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2007年12月17日

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 5

 一ヵ月半ぶりです、銀さん誕生日話第五話。ようやく本題。
 コイバナと急展開。


 ヅラぁのイデオロギィはな、いつかヅラを殺すろー。
 坂本がそう言ったことがある。まだ戦の終わりも見えなかった頃だ。今思えば、あいつの聡さが垣間見える言葉だった。
 殺すからどうだってんだ。てめえの台詞の責任とって死ぬんなら、あいつも本望だろうよ。
 そう返せば、珍しく眉を複雑にしかめて苦笑いをした。
 ほがなぁもがやき、ヅラを奪われていいかぇ?
 奪われるも何も。
 イデオロギィなんちゅーもんより、おんしに惚れさせてやればよかぁよ。
 あ、それ無理。もうヅラ、俺にメロメロだし。
 いつものようにゲラゲラ笑う声を聞き流しながら、銀時は目を閉じた。

 私情に刀を振るうは侍ではない。それでも行くと言うのなら、俺が貴様らを斬る。
 桂が真剣を抜いたところを見たのは、それが初めてだった。
??門下より人殺しを出したとあれば、塾頭として先生に顔向け出来ぬ。貴様らを殺して俺も腹を切る。
 掴みかかった塾生は投げ飛ばされ、刀を抜いた者は腕を薄皮一枚の正確さで切りつけられ、誰一人として門より外に出ることは出来なかった。
??仇討ちなど先生が喜ぶと思っているのか。貴様らが犬死にするのを先生が望むと思っているのか。
 赤い目をしていた。銀時や高杉の血走った目とは違う、泣き腫らした赤い目だった。
 それ以来、桂は主を失った先生の書斎に篭った。半年以上も経ち、塾生を呼び集めた桂の言葉が銀時たちを動かした。
 志士となり、上洛し江戸を目指す。
 坂本はあの桂を知らないから、そんなことが言える。
 桂を殺すのは、イデオロギィではない。
 桂にイデオロギィを選ばせた銀時たちだ。


「まず第一にだな、君は桂殿をなんだと思っているのだ? 信頼し合っているかと思えば、顔を合わせれば蹴るなり殴るなり、思いやりというのが全く感じられない。労り慈しむという人間的な感情はないのか」
「違うんですよ。この人、それが愛情表現なんです。小学生と一緒なんです」
「銀さん、そういうところあるよねえ。ムキになるって言うか、子供っぽいって言うか」
「だとしても度を越えている。そう思うだろう、新八くん」
「いや、僕は慣れちゃって特には……」
「九兵衛ちゃん、そういう愛の形もあるんだよ。大人になれば分かるって」
「子供扱いしないでいただきたい! これでも、人が人を愛するというのがどのような意味合いを持つかくらい、心得ているつもりだ!」
 助けて。降ろして。逃げ場のない環状道路を時速20kmほどでゆっくり進む密室の中、前から横から責め立てられ銀時はすっかり憔悴していた。右隣の桂はこっくりこっくり舟を漕いでいる。どうしてこの騒ぎの中で眠れるのか。俺も寝たい、夢の世界へ逃げたい。
「てゆーかさ、銀さんは桂さんと付き合ってるワケ?」
 基本的なところ聞かれた。
「えー……どう思う、新八?」
「こっちに振るのかよ! えぇー……そういうのとはまた違うんじゃないですか? よく分かんないですけど」
「じゃあ、付き合ってねえよ」
「それでいいのかよ!」
 そう言われても、是も非もない。桂との縁は一言で言い表せるようなものではない。ちらと横目で寝顔を確かめる。うん、熟睡している。
「こいつのことなんざどうでもいいのか、って言われたら違うよ」
 銀時が初めて自分から口を開いたことに、車内が静まり返る。長谷川はラジオのボリュームを落としたようだ。
「生まれて初めて、死んでも守りてえって思ったもののひとつで、一緒に死んでもかまわねえって思ったやつで、一緒に生きていこうって思ったやつだ。背中預けて、命預けて、こいつだけは絶対俺を裏切らねえって信じたやつだ。こいつもきっと同じだ」
