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2009年7月21日

ステーシーの美術・リテイク

 坂桂。

※要注意内容です。


 鬱、グロ、死にネタ、女体化、パラレル、全ての要素を含みます。
 大槻ケンヂ『ステーシー-少女ゾンビ再殺談』、及び筋肉少女帯『ステーシーの美術』に登場する架空のモンスター『ステーシー』が元ネタの作品となります。元ネタの設定が何の説明もなく出てくるのでお気をつけください。
 また、『ステーシー』の内容ネタバレになりますのでご注意ください。

 要は、私が『ステーシー』が大好き過ぎて書いたものです。

 高桂編『再殺部隊』、銀桂編『おもちゃやめぐり』、坂桂編『リテイク』。
 出来るだけ、順番に読むことを推奨。『ステーシー』を知らないという方向けの設定はこちら



 坂本はそのこじんまりとした家に住まう一人の大人と三人の子供の家族が好きだった。くさくさして煤けた世間から隠れるように、ひっそりと身を寄せ合って暮らしているあの奇妙な四人の家族が好きだった。白髪頭の少年のひどいくせっ毛には親近感を抱いていたし、剣呑な目つきの少年の人見知り癖もいかにも子供らしくて好きだった。いつもおっとりと優しげで、それ故に町内会の面倒ごとを全部押し付けられては貧乏くじを引く先生も好ましかった。なによりもつやつやした髪の長い少女の美しさはこの田舎町で際立っており、坂本は何度も趣味のカメラのモデルを頼んだ。
 笑ってくれと言うと困ったように眉をひそめる。
 簡単だ、目元から力を抜いて唇の端を引けばいい。そう言ってもやはり困ったようにぎこちなく顔の筋肉を引きつらせるだけで、桂はなかなか上手く笑えない。子供らしくないな、と思った。だがそれは思い過ごしでただ単に桂は不器用なだけで、本当になんでもないような時、例えば可愛らしい子犬や子猫を見つけた時、元は坂本の部屋に転がっていたお気に入りのぬいぐるみを抱きしめる時、確かに桂の表情筋は緩み、眼差しは柔らかくなり、ふんわりと笑う。その瞬間を狙って坂本はシャッターを切る。しかしカシャリという機械音にビックリしてしまうのか、いざフィルムを現像すればそこにはなんとも言えない中途半端な表情の桂ばかりがいて、それはそれで可愛らしいが勿体無いなあと坂本は思うのだ。
 そのように好ましく思っていたからこそ、坂本は先生がステーシーに食い殺されたという知らせを聞いてすぐさま家に駆けつけた。葬式の準備をしてやるつもりだった。居間でポリバケツに入った残飯のような(いや、まさしく残飯そのものだ)死体の番をしていたのは銀時一人で、晋助と桂は、と尋ねると暗い瞳で奥の部屋を指差した。近寄り聞き耳を立てればその理由はすぐに分かった。
 あはははははきゃはははははあははひゃはきゃああははは
 ニアデスハピネスの初期症状だ。唐突に襲ってくる躁状態に翻弄され、けたたましく笑い続ける。側にいるらしい晋助は大丈夫だよ大丈夫だよと繰り返しているが、何がどう大丈夫なのかさっぱり分からない。居間の銀時はまだポリバケツを睨んでいた。
「ヅラ、もうすぐ死ぬんだよ」
 ぼそりと呟く。
「あいつ、ステーシーになっちまうんだ。死んで、起き上がったらゾンビになって、よだれだらだら溢しながら人を食っちゃうだぜ。先生を食べちゃったタバコ屋の姉ちゃんみたいにさ。あの姉ちゃん、親父さんも食っちゃったから寿司屋の若大将に殺してもらってたよ。出来てたんだな、知らなかった」
 都市部ならいざ知らず、こんな山間の町では再殺部隊もすぐには来てくれない。自然、再殺権を持つ親族や恋人がステーシーを殺すことが多くなり、おかげで『あらまあ、あの人、あの子と付き合っていたのねえ』などという死者の恋の話題でおばさん連中の話題は持ちきりだった。
「初めて聞いたのぉ」
「何を」
「ヅラがあないにケラケラ笑ろてるの、初めて聞いたぜよ」
 銀時は涙でぱりぱりに引きつった頬を無理やり引き上げて笑った。
「けっこう、かわいいだろ?」
 葬儀屋へ電話してから坂本は一度自宅に戻り、ありったけのフィルムと銀塩カメラとテープとビデオカメラをカバンに詰めて銀時たちの家に向かった。居間では黒スーツの葬儀屋が銀時の前に値段表と電卓を突き出して話し合っている。ここ数年、非常に多くのお式を挙げておりまして、新プランもたくさん出ております。特にこのお手軽ファイヤープランはお値段もお手ごろ、準備もスピーディと大変好評でして。要は食い殺される人間が多すぎて、棺桶の準備などが追いつかないのだ。香典の額もバカにならないものだから、ステ死した人間の葬式には金ではなく食べ物をもって行き、香典返しもしないという不問律がいつのまにか出来た。ステーシーになった娘は木曜のステゴミの日に出されるので葬式自体がない。敢えて言えば再殺が葬式だ。
