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王子様と秋の空 [将棋]
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2009年5月25日

三番勝負 ブラインド将棋 後編

 棋士モノ第二部第三話。ぱっつあん大活躍。


(無理イイイイ! 無理ですって無理ですって、マジで無理ですってえええええ!)
(無理じゃない、桂だ。大丈夫、イケる。勝てる。俺を信じろ、新八くん。ビリーブだ、ビリーブミーだ)
(納得いかないネ、私にヤラせるアル。あのセクハラジジイ、絶対にぐっちゃぐちゃのヌッルヌルにしてやるアル! 私を信じろ、ヅラァ! ビリーブヨ、ビリーブミーヨ!)
 作戦タイムと称して、新八たち三人はホールの隅っこで小さく円陣を組んでいた。といっても、実際は新八の泣き言と要領を得ない桂の説得と神楽の自己主張なのだが。ちなみに銀時は、そばに体育座りの状態で転がされている。
(僕、アマ初段ですよ!? あの人、元プロの六段ですよ!? 銀さんが負けたんですよ!? 無理ですって、ほんと無理ですって! 神楽ちゃんのほうがなんぼか……!)
(それは駄目だ。それでは俺の作戦が成り立たない)
(作戦って何ネ!? 新型囲いアルカ!? 急戦殺法アルカ!? 私に伝授してみろ、見事使いこなしてやるネ、ヅラァ!)
 神楽は桂の首っ玉にかじりつき自分にやらせろと大暴れしているのだが、当の桂は全く意に介していない。視線すらやらず、がっくんがっくん揺れる上半身の中でまっすぐに新八を見ている。
(この作戦は、新八くんでないとこなせないのだ)
(何でアルカアアア! 私が居飛車党だからアルカアアア! 分かった、振り飛車指してやるアル、だからやらせろおおおお!)
(僕でないとって……なんで……)
(新八くんが一番弱い)
 ……分かってたけど、口に出して言われるとがっくりくる。じゃあ、私にやらせろと、再び神楽が騒ぎ出す。
(君が一番弱い。相手の手を読まない、というか読めないだろう。新八くんと対局してると、時々あまりに突拍子もない手を指すものだから、それが悪手なのか妙手なのか分らない時がある。ちょっとした才能だ)
(……すいません、全然褒められてる感じがしません)
(ああ、褒めてない。褒めるところがない)
 将棋やめようかな、僕。
(だが、今はそれが最大の武器だ)
(え……?)
(いいか、新八くん。相手の手を読むな。絶対に読むな。出来るだけノータイムで指せ。そうだな、10分切れ負けくらいのペースでいい。相手の手番ではできるだけ音を立てろ。駒に触れ。手を口に出して考えろ)
(え? え? 桂さん?)
「そろそろ作戦タイム終了でござるよー」
「あーとちょっとー」
「……じゃあ、あと十秒でござる」
 じゅーう、きゅーう、はーち……
(最後に、新八くん)
 ずいと桂の顔が近寄る。これをまともな時の銀時に見られたら、絶対殴られる。そういう距離に、新八は不覚にも顔が熱くなる。
(歩切れを狙え)
 何言ってんだ、この人。