 軽く握ったこぶしで、こつこつと桂の耳の上辺りを叩く。ううん、と、微かに眉を寄せて呻いた。
「でも、俺はこいつを裏切りました。以上。そんだけです」
 それだけなのだ。簡単な話なのだ。桂が大切だった。二人でいられれば何も恐ろしくないと思っていた。世界で二人きりになっても生きていける自信があった。世界で、桂と二人きりで全然かまわなかった。
 その桂から逃げ出すほど、自分は弱かった。
「……何故、裏切った?」
「自分に出来ることと出来ねえこともわかんねえくらい、バカだったから」
 結局、桂と二人きりでなんて生きていけなかったのだ。天地命運の全てから桂を守り切ることなんかできなかったのだ。世界は、自分と桂の二人だけで出来ている訳ではない。あまりにも当然なそれに気づかないほど、あの頃の自分は幼く弱く、馬鹿だった。
 それだけのことだ。
「だから、いまさら何言っても遅いの」
 ぐんと胸襟を掴まれた。
 ただでさえ近かった九兵衛の顔がほんの三寸ばかりの距離にあった。右目が苛烈に燃えている。双眸の光を一つに集め、なにもかも射貫くような強さで燃えている。
「何が遅い」
 この娘の失われた左目は、あいつの失われた左目とは役割を異にするのだろう。あいつは左目を失い、この世界の片方を見る目を失った。あいつには汚濁に塗れ卑屈に喘ぐ世界しか見えなくなった。この娘は汚濁を知る前に左目を失った。この娘にとって、世界は汚濁に塗れたままに美しい。汚濁から目を背けようとすれば、世界そのものを失う。
 潔い目だ。
「君も桂殿も、今ここにいるだろう。君の右隣に座っているのは誰だ? 幕府すら敵に回して戦う、その男が安寧し惰眠を貪っているのは、誰の隣りだ。何も遅くない。何が遅い」
「ちょ……九兵衛さん。九兵衛さん!」
 助手席の新八が身を乗り出し、詰め寄る九兵衛を制しようと手を伸ばす。それを振り払い、彼女はまだ足りぬまだもどかしいと銀時を追い詰める。
「僕は一緒に戦ってくれる人が欲しかった。僕の生を支えてくれる人が欲しかった。君は分かっていないんだ。それがどんなに得難いもので、どれほど貴いものなのか、君は分かっていない!」
 ぐいっと九兵衛の襟が掴まれる。
「言っていいことと悪いことがある」
 新八が怒っていた。車がろくに動かないことをいいことに、シートベルトを外し狭い隙間から身を乗り出していた。
「銀さんはそんな人じゃない。思い込みだけで、銀さんのことをそんな風に言わないでください」
 新八は意外と簡単に怒る。特に身内事に関しては。その時の目付きの恐ろしさと言ったら、普段の地味なおとなしさしか知らない人間には殊更異様に見えるだろう。
 その気迫に押されたのか頭が冷えたのか、毒気と共に九兵衛の力が抜けた。小さく、すまない、と呟く。若い女の顔を間近で見るのは、そう悪くない気分だったのだが、一応はその謝罪を受けておくことにした。新八も姿勢を戻し、シートベルトを締め直す。真面目なやつ。
「……銀さんは、裏切ったりなんかしてません」
 まだ気が治まっていないらしい。新八の声に、銀時は頭をかき回した。
「逃げたりなんかしません。銀さんはそんな人じゃない。いつだってそうじゃないですか。銀さんが諦めたり放り投げたりしたことなんか、見たことがない。いつも面倒臭いとかかったるいとか言いながら、銀さんはなんにも見捨てないじゃないですか」
「……あのねえ、新八くぅん」
「理由があるんです。銀さんも桂さんも何も喋ってくれないし、喋ってくれても僕には分からないことだと思います。銀さんはいい加減だけど侍です。桂さんも変な人でうざいけど侍です。だから、卑怯な真似なんか絶対にしない」
 夢見過ぎだなー。思春期の少年は怖いなー。ふと左に目をやれば、新八の頭(を遮るシートに被せられたハイヤーの広告)をじっと見る九兵衛の右目が見えた。右は見ない。まだ寝てんだろ、どうせ。
