
生きている人間の感情は重さを増し続ける。背負う人間の数だけ重くなる。死んだ人間の感情は止まっている。分かち合うものがいれば、その分軽くなる。
刀は絶対に握らないのだと言う。もうあの鈍い銀色を見るのも嫌なのだと言う。
失ったものしかないのだと。
『ヅラ。俺ね、来週誕生日なのよ』
貴様、先月もそう言ってなかったか?
『だって俺、本当の誕生日知らないもん。秋生まれってことしかわかんねーもん。だから、秋の10日は毎月俺の誕生日なの。ホストの誕生日は幾らあっても困んねーもん』
商魂逞しくてよいことだな。
『ね、だからプレゼントちょーだい?』
生憎と金が無い。リーダーからは小遣い程度の金しか渡してもらっていないものでな。
『お金やモノじゃなくていいんだよ。ね?』
……今月の家賃分は済ませたはずだが?
『だからプレゼントだってば』
それほど高価なプレゼントを贈らねばならんほど世話になっているつもりはないぞ。
『ひっでー。初めての人にその態度はないんじゃないのー?』
……俺からはなにもせんぞ。好きにしろ。
『じゅーぶんです、じゅーぶんです』
ん……っ……
『ヅラ、あのねぇ。俺、ヅラとヤッてから女の子とシてないのよ』
操を立てられても困る。
『そんなんじゃないよ。だって、ヅラのほうがずっと気持ちいいんだもん。女の子のアソコよりヅラのお尻の方が気持ちいいんだもん。一度肥えた舌って戻らないって言うじゃん?』
知るか……あっ……
『俺ね、ヅラがいればそれでいいよ。ヅラがずっと側にいてくれるなら、女の子なんかいらない』
…………
『ヅラは? 俺とのセックス、気持ちいい? お客さんのほうが上手い? ねえ?』
……は、あ……
『ヅラ。俺の、好き?』
…………俺からはなにもせんと言ったろう。
『かわいいね、ヅラ』
哀れな男。お前は女が怖いんだ。お前が必死に目を逸らしている『自分は不幸である』という事実をそのまま認めてしまう、自ら落ちていってしまう女が理解できなくて怖いんだ。
お前は他人が不幸であることが怖いんだ。その暗闇に自分を見つけてしまうことが怖いんだ。
女が笑えばうれしい?
嘘をつけ。それは自己満足だ、人を喜ばせることのできる自分に酔ってるんだ、単なるオナニーだ。
お前とのセックスも、仕事でのセックスも変わらない。
じっと目を閉じて、身体の力を抜いて、意識をどこか遠くに飛ばして、ただひとつの肉塊となってしまえば残るのは生理的な反応だけ。ただ喉が震えるまま声を出して、うわ言を呟いて、快楽に押し出されて射精するだけ。
常連の客にインポテンツの男がいる。毎回、嫌というほどイかされる。指と舌と器具と薬を使って小太郎の尻をめちゃくちゃに引っ掻き回し、泣くほど追い詰められ何度も何度も射精させられる。睾丸が干上がるのではないかと思うくらい射精して、ドライではない空イキに股間が痛みを訴え、もう無理もう出ないと泣きじゃくるまで許してはくれない。そして、男は満足する。
小太郎は、男の代わりに射精する。射精する小太郎を見て、男は自尊心が満たされる。
自分は大丈夫。
くだらない。お前もあの男と同じだよ、金時。哀れな男。
胸に響くにぶい痛みに、そろりと薄目を開ける。金時の黄色いモジャモジャ頭が小太郎の胸に臥せり、それこそ生まれたての赤ん坊のような必死さで乳首を吸っていた。厚い前髪の透き間から見える手入れの行き届いた眉は、苦しんでいるかのように、もしくは泣きじゃくっているかのようにぎゅうと顰められていた。
「きんとき」
「んぁ?」
「それ、好きだ」
小太郎の呟きににやりと涎にまみれた口元を歪める。
「おっぱい舐められるの好きなんだ。エロいね、ヅラ」
別に好きではない。客は執拗に小太郎の乳首を弄るが、舐められてもべとべとと気持ち悪いだけだし、指でこねられても痛いだけだ。店長は前立腺が開発されれば、自然と乳首も感じるようになると言っていたが、ドライを覚えた今も別段感じるということはない。
好きなのは、こうやって上から見るお前の必死な顔だ。
「こっちも吸ったげる」
金時の頭が横にずれる。首を曲げ、金色の髪に鼻先を埋めた。ヤニと油と垢と交じり合った整髪料の匂いがする。
好きだ、と思った。
- at 19:56
- in 小咄