2007年07月20日

Princess Bride! Act.3

 お久しぶりです現代パロラブコメ朱元編。
 なぜか、ツンデレ×ツンデレに。


--君の血筋が犯罪者の血で汚れずにすんで、よかったじゃないか。
 頭に血が上り過ぎて、目の前が真っ白になった。気付けば、男の頬を思いっきり殴っていた。
 あんたなんか嫌い。大嫌い。絶対結婚なんかしない。
--そうも行かない。君はお屋形様には逆らえない。私が断ればともかく。しかし、生憎と君をもう二度と手放す気はないんだ。
 嫌われてやろうと思った。大学に入ると同時に本家を出て一人暮らしを始め、今までの服をすべて捨て、髪も茶色く染めた(それでも、多少明るくするのが精一杯だった自分が情けない)。ニュース以外のテレビを初めて見た。マンガを初めて読んだ。酒も飲んだし、タバコも始めた。往壓に頼んで競馬場へ連れてってもらおうとしたことさえある。
 それでも、男が元閥を厭うことはなかった。
--君をもう二度と手放す気はないんだ。
 全くその言葉の通りだった。


 うっわー、制服似合わねぇー……
 図書館の前できょろきょろしているアビを見つけた第一印象はそれだった。似合わない。いっそスーツのほうがいいかもしれない。型がいくらブレザーでも、若々しいラインは彼の雰囲気にあまりにもそぐわない。というか、すでにズボンの裾が短くなっているんですけれども。まだ身長伸びてるのか? 2m行くのか?
 ふと元閥を見つけたアビは、ぱっと顔を輝かせ、でかいスポーツバッグをばたばたさせながら走ってくる。でかい犬、というより、熊の突進の方がイメージが近い。あまりの勢いに、思わず一歩引く。
「会えた」
「……会うだろう、そりゃ」
 待ち伏せされてるんだから。
「今日も本を借りるのか?」
「お生憎様。今日は返却だけ。買い物に行く」
「一緒に行っていいか」
「……なんで?」
「俺も買い物をする」
「何を?」
「何かを」
 へこたれない。若さゆえの突進力というやつか。
「勝手にしな」
 歩きだした元閥の後ろを、ちょこまか、ではなく、のしのしドタドタとついてくる。何を買う服か本か腹が減っていないか今日の靴はかわいい。必死にご機嫌を取ろうとしているのだろうが、結局は子供だ。話す内容も拙いし、語彙も少ない。しかし、それが妙に微笑ましくて、知らぬうちに一つ一つの言葉に笑顔で頷いていた。ひとつ元閥から反応があるたびに、ぱあと表情を輝かせ、次は何を話すかと言葉を探っている姿を、可愛いとすら思う。
 しかし、その温かい気持ちも中央通りに出た途端に一気に冷え込む。
 構内で唯一、一般車両の乗り入れが許されているそこにはよく学生の車が停められているが、その車は学生のものではない。今時、わざわざこれ見よがしにガルウィングの高級車を乗り回しているようなバカは、元閥が知る限り学内には存在しない。思い当たる節と言えば……
「どうした、元閥?」
 立ち止まり表情をしかめる元閥の顔を、いぶかしげにアビが覗き込む。その目の前で、時代遅れのガルウィングが上に開いて行く。中から出てきたのは、これまた時代遅れなごつい仕立てのスーツの男だ。何年たっても趣味が変わらない男だ。
「随分、毛色の変わった遊び相手じゃないか。江戸元閥」
 上から物を言うところも変わってない。
「……何の用です」
「お屋形様に呼ばれた。新しい会社の人手が足りないとな」
「コピー係ですかね」
「コピー係を役員待遇とは、景気がよいのだな。いいことだ」
 ああ、くそ、本当に頭に来る。ぎりぎりとバッグの紐を握り締める。後ろでアビが何かを言っているが、頭に血が上った元閥の耳には届かなかった。
「で? コピー役員さんがなにをしに?」
「デートだ」
「イヤ」
「……即答だな」
「イヤ。帰れ。京都帰れ吉野に帰れ二度と東京に来るな引きこもってろ帰れ、かーーえーーれーーーー!」
「……っ! だから! 東京にきたのはお屋形様に呼ばれて……! ああ、君はいつでもそうだ! ほら、我がままを言うんじゃない!」
「いやー! 離せ、変態!」
 ぐいと腕をつかまれ、車に連れ込まれそうになる。元閥の足がたたらを踏んだ瞬間、
 視界の端から、ブレザー生地に包まれた太い腕が伸びてきた。
「……離せ、変態!」
「……ぐおっ!」
 アビが元閥を引き寄せ、さらには男の腹に蹴りを入れる。急所に入ったか、腹を抱えて蹲る男を尻目に、ミュール履きの元閥を両腕に抱きかかえると、アビは逃走し始めた。
 100mも走るまで、元閥は呆然としていた。ようやく我に返る。まだアビは走り続けている。
「あ、アビっ!? 何してんだ、お前!」
「誘拐犯をやっつけた」
「違う、バカ! あれは……!」
「ヤクザだろう。顔に大きい傷があったぞ」
「……ああ、そうじゃなくて……」
 思わず顔を覆って、ため息をつく。
「あれが、儂の婚約者だ」
 ぴたりと、アビの足が止まる。


