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王子様と秋の空 [将棋]
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2008年8月29日

うしくんととかげのおうさま

 とかげのおうさま、ねこのおうさまと同設定獣人ネタ、龍人のヅラと牛頭の土方さんで、土→桂。
 ラブコメ風味。


 山崎からの情報通り、確かにそこには桂小太郎がいた。
 このクソ暑いのに羽織まで着込んで元気に看板を振り回し、汗ひとつかいていない。寒いと動けなくなるが、暑さには滅法強いというのは本当らしい。
 さすがトカゲ。こちとら、蒸し暑い日本の夏など一切考慮していない黒のお仕着せで夏バテ寸前だというのに。はあ、と土方がため息をつく。このまま、桂がアイスキャンディを完売させるまで待つ訳には行かない。意を決してパトカーのドアを開け、エアコンの効いた車内から炎天下に踏み出した。
「迎えにきたぜ、桂」
 土方の姿を認めるなり、桂がその涼しげな眉をひそめる。
「仕事中だ、あとにしろ」
「あんたの仕事はガキ相手に氷菓子売ることじゃねえだろ。ほら、こっちこい」
「むっ? きゃあー! いやぁー! 攫われるぅーーー!」
「ンなっ……! 人聞き悪いこと言うんじゃねえ!」
 ぐいと腕をつかめば、甲高い裏声で叫ばれる。往来のど真ん中で『人さらい』はやめてほしい。周囲の注目が集まる中、桂の叫び声を聞いた菓子屋の店主が飛び出してきた。
「どうしたんです、カツーラさん……!?」
 その鼻先に、土方は警察手帳を突き付ける。
「特務警察真選組副長、土方だ。職務上の用件により、このバイトは連れていくぜ」
「え? な……『獄卒』風情がなんのつもりで……!」
 また獄卒呼ばわりか。土方は銜えタバコのフィルターを噛み締める。さらに後ろから『そーだそーだ、獄卒の分際で生意気だぞー』と囃し立てる桂の声に、フィルターを噛み千切る。
 ぐいっと桂の腕を引き、店主の前に引きずり出して頭を一発殴る。
「てめーが時給八百円だか九百円だかで雇ったこのロン毛はなあ。聞いて驚け、大江戸の安寧と治安を守られる東方守護職、青竜明神桂小太郎様だ! 賽銭でも投げて柏手打ちやがれ、この罰当たりが!」
「明神様の頭を叩く貴様に罰を当ててやる」
「黙ってろ、てめぇは!」

 目を白黒させる店主を尻目に、桂をパトカーの助手席に突っ込み、有無を言わせず発車する。後部座席に座らせないのは、一度、ジャッキー並みのアクションで逃げられたからだ。
 不満そうに頬を膨らませる桂が、いつドアを蹴りやぶって飛び出さないか、内心びくびくしつつ車を走らせる。
「少しは自重してくれや、桂さん。あんたに万一があっちゃあ、俺らが困る」
「さんとか言うな、どうせ俺のことなど道端の地蔵くらいにしか思っとらんくせに」
「地蔵なら閻魔だろ、獄卒の上司じゃねえか! おめーが地蔵ならもっと敬ってるよ、このトカゲ野郎!」
「意外と物を知ってるな、獄卒風情が」
 ほんと腹立つ、こいつ。牛頭が古くから地獄の鬼を担ってきた一族なのは事実だが、『地獄の釜』が開いたあの日以来、現世に戻ってきた自分たちはごく一般の獣人と同じように生活している。いつまでも元の職場で差別される謂れはない。
 かといって、『それで新たな職が警官では、獄卒に変わりはないではないか』と言われればお仕舞いなのだが。
「今日こそ神殿に行ってもらうからな」
「用もないのに行く必要はない」
「あるって! 今日は六の日だろうが、祭事があるのに祭神がいなくてどうするよ!」
「どーせみんな勝手に屋台で焼きそば食べてるだけじゃん。俺、いなくていいじゃん。本殿は適当にぬいぐるみ置いておけば誤魔化せるって」
「ごまかせねぇーよ! ほんと、頼むから少しは居着いてくれよ! でねえと俺の面子も立たねえし、とっつあんの面子も立たねえんだって!」
「芋侍の面子など知ったことか」
 つーん。そんな擬音そのままの態度で、桂は不機嫌な顔を土方から背ける。桂が東方守護職につき、土方がその祭祇官についてから三年は経つというのに、ずっとこの調子だ。
 理由は明らかである。就任してすぐのころ、全く神殿に居着かない桂に業を煮やした土方は、獄卒時代のノリで桂を罠にかけ、全身呪縄で縛って本殿奥深くに放り込み監禁状態にしたことがある。
 三日、桂は我慢した。そしてブチ切れた。
 その身の半分を竜に変え、火を吐くわ吹雪を吐くわ雷を呼ぶわ蜃気楼で周辺の交通を大混乱に陥れるわ、暴れに暴れた挙句、新築の神殿を全壊させた。『逆鱗に触れる』とはまさにあのことだ。ぶっちゃけ、殺されないだけマシだったと言わざるを得ない。
 土方は一週間謹慎させられ、山ほど始末書と反省文を書き、万事屋のところで不貞腐れる桂の下に、十回は土下座しに通った。
 あれ以来、土方は桂に蛇蝎のごとく嫌われている。トカゲに蛇蝎のごとく嫌われているのだから、その嫌われようと言ったら半端ない。
 何を言っても『野蛮な獄卒』と否定され、何をしても『地の国育ちの芋侍』と馬鹿にされる。
 桂に嫌われているのは、全て土方に責任があることなのだから仕方ない。甘んじて受けよう。
 問題はあの万事屋にも嫌われているらしいことだ。
 いくらニート猫に見えても、その正体は西方守護職白虎明神。土方より位は高い。しかし、属する神殿が違うのだから、土方が万事屋に頭を下げる必要はない、はずだ。
 桂を迎えに行けば叩き出される。サボりがちな沖田の代わりに祭事表を届けに行けば塩を撒かれる。『いやあ、ドMの土方さんでなきゃあ、耐えられませんや』などと言われるが(誰がドMだ)、正直、しょっちゅう心が折れそうになる。
 それでも土方は、この職を離れる訳にいかなかった。
 ちらと横目で桂を伺い見る。相変わらず不機嫌丸出しの、子供のような表情で窓の外を睨んでいた。
 そんな顔をしていても、美しかった。いや、桂が美しいのは当然だ。竜神の化身である。人目を引く姿をしているに決まっている。

