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王子様と秋の空 [将棋]
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2008年3月27日

駒と盤だけは裏切らない 後編

 棋士モノ。高杉、吉田ファミリー入り。
 前編はこちら


「……内弟子に取るぅ?」
「無理ではあるまい」
 夕飯を食いながら、桂が突拍子もないことを言い出した。あの雪の日から二ヶ月がたち、ようやく春の兆しが見えてきた日のことだった。
「晋助が熱心に教室へ通っているのは知っているだろう」
「あー、しょっちゅういるよね」
「どんどん強くなっている。あれならば、一年か二年もすれば、奨励会入りも出来るだろう」
「マジでか」
「マジでだ」
 初対局以来、桂は時間が合えば熱心に晋助に指導していた。晋助もよく懐いているようで、おとなしく真面目に勉強している。
「本人に将棋を続けたい意思があるのなら、出来るだけ早く環境を用意してやりたい。だから……」
「無理だろ」
「銀時」
 咎めるような声をスルーして、味噌汁を啜る。
「内弟子ったってさ、お前が弟子にするんじゃねえだろ。先生が弟子にするんだろ」
「それは、まあ……俺も弟子を取れるような身分ではないしな」
「これ以上、先生に負担かける気かよ」
 ぐ、と、桂が喉を詰まらせる。ここ一年ほど、吉田の持病はじわじわと悪化しており、幾度か入退院を繰り返している。今も入院中で、対局には外出許可を取って出てきている状態だ。それでも連戦連勝、名人位を揺るがすことはなく、ついには永世名人の資格を手に入れ、今年は棋聖や竜王にもタイトル奪取の意思を見せている。
 それは全部、自分から桂へタイトルを譲りたいという吉田の夢のためだ。勝負師であるより前に研究者である吉田にとって、己の愛弟子に己の将棋を超えられると言うのは、吉田の将棋の完成を意味する。それが吉田の欲であり、吉田と桂の絆だ。
 もちろん、桂もそれに応えようとしている。順位戦で昇段が滞ったことはなく、着実に実力をつけてきている。しかし、若い。名人戦挑戦の資格であるA級1位を得るには、最短でも5年かかる。
 吉田が棋聖や竜王へ意欲を見せているのは、そのためだ。
 桂がA級へ昇格する前に、自分が死ぬかもしれない。
 吉田も、そして桂も、自らの命と魂を削って将棋を指している。銀時はそれを最も近くで見ていた。その強い絆に嫉妬すら覚えながら、ずっと見ていた。自分もその絆の一部なのだと思いながら。
 だからこそ、これ以上、吉田や桂の負担になるようなことは認められない。そして、浅ましいことだが、
 自分以外の誰かが、この絆に入り込むことへの嫌悪感。誰かが、桂や吉田の家族になることへの嫉妬。そんなものが銀時の腹の中でうごめいていた。
「……傷が……」
「傷が?」
「晋助の傷が、どんどん増えている」
 飯時に言うことか、それが。銀時は箸を置いた。
「だから、それは警察とかの仕事だって」
「保護されて晋助はどうなる。施設に入れられて、そこで将棋が続けられるのか。晋助はプロを狙える才能を持っている。それを支えてやるには、周囲の理解が……」
「ヅラァ。お前、晋助が将棋が強いから助けたいの? 虐待されてるから助けたいの?」
 あ、まずい。ヅラ泣きそう。唇をかみ締め、眉をしかめて、じっと卓袱台を睨んでいる。昔から口喧嘩は銀時に分があった。桂は正論を追い求めるゆえ、詭弁が使えない。口八丁で逃げ場を奪ってしまえば、銀時の勝ちは決まったようなものだ。
 それでも、銀時が桂を完全に言い負かしたことは少ない。