「……強引だし、成金趣味だし、センスないし、偉そうだし、趣味悪いし、センスないが、悪い人じゃない。センスがないだけで」
「三回も重ねるほどないのか」
「だってお前! 今時、車がガルウィングの赤いスポーツカーって! 服がダブルスーツって! 髪形、オールバックって! バブルか!? 頭の中バブルで止まってるのか!? しかも別にバブル世代じゃないんだぞ、就職氷河期後半世代だ! 何に憧れてるんだ、あのバカ松は! これだから関西人は! 昔のみこ兄ちゃんはあんなじゃなかったのに!」
「……みこ?」
「下の名前が命だから、みこ兄ちゃん」
 カバンをアビに持たせ、キャンパスをふらふら練り歩く。どこに行く訳でもない。
 朱松命は母方の親戚だ。幼いころはよく一緒に遊んだ。朱松は元閥に優しかったし、元閥も兄のように慕っていた。
「……大きな、傷があっただろう?」
 頬にすっとバツ印を描く。あんな傷があった上に、ダブルのスーツでスポーツカーでオールバックでは、どっからどうみてもVシネマの住人だ。
「あれは儂のせいだ」
 沈んだ元閥の声に、アビはためらう。悲しい事故か何かかもしれない。
「儂が五つの時、庭の柿を盗み食いしようとして、木から落ちて下敷きにした」
「……意外と活発だったんだな」
「血がたくさん出た。すぐ病院に行けばよかったのに、平気だと笑っていた。儂が、自分のせいだと泣くのがいやだったんだろう。親にも隠れて、絆創膏だけ貼って、無理をして笑って、あんな大きな傷が残った」
 その時のことを思い出すと、元閥は少し悔しくなる。懐かしくて胸が痛くて、悔しくなる。
「今のバカ松は嫌いだけど、あの頃のみこ兄ちゃんは嫌いじゃない」
「……元閥?」
 俯いて足を止めた元閥の様子を、そっと伺う。泣いているのかと思ったのだ。
「……見つけたぞ、江戸元閥!」
 なんでフルネームで呼ぶかな。まだ蹴られたところが痛むのか、腹を抑えたままの朱松がよろよろと建物の陰から現れる。思わずアビは身構え、元閥は小さくため息をついた。
「こ、この私に手を上げるとは……! 暴行で訴えてやってもいいが……っ、げ、元閥が私についてくるというのなら……!」
 脂汗だらだら流しているが、大丈夫だろうか。肋骨の一本も逝ってるのではなかろうか。
「うるさい! 元閥を無理やり攫おうとしたのは、あんたじゃないか!」
「だからって、蹴りいれるか普通!? というか、お前なんだ!? 高校の制服着てるが、どう見ても私と同い年くらいだろう! コスプレか!? 江戸元閥! そんな変態からは離れてこっちに来い!」
 元閥は盛大にため息をついた。何で自分の周囲にはバカな男が集まるのだろう、往壓以外。
「アビ、カバン」
「だが……っ!」
「いいから。すまないね、買い物はまた今度にしようね」
 犬を撫でるように、ぽふぽふと頭を叩いてやる。アビが渋々差し出したカバンを受け取り、元閥は朱松の側まで歩み寄った。
「……大丈夫ですか?」
「うるさい! 来い!」
 朱松が、ぐいと元閥の手を取り歩き始める。アビはそれを見ているしかなかった。元閥が少しだけ振り返って、手を振ってくれた。


「全く……あんな野蛮人と付き合っていると知れたら、お屋形様がどんなに悲しむか……」
「……ごめんなさい、みこ兄ちゃん」
 ぐぅと朱松が喉を詰まらせる。
「……変な呼び方はやめろ」
「申し訳ありません、バカ松様」
「汚い言葉を使うな、江戸元閥!」
「……それ、やめてもらいたいんですけど。いつになったら、慣れるんですか? 今の名前……」
 元閥を『もとの』と呼んでいた人間は、すっかり少なくなってしまった。そう呼ばれていたのは、母の実家に預けられていた幼いころだけ。東京に呼び寄せられ、往壓と婚約してからは、皆『元閥』としか呼ばないようになった。
「やかましい、どう呼ぼうと勝手だろう」
「そうですよね、バカ松様」
 怒鳴ろうとしたのか大きく口を開け、怒鳴っても意味はないと気づいたのかぱくぱくと二度三度ためらい、結局朱松は口を噤む。代わりに、ぐいと元閥の手を引いた。
「……汚い言葉はおばあさまが悲しむぞ、もとの」
「……はい、みこ兄ちゃん」
 握った手のひらが汗ばんでるのが気持ち悪いような、おかしいような。未だ手を握るのが精一杯の幼なじみに引かれ、元閥は随分と昔を思い出していた。

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