 駒落ちは無し。ただし、新八は目隠し将棋ではなく盤を使って指す。新八は持ち時間一時間だが、岡田は30分。
「何、いつもはこれで指してるよ。ハンデにもならんさね」
 桂の申し出を岡田は全て聞き入れた。
 対局が始まってから、新八は桂の作戦通り指した。というか、指さざるを得なかった。少しでも相手の手を読もうと考え出すと、後ろに立った桂がこっそり背中を抓るのだ。それが強烈に痛く、しかも時間経過ごとにどんどん強さを増すものだから、読まずに素早く指さざるを得ない。さらに、途中から面白がった神楽が一緒に抓りだした。痛い。本気で痛い。多分、青アザだらけになっている。おかげで、もう盤面は中盤だというのに、新八は10分も使っていなかった。
 対して、岡田はすでに20分を使い、今も熟考中だ。小さく唸りながら、盲目の瞼に皺が寄るくらい強く閉じて考え込んでいる。先ほど新八が苦し紛れに指した金の打ち込みに悩んでいるらしい。
 歩切れを狙えという言葉の通り、新八はここに至るまで歩を殆ど渡していない。代わりに大駒は大抵渡してしまっている。
「……あ、そうか。歩が打てないんだ」
 口に出せ、という指示通り、気付いたことを呟いてみる。ぐぅ、と岡田の唸り声が大きくなった。
 今、岡田の歩があれば、合い駒で金はあっけなく止められてしまうだろう。しかし、それが叶わないなら今、合い駒に角や飛車を使わざるを得ない。それは新八に戦力を渡すことになり、劣勢になる可能性を含んでいる。
 なるほど、こういう意味か。大駒を渡した代わりに、歩や香車ばかりの自分の駒台をかちゃかちゃ弄り回しながら新八は考える。本来マナー違反だが、こうしろと言われているのだから仕方がない。というか、音立てるのやめると髪の毛毟って来るんですけど、この棋聖。
「……なかなかエゲツないでござるな、桂殿」
「ふんふん、ふんふふーん、ふふーんふーふーん……」
 河上の呟きを聞こえない振りして神楽と一緒に新八の髪の毛を弄っている。なんで『裸足の女神』歌ってんだ、この人。
「……8六桂だ」
「あ、はい」
 岡田の声に、ぱちりと駒を動かす。なるほど、金を放置してこちらの囲いを崩すつもりだ。えっと、こう来た場合の手筋は……
「いててて……」
 考えようとした瞬間に、桂の手が背中を抓ってくる。もう自玉に詰みがあるかとか考える暇がない。適当に駒台からつまみ出し、相手の玉近くに打つ。とりあえず攻めときゃなんとかなるだろう。
「えっと……6四香です」
「……チッ」
 岡田が小さく舌打ちをし、また考え込む。額にじっとりと汗が浮かび始めていた。
「似蔵殿。残り3分でござる」
「分ってるよ。……7三金だ」
「へ?」
 新八が上げた声に、びくりと岡田が身を震わせる。
「……うん? なんだい?」
「なんだいって……それ、上ですか? 右ですか?」
 7三へ動ける金は、7二金と8三金の二枚。どちらを動かせばいいのか分らない。
「え……ああ……いや、金打だ」
「あ、はい」
 玉の周りに金三枚。固いにも程がある。しかし、重要なのはそこではない。
 岡田が崩れてきている。先ほどの銀時のように、次第に自分の駒を見失い始めている。
 つまり……勝てるかもしれない。
 岡田の代わりにチェスクロックを押し新八の手番。背中におぞましい指先が這い寄る気配を感じ、とりあえずまた駒を進める。10秒も経過していなかった。
「3二飛です」
 チェスクロックを押す。カチカチと秒針は進み、岡田の持ち時間は残り一分を指した。
「5二歩だ」
「はい……あ」
「あ」
「あ」
「あ」
 新八が岡田の駒台に指を伸ばした瞬間、場の全員から間の抜けた声が上がった。岡田と、桂を除いて。
「……なんだい?」
 怪訝な色をにじませ、岡田が口を開く。
「無い駒を指すことは出来んな」
 桂の声には、明らかに笑いが含まれていた。

