2007年04月27日

かむながら

 どこかに組み込もうと思っていたがどうも浮きそうだ&今書いてるものが結構遅れそうだ、ということで、突発伝奇ネタ会話劇。江戸元と往さんがくっちゃべってるだけです。
 こういうのを書けるのも、前島聖天の設定がはっきりしない内だけですから……しかし、境界ネタ好きだな。江戸元自身が境界の人だからでしょうか。


「そういや、お前の髪も薄いな」
 唐突に言われた言葉に、元閥は眉をひん曲げる。
「儂ははげた覚えはありませんよ。はげるなら、往壓さんが先でしょう」
「俺だってはげるつもりはねえよ。そうじゃねえよ、言葉が足りなかった」
 色が、薄い。
 アトルほどではないが、黒くもない。濃い鳶色というのか、日に透けるとところどころが金を帯びる。元閥の容色に難をつけるとしたら、この一点のみだろうが、彼が持てばそれは逆に常人とは違う美しさにも成り得ている。
「ああ、そうですね。まあ、多分どっかの血が混じってんでしょ」
「……神主なのにか?」
「神主だからですよ」
 退屈そうに房に束ねた髪を弄ぶ。社の縁側から足を出してぶらぶらとしている時点で、十分に退屈そうだが。
「ここはミサキですから」
「江戸のど真ん中じゃねえか」
「……往壓さんはもう少し物を知っていらっしゃると思っていた」
 なんだその言い草は。むっと眉をしかめ、はっと思い出した。
「ああ、そうか。江戸が出来る前か」
「そうですよ。城から東は大抵埋め立てて作られた土地だ。だから、雨が降るとぬかるみだらけでしょう?」
「じゃあ、ここの際まで海が来てたってことか」
「むしろ、ここまで海だったんでしょうね。鳥居がある辺りが洞の入り口で、社が奥にあると考えれば筋が通る。ここの水も海水だったんじゃないですかねえ」
 なるほど、最初から地下に作られたわけではないのだ。すでにあった洞に被せるようにして土地を広げた結果、地下になった。
「ちょっと高く作られてるでしょう? 多分、満潮の時はここまで水が来たんですよ。様式も古いですしね。下の艀は、江戸が出来てから作られたもんでしょうね」
「それと異国の血となんの関係がある」
「だから、海の際の神社なんですよ。ミサキです。ミサキは異なるものとの境界だ」
 分からん。頭を捻る往壓に、元閥は、ふ、と息を吐いた。
「小笠原さんはこれで分かりましたけどねえ」
「うるせえな。うちの専門は儒学だったんだよ」
「客人神って知ってます?」
「追い出された神だ」
「あと、海や山の向こうからくる神。アビみたいな山の民……漂泊者、マレビトも客人神だと考えられてた。聖天さまも元は印度の神ですし、北に伝わるアラハバキという客人神は鍛治の神、鍛治といえば……ムカデだ」
「客人神を祀っている……?」
「というよりも、客人神をお迎えする社、ってことでしょうね」
 ニヤリ、と元閥が笑う。
「古い時代、人々の行き来は今よりずっと少なかった。ひとつひとつの集落の中で婚姻が繰り返され、因習が受け継がれ、ゆっくりと腐っていく。マレビト、客人神は……その狭い世界に新たなものを齎し、世界を存続させる神だ」
「…………?」
 まだ頭を捻る往壓に対し、元閥は呆れ顔で傍らの煙草盆から煙管を取り上げ、火をつけ一つ大きく吸う。ぽっかりを煙を吐いてから、言葉をつなげた。
「だからね。ここは、余所者の子種をもらう場所だったんですよ」
「……はぁ!?」
「巫女は神の嫁。ならば、神の種を授かって子を為す。マレビトは神。なにかおかしいところでも?」
「じゃあ、異国の血ってのは……」
「どっか異国の船が難破して、流れ着いたんじゃないんですかぁ? 外つ国であればあるほど尊いとでも思ってたのかもしれませんねえ」
 かりかりと頭を掻く。
「アビだって知ってた、これくらい」
 そりゃ、自分の一族に関わりあることだ。知っているだろう。
「……ちょっと待て。じゃあ、アビがここにいるのは……」
「ああ、結果としちゃそうなりますね。面白いもんだ」
 気にしてなかったのか。
「まあ、来るやつ来るやつ相手にしてた頃もあったんでしょう。今じゃ、往壓さんたちしか来ませんけど」
「……相手にするわけじゃねえだろうなあ」
 うふふ、と、悪戯っぽく笑う。
「さて。小笠原さんは異国の知恵を持っているから、まさに客人神だ。アビもマレビト。往壓さんも……異なる国へ行って帰り、異なる力を持つ客人神だね」
「……いや、ちょっと待て。お前じゃ子種は受けられねえだろう」
「強い御霊を持つものと契ることで、その力を取り入れるってのはよくあることですよう?」
「……いやいやいやいや」
 じりと腰を引く往壓の姿を見て、けたけたけたと元閥が笑う。
「まあ、どうしても往壓さんの力が欲しくなったら考えますよ」
 煙管の灰を落とす、かん、と高い音が洞に響く。
「子種を取られた客人神は、殺されるって話もありますね」
 うふ、と笑う唇に、往壓はぞっとする。……恐怖とそれ以外の感情に。

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