 こんな風に泣き出すから。真面目すぎるのだ、こいつは。
「そりゃあね、俺もお前も先生に育てたもらったよ? でも、お前の場合、家出したのはお前の意思だろ? 俺は母ちゃんが死んだから仕方なくだよ? 晋助は事情が違うだろ。殴ってくるとはいえ、一応親がいる。将棋を教えたいからって、そこから無理やり引き離すことなんか出来ないだろ。虐待から助けたいって言うなら、警察や役所に相談することだ。俺らが口出しすることじゃない」
 何も間違ったことは言っていない、と思う。銀時とて棋士の端くれだ(始めた動機は不純なものにせよ)。あれだけ熱心に教室に通ってくる晋助に情が湧かないことはない。しかし、内弟子にとるとか引き取るとか言う話になれば別だ。
「気持ちは分かるよ、ヅラ。俺だってろくでもねえ親に殴られて育ったもん、かわいそうだなーとは思うよ。だけどよ、気持ちや同情だけでどうにかなる話じゃねえだろう」
 嫉妬はある。確かにあるが、それ以上に、
「何でも自分で背負い込もうとするな」
 桂も吉田も、自分だけで精一杯のくせに誰かを背負いたがる。自分も背負われたものの一つである以上、その背のか細さも痛々しさも知っている。それが更なる重荷で撓むことは耐えがたかった。銀時自身が辛かった。
 ……ぐすっ。
 あー、泣いちゃった。やっちゃった。二十歳にもなろうって男が泣くんじゃないよ。がしがしと銀時は頭をかきむしる。
「……ヅラじゃない」
「うんうん、分かった」
「晋助に将棋を教えたのは、俺なんだ」
 ぐす、ぐす、ひっく。
「どんなに怪我をしても教室には必ず来るんだ。大きな痣をこしらえて痛いだろうに、盤には真剣に向かっている。今の晋助にとって将棋だけが信じられるものなのかもしれない」
「……泣くなよー」
「銀時。晋助に才能があるとか、怪我をしているとかは関係ない」
 なんでこうもクソ真面目なんだか。
「俺はあの子に信じさせてやらなきゃいけない。駒と盤だけは裏切らないんだって」


 そういえば、こいつは一度言い出したら聞かないんだった。嫌というほど思い知るのは、そう先の話じゃなかった。
 その日も二人で西郷の教室にバイトに出て、また新しい痣をこしらえた晋助が顔を出して、桂と盤を挟んでいた。長めの詰め将棋をやっているらしい。
「晋助、あまり目を擦るな」
「うるせえ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
 何、母ちゃんみたいなこと言ってんだ。心配そうな声とすっかり銀時の影響を受けた声に振り向けば、晋助がしきりに片目をごしごし擦っていた。花粉症だろうか。
「晋助」
 桂はずぼらなくせに細かい所作にうるさい。手を洗わないで食卓につくとすごい怒るとか。汚れた手で目を擦っちゃいけません、桂がやんわりと晋助の手を握る。
 意外にもそれはひどい勢いで振り払われた。ぱしん、という大きな音が教室に響く。子供たちがざわつき始めた。
「……どうした、晋助?」
「変だ、なんか変だ」
 一番驚いたのは桂だろう。晋助は無愛想ではあるが、桂に反抗的な態度を取ることは少ない。盤を挟んでいる時はなおさらだ。
 ごしごし、ぐりぐり、がしがし。擦るというよりも、掻き毟るようだ。
「ヅラ、なんか変だ。ぼんやりする」
「晋助、擦っちゃダメだ。見せてみろ、ほら」
「変だよ! 暗いよ、なんだよこれ! ヅラ、俺の目変だ! 見えないよ、こっちが見えないんだよ!」
「晋助!」
 将棋盤をひっくり返し、桂が晋助の腕をつかむ。小さな爪には血がこびりついていた。
「落ち着け、晋助! 触っちゃダメだ!」
「いやだ! こわい! こわいよヅラ! こわいよ!」