 それに、土方はもっと美しい桂の姿を知っている。

 あの日、常世と現世の境界が揺らぎ、『地獄の釜』が開いた日。自分たちが地の国から抜け出るには今しかない、この機会を逃せば我らは地獄の底で存在すら忘れられ、死するのみだ。そう近藤に誘われ、牛頭馬頭どもが地上に這い出た日。
 土方は、生まれて初めて空を見た。
 煉獄の赤黒い炎天井しか知らなかった獄卒たちが、初めて空を見た。
 黒い雨雲で覆われた天の中央に、真っ青な切れ目が走っていた。
 地獄と繋がり亡者の蠢く戦場の中で、その空の切れ目だけが白く清く神々しく輝いていた。
 その細い空を天駆ける、空の青よりも蒼い姿。
 鱗を白光にきらめかせ、玉虫の翼を広げ、この空は全て自分のものだと言うように、楽しそうに身を捻って飛んでいる。
 竜だ。
 牛頭馬頭たちは理解した。地獄の釜が開いたのは、あの竜の力だ。天神に匹敵する神通力で、世界をこじ開けたのだ。
 次々に膝を折る。泣き叫び、祈りを捧げる。地の底で永劫亡者を甚振り、血と悲鳴を糧に生きるはずだった自分たちに空を与えた竜へ、祈りを捧げた。
 感謝とは違う。崇拝とも違う。おそらく最も近かったのは、産声だ。人の子が産み落とされ、母に自分が生きていることを伝えるための、精一杯の産声。牛頭馬頭たちは竜に向かって産声を上げた。
 土方だけが、泣きもせず、膝を折りもしなかった。
 ただ見惚れていた。
 空の美しさに。空よりも美しい竜の蒼さに。
 それは獄卒が生まれて初めて見た、美しいいきものの姿だった。

 あの竜が桂である。攘夷戦争の終局、異形の天人たちとの条約締結のため、人身を解き竜の姿になった桂である。
 だから土方は東方祭祇官に志願した。大失態の責を負い、どれほどの罰を受けてでも、この職を手放しはしなかった。
 土方は竜に焦がれている。自分に生まれて初めて空を見せた、空よりも蒼い竜に焦がれている。
 長い信号待ちの間、もう一度、桂の横顔を見る。少し機嫌が直ったのか、眉根がゆるんでいた。
 今だ。
「……なあ、桂」
「なんだ、狗」
 ぐ、と怒声を飲み込む。今がチャンスだ、桂の機嫌を損ねる訳には行かない。耐えろ、耐えるんだ十四郎。気合を入れ直す。自分の頬が火照っているのが分かる。ひとつ咳払いをし、喉の調子を整えて。よし。
「あのよぉ。せっかくの祭事なんだからよ、今日辺り、その……ぱーっと参拝客に、あの、りゅ、竜身を……見せて、みたり……」
「あ」
「あ?」
 桂の声に助手席を振り向けば、そこにあるのは凛とした横顔ではなく、尻だった。
 助手席の窓から、桂が這い出そうとしていた。
「何やってんだ、てめぇはぁー!」
 慌てて捕まえようとしたが、僅かに間に合わず、桂はぬるりと窓の外に出て行ってしまった。
 どうする、追いかけるか、しかし信号もそろそろ変わるころだ。土方が躊躇っている隙に、桂は車の間を縫って走り、隣車線の前方へ……万事屋がいた。トレードマークのベスパに跨がった万事屋に話しかけ、二言三言。タンデムシートに跨がり、こちらを振り返った桂は、
 思いっきり、あっかんべーをしてきた。
 信号は青へ。パトカーよりも前方のベスパは、呑気なエンジン音を立てて走りだす。
 こんちくしょう。
 馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって。
 ふつふつと熱いものが込み上げてくる。それが怒りなのか、嫉妬なのか、この際どうでもいい。
 土方は赤色灯とサイレンのスイッチを入れる。アクセルを踏み込む。
「待てえええ、桂ああああ!」
 今日こそ。今日こそ自分に付き合ってもらう。土方必死の追跡が始まった。