 銀時は、いいです、それでいいです、お願いします、と独り言を呟くように答えていた。ちょろい客だと思った葬儀屋がけたたましい桂の笑い声を聞き付けステーシー特急再殺パックのパンフレットを差し出すに至ってとうとうブチ切れ、契約書に殴り書きのサインをしてた叩き出した。
「金時。ピクニックばぁ行くぜよ」
 タイミングを誤った坂本も殴られた。しかし、ことは一刻を争うのだ。桂はもう、いつ死ぬのか分らない。
 おにぎりにサンドウィッチ、味の濃い唐揚げ、玉子焼き、タコさんウィンナー。陸奥が生きていれば作ってもらえたのにと思いつつ、坂本は朝から台所に立って弁当を作った。
 桂と同じようにめったに笑わなかったあの少女は、ある朝、つるりと剥けたゆで卵を見てけたたましく笑い出した。陸奥がそのような笑い声をあげることなど、坂本はそれまで一度も見たことがなかった。一頻り笑いふと正気に返ると、彼女は何事もなかったように通学カバンを持って家を出た。
 陸奥はそのまま採石場へ向かい、破砕機に身を投げて赤い泥になった。
 自分に再殺の権利を与えなかった彼女を彼女らしいと愛しく思うし、同時に憎たらしくて仕方がなかった。もっと笑顔の陸奥を見ていたかった。彼女が一度死んでから蘇り、うろうろと人の肉を食いだすまでの短い間、彼女の幸せな笑顔をたくさん見て覚えていたかった。もう二度とあんな失敗はしたくなかった。
 よく晴れる季節だった。暑くもなく寒くもなく、ピクニックには絶好の季節だ。
 無理やり連れ出した公園で桂は楽しそうにくるくると踊った。あははうふふけらけらとニアデスハピネスの笑い声を上げ、花と戯れ風をまとい、跳ね回る仔ウサギのようにくるくるくるくると踊った。晋助や銀時の手を取り、丘を駆け下り、すてんと転んでは楽しそうに笑った。
 坂本はそのすべてをフィルムに収めた。古いライカで銀塩フィルムに焼付け、おんぼろの8mmで短い映画を取った。カメラはどこまでも桂を追った。生涯で最も美しい十五の少女の輝く笑顔を永遠にそこに留めた。
 ニアデスハピネスは神様の素敵な気まぐれだと思う。愛しい少女が人食いゾンビになるまでのわずかな間、彼女を愛する人間は彼女の最高の笑顔を見ることができる。何を言ってもうふふうふふと笑う少女に、悲しみをぶつけ、暴力を振るい、エゴを押し付けて、それでも彼女は全てを受け入れて幸せに笑う。
 幸せよありがとうあなたに会えてよかった殺してちょうだいね必ず私を殺してちょうだいねだって私はあなたのものなんだもの。
 ああ、そうだとも。もう君の全ては僕のものだ。君のつやつやとした頬も、潤んで輝く瞳も、血のように赤い唇も貝細工並べたような歯もうなじのふわふわした後れ毛も膝裏にぽつんと場違いにたたずむほくろだって僕のものだ。
 君はいつまでもこのフィルムのなかで笑い続けるんだ。13歳から18歳のこの世で最も美しく輝く生き物たちが、泡を吹いてひっくり返って、起き上がったら優しい家族たちの喉に噛み付いて、血をすすり臓物を咀嚼するような、こんな狂った世界から切り離されて、君はこのうすっぺらなセルロースのなかでいつまでも幸せな日々を過ごすんだ。
 毎朝、僕はこのフィルムを再生しよう。君の写真を玄関に飾ろう。君の全身をシーツにプリントしたっていい。君の笑顔におはようをいって、君の瞳にいってきますをいって、君の唇におやすみのキスをするんだ。
 それくらいは許されるはずだ。僕らはもうとっくに大切なものを失い過ぎているのだから、それくらい許してくれたっていいじゃないか。いいじゃないか! そのくらいそのくらいいいじゃないかあ!
 くそったれくそったれ神様見ているのか見ているんだろうそして腹を抱えて笑い転げているに違いあるまい死んじまえお前なんか。何でこの子が死ななきゃいけない、何でこの子が死んでステーシーにならなきゃいけない、何であんなおぞましい化け物にならなきゃいけない。あんなにきれいなのに、あんなにキラキラしているのに、あんなにいとしいのに。チクショウお前の心は冷え切っているんだ、何万年も何千年もたくさんの命をゴミみたいに扱ってきて、一つ一つの輝くものの価値が分からなくなってしまっているんだ、だって分かるはずじゃないか、あの子が死んじゃいけないことくらい見れば分かるじゃないか!
 お前に教えてやる、どれだけあの子が可愛かったか、どれだけあの子が美しかったか、どれだけあの子が悲しかったか、俺が俺がお前に教えてやる! そしてお前は自分の罪深さを自覚して首を吊ればいい! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、死んでしまえ!!!!!

 全てを叩きつけるように、何度もシャッターを切った。フィルムの封をもぎとって投げ捨て、震える手に苛立ちながら詰め替え、一秒たりとも1/8秒たりとも1/60秒たりとも1/1000秒たりとも彼女の笑顔を取り逃すことのないように。
 涙で何も見えない己の目の代わりに、レンズとフィルムで彼女の全てを焼き付けた。