 もがく晋助を落ち着かせようと桂の腕に力が篭る。パニックになった晋助が、それから抜け出そうと暴れる。桂の長い髪を引きちぎり、頬を引っかき、目元を殴りつける。それを押さえ込むように、桂の両腕が晋助の小さな体を抱きしめた。
「銀時! 救急車!」
 泣き叫ぶような桂の声に、銀時は弾かれたように電話に飛びついた。

 西郷が呼びに行った晋助の母親は、真昼間から泥酔しており到底話が出来る状況ではないかった。そのままアル中病棟に突っ込まれた。代わりに医者の話を聞いたのは、桂だ。他人ではない、内弟子として引き取る話が進んでいた、家族同然だと言い張ったのだ。
 まあ、簡単な話だ。度重なる暴力で、視神経が圧迫されてしまっている。今はなんとか見えているが、ストレスを感じると視力の低下が起きてしまう。
 小児病棟に空きがなく、晋助はやたら豪華な病室に突っ込まれた。バカでかいベッドに埋もれるように、両目を包帯でぐるぐる巻きにされた晋助が寝ている。軽い鎮静剤を打たれたらしい。
 桂はその隣りに、まるで自分が病人のような顔で座っていた。白い顔にべったりと大きな絆創膏が貼られている。
「パジャマ。俺とお前のお下がりだけど。あと歯ブラシとか」
「あ? ああ……すまない、銀時」
 銀時の突き出した紙袋を受け取って、ベッドサイドに置く。そして、まただんまり。
「手術とかするの?」
「まだ子供だ。これから成長期でどうなるか分からんから、手出しが出来ないのだと。今は安静にしてストレスをかけないことが重要なのだと言っていた」
「いい加減な医者だな、おい」
 桂の手が布団の下に潜り込んでいるのに気付いた。晋助の手を握っているのだろう。……やなもん見ちゃった。
「……ヅラ?」
 起きた。大きな羽枕の中で、晋助がゆらりゆらりと首を振る。
「ヅラじゃない、桂だ。晋助、気分はどうだ?」
「……見えない。見えないよ! ヅラ、真っ暗だ!」
「大丈夫、目を休ませるために包帯で塞いであるだけだ。大丈夫だよ」
 布団の中で桂が晋助の手を強く握ったことが分かった。桂の落ち着いた声に、晋助も安心したのか、起こしかけた身体を布団に戻す。
「ゆっくり休めばすぐ治る。怖くないから」
「……ヅラ」
 髪を撫でる桂の手に擦り寄るように、晋助の頭が動く。見当をつけたのか、桂の顔を見上げるように顎を上げた。
「さっきのさ、初手は2四金でいいのか?」
「……え?」
「詰め将棋。引っ繰り返しちゃったから。2四金、同銀、1四竜。あとは竜で追い詰める。だろ?」
 あー、やばい。泣きそう、また泣きそう。真っ赤になって唇を噛み締める桂の横顔に、晋助の目が塞がってることを感謝した。こういう可愛い顔は自分と先生が見れればいいのだ。
「……違うな。2四金は同馬で取られる」
 布団の下から晋助の手を取り出し、桂の指が小さな掌に駒の軌跡を描く。もう片方の手が宙に浮き、そこに盤があるかのように縦横斜めに動いた。
「あ、そうか。あっちに馬がいたんだ」
「銀をどかそうという発想はいい。ポイントは、そうだな、大駒は離して打つだけじゃないというところか」
「分かった。3五角」
「離して打ってるじゃねえか。何聞いてたんだ、おめー」
「……なんだ。いたのかよ、銀時」
「いちゃ悪いか! てめー、土産のメロン大福、全部食っちまうぞ!」
「食えよ。いらねえよ、そんなキモい大福」
「キモ……っ!? キモくねえ! はまだ屋のメロン大福のさわやかな甘みのどこがキモいんだ、言ってみろこのクソガキ!」
「病室で騒ぐな、銀時。病人の前だぞ」
「寝てりゃ治るんだろ、こいつ! 風邪以下じゃねえか!」