「銀さんが桂さんを裏切るなんて、僕はいやです」
「そうだといいねえ」
 だんまりを決め込んでいた長谷川が、ぽつりと口を開いた。
「そういう意味ですか、長谷川さん!」
「いや、落ち着けって。落ち着けって、新八ぃ」
「あんたに銀さんの何が分かるんだよォ! 銀さんはなあ、銀さんはなあ、そりゃニート寸前で糖尿で未だジャンプ卒業できなくてだらしなくていい加減で目が死んでてパチンコでスるだけならともかく小金が入るとちょっとした風俗とかも行っちゃうけど、侍なんだぞぉ! 辛うじて、まだマダオへの第一線を保ってるんだぞぉ!」
「フォローかー!? それ、フォローかー!? 新八くん、落ち着こうー。長谷川さん、一応ハンドル握ってるからねー。胸倉掴むな揺するなグラサン外すな、グラサンないと長谷川さんが長谷川さんじゃなくなるだろお!」
「し、新八くん、落ち着いたらどうだ? 運転手さんに迷惑をかけるのはよくない、うん」
 おろおろしだした九兵衛とともに、新八の肩を後ろから押さえ付ける。危うくグラサンが首都高の真っ只中へグッドバイするところだった。やめてやめてと半泣きだった長谷川がグラサンを掛け直す。
「……いや、だってさあ。俺はなんとなく分かるよ? 銀さんの気持ち?」
「だからぁ! 銀さんはアンタみたいなマダオとは違うんだよ! 僅差で! プラスマイナス5%くらいの僅差で!」
「新八、その僅差は銀さん泣くぞ!? つか、マイナスって何? 銀さん、長谷川さんよりマイナスなところなんてないつもりだぞ!?」
「……銀さん、俺が泣きそうなんだけど」
 わずかにグラサンを押し上げ、涙を拭う仕草をする。いや本当に、さすがにこの人より劣っている部分があるとは思っていない。同じ程度だと思う部分はあるが。
「俺だってさあ、嫁さんのためならなんだって出来たよ? あいつを幸せにしてやるためなら、ちっちゃいプライドなんか捨ててかまわないってさあ。俺の男の一生を側で支えてくれるのは、この女だけなんだってさあ」
 きれいな人だったなあ、と思い出す。本当にこのダメなおっさんにはもったいないほどのきれいな人だった。あのイケメン検事が夢中になるというのも理解出来るくらいにきれいで、芯がピンと通ってて、いい感じな人妻だった。……ヅラ、好きそう。紹介するのはやめとこう。
「でも、オジサンは一時のテンションに任せて自分のプライド押し通して、嫁さんのメンツ丸潰しにしちゃったからねー。お前に恥かかせないように一生懸命働くって言ったのにねー。そりゃ、家も出られるよねー。あははははー」
「うむ。それは確かに裏切りだな、長谷川さん」
「はははは……うん、そうなの……」
「だからそりゃあ、アンタが天性のマダオだからだよ!」
「そうだよね……俺なんて所詮マダオでさぁ……」
「長谷川さん、落ち込んでもいいから前見てくれねえかな? IC近いから、結構流れてきたから!」
 自分の半分以下の年齢の少年少女にズケズケ言われ、長谷川の背が丸まる。一応運転中なのだから、ハンドルに額くっつけてしまうのはやめてくれ。
「後悔はしてないんだよねー」
「だから長谷川さん。前、前」
「俺ぁ、その時その時、これだけはやらなきゃいけない、守らなきゃいけないってもんを守ってきたからさぁ。後悔はないんだよ。でも、なんでなんも残らなかったのかなぁ」
「長谷川さん、前動いたよー。ほら、後ろクラクション鳴ってるよー。玉突き食らうなんて俺やだよー」
「銀さん。守りたいものと無くしたくないものを勘違いしちゃ駄目だよ。でないと、俺みたいになるよ」
 がくん。急発進に、シートベルトをつけていない銀時の身体が揺れた。後続からせっつかれ、車はのろりのろりと走りだす。
「……いや、でもさあ……長谷川さん……」
「あン?」
「俺だってね? 俺だってさ」
 俺が守りたかったのは、本当は、
 たんたかたーん、たんたんたーん、たんたんたったったったたー!