「イベントだとよくあるんだ、初心者相手に目隠し将棋。これがまあ、負ける負ける。とんでもない手を指してくるから、読み筋が全部ひっくり返るし、駒落ちなのを忘れたりもする。しかも、相手が読み上げる手が間違ってたりする。普通の対局より疲れるな、あれは」
「……僕、初心者ですか」
「ヘボには違いないアル」
 日の落ちた歌舞伎町は駅の反対側から吐き出された人間たちでごったがえる。人が多すぎて、町には不似合いな新八や神楽のような少年少女も、桂のような美貌の有名人も、その中に埋もれてしまう。
 もちろん、がっくりと落ち込んだままの白髪頭の男だって埋もれてしまうのだ。
「銀ちゃん、何チンタラしてるネ。キリキリ歩くアル、置いてっちやうワヨ!」
「お母さんか、お前は。……いいよ、お前ら先帰れよ。銀さん、ちょっと風俗寄って行きます」
「アンタ、何で自信取り戻そうとしてんだよぉ! つーか、よく桂さんの目の前でそういうこと口に出来るな!」
「いいんだよ、もー! 忘れてくれよ、俺のことなんかほっといてくれよ! 俺なんかどーせヘタレで負け犬でチキンでバカで無能で役立たずのマダオなんだよ! こんな俺に誰かを幸せにする力なんかねえんだよ、ダウンタウンの片隅で酒だけを友に一人で朽ちていくのがお似合いなんだよぉ!」
 そう喚くと本当にビルの合間に蹲って膝を抱えだす。面倒くさいな、このオッサン。
「ドサクサ紛れになんかハードボイルドな人生選択しましたよ、この人」
「こんなこと言ってるアルヨ、ヅラァ」
「俺は気にしてないのだがな。結果的に無事だったし」
「いや、結果的にとかそういうことじゃないんだと思いますよ」
 銀時が負けて、桂を守れなかったことは厳然たる事実だ。しかも、これ以外能がないと言い切る将棋で。銀時にとってはアイデンティティの崩壊に近い。
「銀時、出て来い。俺は気にしていないから」
「……いいの、もう。ほっといて。俺なんか忘れて。幸せになって。お墓の前で泣かないで」
「何が墓だ、バカ。俺が墓の前で泣くのは先生にだけだ」
 ぐいぐいと桂が銀時の腕を引くが、ぴっちりとコンクリの壁に挟まった銀時はびくともしない。押し問答に呆れ果てた新八と神楽を先に帰し、桂は一人で銀時を説得し始めた。傍目からは酔っ払いの世話に見えるだろう。桂は屈み込んで、銀時と視線を合わせた。
「あのな、将棋は10局やって10局勝てるものではないぞ。負けるときには負けるのだ。それがたまたま今回だけだった話だ」
「……負けられない戦いってのがあるでしょ」
「心配するな。貴様がここ一番の大勝負に弱いことなど、俺が一番よく知っている」
 あと一局負けると昇級がなくなるというときに限って負けてたからな、貴様。過去の事実を持ち出され、再び銀時はコンクリートと同化し始める。
「ごめんなさいね、ここ一番で詰めが甘い男で」
「うむ。とうの昔から承知の上だ。だから謝らなくてもいいぞ」
「じゃあ、何で俺にあんな勝負任せたんだよ。お前がやればよかったじゃん。ヅラは追い詰められると実力出すタイプじゃん」
 自分から言い出したくせに何を言ってるのか、と自覚はしているが、口をついて出た言葉は止めようがなかった。自分が桂に甘えているのだというのは分っていた。
「銀時が来てくれたからだ」
 桂なら自分を慰めてくれるだろうと分っていた。
「俺のあとを追いかけて来てくれたのだろう? 心配して、俺を守ろうとしてくれたのだろう?」
「……まあね」
「ありがとう、嬉しかった」
 だから、自分はずっとこいつが好きなのだ。
「……まず、アレじゃねえか。お前が一人で勝手に行っちまったのが悪いんじゃねえか」
「ああ、そうだな。悪かった」
「分っただろ。あいつら、ヤバいんだからさ。軽率な真似するんじゃねえよ」
「うむ、心得た」
「心配だからさ」
「うん」
「お前になんかあったら、俺、頭おかしくなる」
「うん」
「俺のこと、頼っていいから。俺がやってやるから」
「……そうか、ありがとう」
 あれ? 俺、乗せられてる? まあ、いいや。可愛いヅラが見れたし。
 桂に手を引かれ、ビルの間から抜け出す。そのまま手を繋いで歩き出した。並んで手を繋ぐなど、小学生のころ以来だ。あのころはこいつと手を繋ぐだけでこんなにドキドキするようになるなんて思ってもいなかった。
「晋助捕獲作戦は任せたぞ、銀時」
「家出猫かよ。……まあ、収穫はあったしな。しょぼいけど」
 岡田から聞き出した場所はとあるバーだかカフェだか、新宿にある店のひとつだった。その店にいる女なら高杉さんの居場所を知っているよ。口頭で伝えられた地図を記したメモが、今、銀時の手の中にある。
「そこにいけば晋助が捕まるのだな」
「……そう簡単にいけばいいんだけどな」
「? 何か不味いのか」
 うん、まあ、その。ごにょごにょと口の中で言葉を転がす。なんとも言いにくい。桂の目の前で言うことに憚りがある。そう、風俗よりも。
 店の場所が二丁目に程近いのだ。確かここは、ビアン系のバーが並んでいた辺り。銀時には縁のない場所だったか、知識としては知っている。
 ……こんなことを桂に教えたら、晋助をそんないかがわしい場所に置いておくなど先生似申し訳が無い今行こうすぐ行こうとなるに決まっている。
 桂をつれて二丁目。悪い冗談だ。桂に変な噂が立っては先生に顔向けできないし、あそこには銀時の顔なじみも多い。仮に一緒に行くにしても、慎重な準備と入念な根回しが必要だ。
「とりあえず、今日はもう遅いからよ。神楽たちと夕飯でも食って……」
 そこまで言って、前方から人ごみを掻き分け走ってくる小さな姿を認める。
「銀ちゃあーーん、ニュースアルヨーーーー」
 先に帰ったはずの神楽だ。そのあとをぜえぜえ言いながら新八が続いてる。
「なんだよ、お前ら。先に帰ってろって言っただろうが」
「銀ちゃんには言われてネーヨ、さっきまでマリアナ海溝沈んでたマダオが保護者面スンナヨロシ。それよりも大ニュースアルヨ」
 ほら、早く早く。神楽は新八を手招いて、その手に握り締めてた紙切れを奪い取った。ぐいと銀時の胸元に突きつける。
「ぎっ……銀さんっ……! あの……さっき! 姉さんが来て……それを……!」
 しわくちゃになった紙切れを広げる。またもや、何かのフライヤーのようだ。
「……げ」
 イベントタイトルは置いておく。なんか、男性社会だの女性らしさだのフェミだの、それっぽい例のアレだ。ゲストを招いてのトークショーや交流イベントの一種だろう。
 フライヤーに書かれていた地図は、銀時の手の中の地図とピタリ一致した。