「なあ、ヅラ。3五角じゃないのか? もしかして、2三飛か? 2三飛、同玉。だろ? なあ」
「ん? ああ、そうだな。それで次はどうする?」
「お前ら、なに無視してくれちゃってんの? 詰め将棋解く前にメロン大福に謝ってくれない? ねえってば」
「銀時……!」
「いまさらシィーっじゃねえよ、ヅラァ! 邪魔者!? 俺邪魔者なの!?」
「邪魔だよ」
「邪魔ではないが、少しおとなしくしていろ」
「……せんせーい! 晋助くんと小太郎くんが僕を仲間はずれにしまぁーす!」
「だっ……から、おとなしくしてろと言ってるだろぉが、このバカモノがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「銀時もヅラもうるせーよ。盤が分からなくなるだろ」
 暗い瞼の裏に、9×9の升目と40の駒が浮かぶ。
 これが見える限り大丈夫だ。晋助はそう思った。


 晋助の弟子入りはあっさり決まった。先生は気軽に子供を引き取りすぎだと思う。
「だって、世話は小太郎がするって言ってますから。まあ、どうせ僕が世話しなきゃいけなくなるんでしょうけどねえ」
「犬の子じゃねえよ」
 体調が大分よくなったからと久しぶりに家に戻ってきた先生は、元気にバリバリ煎餅を齧りながらのたまった。
「まあ、小太郎が気に入ってるんですから、才能は本物でしょう。あの子は本能で将棋が強い人間を嗅ぎ分けますから。僕とか君とか」
「そうなの? そういうもんなの?」
「奨励会であの子が気に入ってた人間は大抵プロになってますよ。よかったですねえ、銀時。小太郎に好かれれば、プロ入りは約束されたようなものですよ? ねえ?」
 ……先生、どこまで知ってんだろ。言ったこととかないんだけどな。現にヅラは気付いてないし。それとも傍目からはバレバレなんだろうか。岡目八目って言うしな、囲碁の言葉だけど。
「僕は無理だと思うんですけどねえ」
「しつこいよ! 何で先生は、そう否定してかかるわけ!? もっとこう、褒めて伸ばしてくれよ! 俺、そういうタイプだから!」
「しつこいのは君ですよ、僕はやめとけって何度も言ったのに……今何級でしたっけ? 3級?」
「三段! こないだ上がったって報告しに行っただろうが! 次の三段リーグで勝てばプロ入りですぅ!」
「三段は厳しいですよぉ。小太郎でも三期かかったんですから。大丈夫かなー、挫折しないかなー、将棋なんか嫌いだって家出したりしないかなー」
「しーまーせーんー!」
「まあ、銀時はね。何やってもそれなりに生きていけるでしょうから、いいんですけどね。晋助くんはちょっと厄介ですね。あの子は、駒を持つのが早すぎた」
「……みんな、あんなもんだろ。ヅラだって5歳からやってんじゃん。先生もそんなもんだろ」
「そうですよ、だから厄介なんですよ。僕も小太郎も、将棋以外の生き方を知らない」
 そういう人間でなければプロになれない。今の棋界はそういう形になっている。物心ついた頃にはすでに駒を持ち、中学生になる前には将棋で生きていくことを覚悟しなければならない。おおよそ一般的な『進路』や『将来の夢』とはかけ離れた生き方をしている人間でなければ、棋士とは呼ばれない。
「奨励会の年齢制限は引き下げられる一方だ。せめて、奨励会を通さずにプロになる方法があれば……」
「いや、棋界の未来とか、そういうのはいいからさ。俺、そういうの興味ねえし」
「なに言ってんですか。プロ棋士になるってことは棋界を動かすってことですよ。本気でプロになるつもりがあるなら、ちゃんと考えなさい」
「プロになったら考えます」
「だから、君はやめとけって言ってんです」
 先生はずるずるっと茶を啜り、一息ついてやれやれと首を振る。