 やたら激しい着メロにその場の全員がびくりと身を震わせ、音の方向を見る。
「……う?ん……?」
 ぐいぐいと目許をこすりながらいかにも眠そうに桂が身を起こし、ごそごそと袂を探る。なんで『LOVE PHANTOM』だ。きーみをさっがしさーまよう、っまいそーっ。
 ぴっ。
「ああ、俺だ……うん、うん……え、マジでか。うん……うん……分かった、では後ほど」
 ぴっ。
「長谷川さん、急用が出来た。次のICで降りてくれないか?」
 桂は半分寝ぼけ眼をこすり、携帯を閉じながらそう言った。


 ここでいいと桂が言うので停めれば、道路の向かい側に黒塗りの重々しい車がつけていた。傍らに立つ小柄な人影に見覚えがある。
「あれ、陸奥さんじゃありませんか?」
 買い物袋を覗き込んで何やら密談している桂と九兵衛を尻目に、新八が耳打ちしてくる。あの小柄な体躯に合わない笠とマントは、間違いなくあのもじゃもじゃの片腕である無表情女だろう。ということは、坂本絡みか。
「……という感じだ。分かったか、九兵衛殿」
「了解した。やり遂げてみせよう」
 何の話してんだろ。車を止めた脇で長谷川は息抜きにタバコを吸い(車内は禁煙なので)、銀時は新八の買い物袋から強奪したキャンディを嘗めていた。並んでガードレールに腰掛けつつ、ぼんやりと天然コンビの会話が終わるのを待っている。ようやく桂が顔をこちらに向けた。
「銀時」
「ん? あーに?」
「口に物を含んだまま喋るな、行儀の悪い。少々用は長引くだろう。おそらくパーティには行ってやれぬ。すまんな」
「別にぃ? 来てくれなんて言ってないしぃ」
「銀さん……」
 新八が呆れ半分のため息交じりで呟く。仕方あるまい。そういう間柄なのだ。もう二十年近くもそうやって来たから、ほら桂だって笑っていて、なんかその笑顔が妙に近いけど……
 ちゅ。
 キスされた。鼻の頭だけど。
 人間は予期しないトラブルが起きると、その対応策をなんとか捻り出そうと脳がものすごい勢いで計算を始めるらしい。所謂走馬灯というやつの正体だ。
 新八が顔を真っ赤にしてガードレールから転げ落ちるのがスローモーションで見える。九兵衛は怒ったような表情で目をかっと見開き、頭から湯気を吹いている。長谷川が一人膝を叩きながら、ゲラゲラ笑っている。
 それら周囲の映像と全く同時に、目の前の微かに頬を染めて笑う桂の顔が見えた。
「余り堂々と惚気るな。恥ずかしい」
 ちゅ。
 今度は唇に程近い頬に。
 桂が袂を翻し、歩道橋を軽快に渡って陸奥の車に乗り込むまで、銀時以下四人はぼーっとその姿を目で追っていた。
「破廉恥だ」
 ぽつりと九兵衛が呟く。
「破廉恥だ破廉恥だ破廉恥だ! 侍の行いではないぞ、今のは!」
「ぎ、ぎぎぎ銀さん!? いくらなんでもね、あんなこっ恥ずかしいことは人前じゃ控えた方がいいんじゃないんですか!?」
「いやー、オジサン当てられちゃったなー。なんだかんだ言って、まだ銀さんも若いねー」
「うっせ。お前らうっせ。黙れ頭叩き割るぞボケ」
 ずるずると背を丸め、頭を抱え込む。嘘寝なら嘘寝って言えよ、もー……恥ずかしい、死にたい、天からマシンガンをもったペコちゃんが降りてきたら喜んでその前に全身を晒すので百二十発のミルキーを打ち込んで殺してほしい。