「ま、拾ってしまったものは仕方ありませんからね。最後まで面倒見なくては」
「だから晋助は犬の子じゃねえって」
「君も含めての話ですよ」

 拾われっ子同士で盤を挟む時の晋助の集中力は並みではない。
 ただ、集中するということはそれだけ目にストレスがかかるわけで、度を越すとまた視力が落ちる。なので、医者の指導で対局中は眼帯をつけることにした。少なくとも、使っていなければ過度な負担はかからない。最初はうっとおしいと嫌がったものの、ヅラに『変身するみたいでカッコいいな』と言われてからは、普段でもつけるようになった。いつもつけてちゃ、視力を保護する意味ないだろ。そう言ったら、思いっきり向こう脛蹴られたが。
 先生やヅラに対しては割りと素直なくせに俺にだけは歯向かって来るんだ、こいつ。なんなんだ。嫌われてんのか。それとも……
「……あのさー、晋助くーん」
「なんだよ」
 内弟子に入ってからというもの、晋助の成長は目覚しい。多分、アマ三段か四段くらいはいけるんじゃないだろうか。ということは奨励会を受験してもおかしくないわけだが、先生はヅラの時と同じく、慎重に育てていくつもりらしい。故に、今も平手で指している。
「俺とヅラ、どっちが好きぃ?」
「ヅラ」
 即答したよ。なんだこいつ。
「んじゃーさー、ヅラと将棋、どっちが好きぃ?」
「…………」
 ……口ごもったよ。しかも、なんか照れてるよ。何この子? あれ? もしかしてライバル? そうなの?
「……よく分かんねえ」
「分かんないって何だよ。俺はどっちが好きかって訊いてんの」
「将棋はめんどくさい。ヅラはうっとおしい」
「……は?」
「でも、俺が将棋するとヅラが嬉しそうな顔するから」
 ぱしん。詰めろをかけてきやがった。
「先生やヅラの対局見てると、将棋ってすげえって思うから」
 どうするかね。受けるにしても、どっちにかわすべきか。
「もっとすごい将棋を見たいし、指してみたい。そんで、ヅラや先生が嬉しいなら、もっといい」
「……そういうことね」
 ヅラにとって駒と盤は決して裏切らないように、こいつにとって駒と盤とヅラは決して裏切らないのだ。
「分かりました、と」
 ぱしん。
「あ」
 だが、まだ甘い。
「晋ちゃん、世には詰めろ逃れの詰めろってのがあってだね」
「銀時、てめえっ……! ずるいぞ、こんなの!」
「いやー、ずるくないよー。全然ずるくないよ、こんなのー」
 一気に変わった局面に、晋助がガリガリと頭をかきむしる。
 まだ将棋を始めて一年にもなってないガキに負けるわけには行かないのだ。こちとら、一応7年やってる。
「……7年、ねえ」
 よくこんないい加減な自分が、7年もじっと片恋をし続けてきたものだと思う。7年もぐだぐだしていたせいで、こんなライバルも登場したし。
 詰めろ逃れの詰めろ。窮地から抜け出し、相手を追い詰めるための終盤の一手。
「……そうだよな、そろそろ終盤だよな」
「何言ってんだ? 終盤だろ?」
 三段リーグだ。
 三段リーグを勝って、プロになって、自分も将棋で生きていけるようになったら、
「晋ちゃん」
「晋ちゃんじゃねえ。うるせえよ、気が散る。黙ってろ」
「俺、告るわ」
「……コクるってなんだ? 投了か?」
「いや、投了なワケないでしょ。だって俺、詰むもん」
「え!? 詰むのか、これ!?」
 晋助が身を乗り出し、盤にかじりつく。目に負担がかかるから、そういう姿勢はやめろってヅラに怒られてんでしょーが。
 三段リーグが終わるのはちょうど十月。俺の誕生日も近いし、初めてヅラと会ったのも秋だし。
「うん、告ろう」
「だから、なんだよ、コクるって!」