 銀時が落ち込んでいる横で、パニックから回復した三人は道場に戻る算段をしている。会社までの戻り道の途中だから送って行くという長谷川に、少しは仕事をしろという新八に、別の駕籠を拾うからいいという九兵衛。どうにでもしろや、銀さん今日はもう駄目です。
 ふと、微かな声に気付く。車のラジオだ。先程ボリュームが絞られたままだった。空いたままの窓から手を延ばし、ボリュームのつまみを上げる。
『現場の結野です!』
「お」
 なに、こんな小さい音声に気付くなんて、俺、すげえファンじゃね? なんつーか、この緊張に震える高い声がいいよね。
『過激派テロリストによるターミナル立てこもりは、二時間を経過し、未だ事態に進展は見られません!』
 テロリスト。その名詞に、他の三人もラジオの側に近寄ってきた。
『犯人の人数は不明。立てこもっている場所は、輸出入品の検疫スペースと見られておりますが、詳しい部分については報道規制が敷かれ、警察が発表を控えているため、お伝えできません。犯人の要求、被害者、人質の人数など分かり次第お伝えしたいと……』
 嫌な予感がする。銀時はラジオのパネルを食い入るように見つめている。
 ターミナル。輸出入品。検疫。桂を迎えにきた陸奥。
「銀さん」
 振り返ると、長谷川が携帯電話を畳んでポケットにしまうところだった。
「管理局の後輩に聞いてみたんだけどさ。まあ、部外者だから詳しくは聞けなかったけど。やっぱり攘夷派みたいだぜ。そんでさ、立てこもってる場所ってのが……」
『あ、たった今、新しい情報が届きました! 犯人が立てこもっているのは、一般貿易会社のコンテナで、会社名は……』
「快援隊」
 長谷川よりも結野アナよりも早く銀時がその名を口にした。あいつはいつでもそうだ。トラブルを引き起こしまくっては、尻拭いを他人に押し付ける。
「銀さん。桂さん、もしかしたらこっちに……」
「もしかしても何もないでしょ」
 ぎりと唇を噛む。ええ、そうですよ。俺はもう、テロだの何だのに関わる気はありませんよ。
 でもさ、これはないんじゃないかな。誕生日にさ、デートしててさ、お前が一番大切だって惚気た直後にさ、何にも言わずに帰っちゃって、理由も言わないで、お前だけじゃない坂本も関わっているのに、俺だけ蚊帳の外かよ、何で一言言わない、一言でいい、攘夷もテロも政治も侍も何も関係ない、ただお前が一言、俺に言ってくれれば
 口の端に触れる。桂の唇の感触を思い出す。
「新八。銀さん、急用思い出したから。夜までかかるかも。パーティ、先にやってて」
「銀さん!」
 身を翻し駆け出そうとする銀時の袂を、しっかと新八が握って引き留める。振り返れば、大層必死な顔をしていた。
「……桂さん、連れてきてくださいね。言ってたんです。すごいプレゼント用意してるって。みんな驚くぞって。だから……」
「出来ればな」
 二度三度、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてやる。手を振り払い走りだす。
「銀さん!」
 声が追ってくる。約束してやりたいのは山々だが、いかんせん銀さんもいっぱいいっぱいだから。
 守らなきゃいけない約束よりも、失いたくない約束が多いほどには、いっぱいいっぱいな大人だから。

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